イベントレポート「ミュゼオバトル」in アンドレアス・グルスキー展

「みる、考える、話す、聴く」を考える新しいアート鑑賞イベント

In 特集記事 by Tsuyoshi Yamada 2014-02-19

私たちKansai Art Beatは、ユーザーの皆さんが集い、共にアート鑑賞体験ができるイベントを2月7日(金)に開催しました。その名も「ミュゼオバトル」。京都造形芸術大学 アート・コミュニケーション研究センター(ACOP)とタッグを組んで、国立国際美術館で現在開催している「アンドレアス・グルスキー展」を舞台に、本イベントは行われました。 アンドレアス・グルスキー(1955年–)は、ドイツの現代写真を代表する写真家で、本展は彼にとって日本初となる大規模な個展です。

この写真展において繰り広げられた「ミュゼオバトル」とは一体どんなイベントなのでしょうか?アート鑑賞イベントという普段なかなか体験する事のない経験によって、参加者は何を感じ、何を考えたのでしょうか?当日のイベントの様子をお伝えします。

今回のイベントは、平日という事もあり、日の暮れかかった夕方に開始しました。
夕暮れ時の美術館へ続々と参加者が集まってきます。いよいよイベントの始まりです。

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今回、ファシリテーターにお迎えしたのは、ミュゼオバトルの考案者で、アートの「対話型鑑賞」について研究・実践をされている平野智紀さん。そして美術鑑賞プログラムを実践されているACOPの北野諒さん・原泉さん・松本光史さん・深見悠介さんです。

「対話型鑑賞」とは、「みる」「かんがえる」「はなす」「きく」という4つの行為を基本にしながら、美術の知識だけに頼らず、みる人同士の対話を通して、作品の理解を深めていくための美術館や作品の鑑賞方法です。「ミュゼオバトル」は、そういった要素を取り入れた新しい企画で、鑑賞者が展覧会でみた作品の中から一番いいなと思った作品について、鑑賞者同士でプレゼンし合い、「もう一度見に戻りたい!」と思える作品をひとつ選ぶ、という鑑賞体験ワークショップです。

平野さんからの「ミュゼオバトル」についての説明に、「バトルって、いったい何をするんだろう?」と疑問に思っていた参加者も、なるほどと納得した模様。

参加者には事前の応募申し込みの時に、「あなたがこれまでに美術館・ギャラリーでみた作品の中で、いいなと思った作品」について140文字以内で、facebookTwitterから投稿してもらっていました。この段階から当日の鑑賞体験のウォーミングアップは始まっていたようです。

ここで国立国際美術館の主任研究員の植松由佳さんからもお話を伺いました。

アンドレアス・グルスキーという作家や展覧会の注目すべきポイントについて説明していただきました。展覧会を作家と共に作り上げたご本人によるお話は、参加者にとって展示をみる上で重要な手がかりになりそうです。

この後、参加者は4つのグループに分かれます。
友人と連れ立って参加された方も、ここではバラバラになったので少々緊張気味。

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グループには一人づつACOPのファシリテイターがついて先導してくれます。彼らは、日頃からこういった活動を通して対話型の美術鑑賞教育を学んでいるので、ファシリテーションも慣れたもの。初対面で少し緊張した面持ちの参加者たちを、和やかなムードにしていきます。

さあ、準備も整ったところで、ここから鑑賞タイムのスタートです。

「展示室で作品を鑑賞して、そこで好きな作品、気になる作品、よくわからない作品、何でもいいので、あなたが心に残った作品を一点選んできてください」平野さんからはそんな言葉が投げかけられました。参加者はそれぞれいったいどんな作品を選んでくるのでしょうか?

作品を鑑賞する参加者は、はじめに展示室全体をざっと見てから気になる作品に戻ってくる人もいれば、一つ一つ時間をかけて作品を鑑賞している人もいます。会場で配られる展覧会キャプションをしっかり読み込みながら鑑賞したり、グループで話をしながら鑑賞したりしている参加者もいて、思い思いに作品との時間を楽しんでいるように感じました。

鑑賞を終えた参加者は、場所を美術館の近くのカフェに移動します。
展示を見た後で、気持ちも高揚している模様、移動中から意見交換が始まっていたのには、驚いてしまいました。

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そして、いよいよ「ミュゼオバトル」の開始です。

ルールは至って簡単です。
参加者は5分程度の時間で2つについて発表を行います。
①それがどんな作品だったか、何が写っていたのか、どんなふうに写っていたのか、その作品をじっくり見ていない人にも伝わるように話すこと
②ただ報告するだけでなく、その作品をみてどんなことを思ったのかを伝えること

その後で他の参加者から質疑応答、意見や感想をうかがいます。

ここで重要なのは、図録などの写真は一切見せず、言葉で説明をするということ。覚えていない人のために、具体的に展示してあった場所や、うつり込んでいるもの、自分の解釈や視点なども盛り込んで、作品について語ります。

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カフェの雰囲気もあり、自然と他の参加者からも質問や意見、こういう見え方もあるのではないかと新しい意見が続々と出ていました。会話が広がっていく雰囲気は、時に真剣な意見に耳を傾け、時に笑いもある終始和やかなもので、先ほど知り合ったばかりのメンバーだとは感じられないほどでした。

全てのメンバーがプレゼンテーションを行った後には、グループの中でもう一度見に行きたい作品を一点選び、なぜその作品が選ばれたのか?どのような意見が出たのか?などについて、ACOPのファシリテーターたちが皆の前で発表していきます。

まず最初のグループ。

彼らは一つに絞る事は出来ませんでしたが、グループの中では《シカゴ商品取引所 III》《東京証券取引所》そして「ピョンヤン」シリーズ作品の話で盛り上がったようです。

「《シカゴ商品取引所 III》の写真は、ビビットなカラーで、人々に個性があり、一つの箱の中にまとめられている印象。しかし人々の行動でみると《東京証券取引所》よりも動きが無く、特徴を感じる事が出来なかった。一方《東京証券取引所》の場合は、皆スーツで同じ格好をしていて、個人が消し去られていくような怖さを感じた。これは「ピョンヤン」シリーズの二点の作品にも通ずる怖さであり、女性が同じ格好をして、同じ方向へと向かっている写真に個性の消失、集団意識の怖さを感じた」と発表していました。そしてそれらが合成写真かもしれないという事にまで言及し、写真が何を映し出そうとしているかという議論が加熱したという事を発表しました。

 

二つ目のグループは《F1 ピットストップ IV》の作品をとりあげました。

その作品がレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』に見えるという視点を持ち、それが構図だけでなく、光の加減によって謎めいた雰囲気を醸し出している点や、キリストの描かれている位置に、おもむろにレースクイーンが立っていたなどの謎が謎を呼ぶ話に、皆で作品を一つに選ぶ際にもう一度見に行きたくなった、とのエピソードを語りました。

このグループは、「バンコク」シリーズの作品を選んだ方もいて、この河を撮影しただろう作品の極彩色に美しさを感じると共に、日頃のゴミや油などの生活の汚れが映し出されているというようなことを感じたり、この河の流れていく先にまで思考を働かせて、フレームの外まで創造を膨らませた参加者がいた事を発表しました。

 

次のグループは、《メーデー III》という作品を選びました。

この作品は大きな展示スペースの一画に小さく飾られており、細部がよく見えにくくその曖昧さに魅力を感じたようです。グルスキーの作品全体にある、クリアでピントのあった作品が多い中で、この作品は煙が立っていて、熱気がこもっていて、群衆を暗い雰囲気で包み込むように撮影されているところに注目しました。

この作品には、《メーデー III》というタイトルにもあるように、多くの人が集まって入り交じっている感じがある一方で、よくよく服装をみると、そういった緊迫感のある現場ではないようにも見えたりするなど、これ自体が持っている不気味さや暗さみたいなものは、加工によって作られたもので、《メーデー III》というタイトルを付ける事で、何でも無い群衆の写真を、そのように仕立てたのではないかというような話にまで発展したと発表しました。

 

最後のグループは、《パリ、モンパルナス》というアパートを正面から切り取った写真を選びました。

《パリ、モンパルナス》では、一見無機質なアパートにみえます。しかし一つ一つの部屋をみていくと、そこには個性があって、無機質さと有機的なもの、個性と無個性、人口と自然のような相反する二つの要素が、みていくうちにクルクルと視点が変わり、もう一度アパートの一つ一つの部屋をじっくりとみて回りたいという意見にまとまったようです。

そこに至る経緯で、参加者それぞれがあげた写真の中に、ミクロとマクロの視点であったり、きれいなものが汚くみえたり、現実と非現実、リアルとフィクションが曖昧になっていくという話があったりして、見ているものがすべてグルスキーの作品のように見えてくるという「グルスキー病」にかかっていくという事で盛り上がったと発表しました。

どの発表も興味深く、一つに絞ることが出来たグループ、出来なかったグループと様々でしたが、同じ作品をみた人たちが共に熱く語り合った後には、誰もが改めて作品を見たいという気持ちが高まっていたように感じられました。

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「どの作品が一番だったかは、実はそれほど重要ではなくて、それをきっかけにお互いが感じた事や見た視点を交換し、話し合いをする事がとても重要なんです」という平野さんの言葉で、イベントは締めくくられました。

「ミュゼオバトル」は、展覧会をみた後に「どの作品が良かった」と、普段何気なく話す当たり前の行為を基にして作られたワークショップで、こういったちょっとした仕掛けで、アートをみるのが少しだけ楽しくなるのではないかというメッセージを込めた企画でした。

イベント終了後も、話の盛り上がったメンバー同士は話が尽きないようで、とても良い雰囲気の中、解散となりました。

いつもと少しだけ違った展覧会の楽しみ方を是非してみてください。「アンドレアス・グルスキー展」は国立国際美術館にて、5月11日まで開催中です。

[開催概要]
アンドレアス・グルスキー展
国立国際美術館
2014年02月01日 ~ 2014年05月11日

Tsuyoshi Yamada

Tsuyoshi Yamada . 東京都小平市生まれ、武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。長らく武蔵野美術大学で、研究制作を続けて、その傍ら、美術展企画や舞台制作、ドキュメンタリー制作などに尽力を注ぎ、芸術と美術、作家と作品、ものつくりの世界に触れる。2013年京都に拠点を移し、デザインとアートの世界の周辺に身を置いている。株式会社モーフィング所属。 ≫ 他の記事

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