上出惠悟「硯海の貝」展

老舗九谷焼窯元の問題意識

poster for Keigo Kamiide “Ink Shell”

上出 惠悟 「硯海の貝」

大阪市西区エリアにある
Yoshimi Artsにて
このイベントは終了しました。 - (2014-01-31 - 2014-02-23)

In レビュー by KABlog 2014-02-27

九谷焼の著名な窯元として代々続いてきた上出長右衛門窯の後継者(六代目)であり、窯のディレクションを担う一方で個人名義の陶作品を発表することで、伝統工芸の領域にとどまらない活動を展開している上出惠悟(1981〜)の個展「硯海の貝(けんかいのかい)」展が大阪のYoshimi Artsで開催されている。上出は明治以来の伝統に裏打ちされた上出長右衛門窯の技術力を駆使して、バナナやゆで卵をモチーフとしたオブジェや(九谷焼によく見られる)花柄の文様が全面に絵付けされたドクロ型の菓子壺といった、見る者を脱力させたり唸らせたりする作品を制作することで狭義の陶芸界にとどまらない知名度を獲得してきたが、近年はそのようなモチーフや絵付の面白さを追求すること以上に、伝統工芸としての九谷焼やジャンルとしての陶芸に対する彼自身の問題意識がよりストレートに前面に押し出されているようになっており、この「硯海の貝」展もまたそのような彼自身の立ち位置の変化や探求の深化という流れの中で見る必要があるだろう。

ここ数年の上出の陶芸に対する立ち位置の変化は、作品そのもののキャッチーさを強調することから作品(群)を取り巻く意味や物語を見る側に味読させることへの移行として整理することができる。昨年同じくYoshimi Artsで開催された「游谷」展では形態や絵付によって表現されたモティーフや見立ての自由闊達さが強調されていたが、それが伝統的な九谷焼のフォームを大きく崩すことなく示されているところに、上出の感覚の絶妙さが現われていると言えるだろう。

今回の「硯海の貝」展では、上出の作品を見慣れた者には既におなじみとなったバナナの作品(《甘蕉》)から、「游谷」においても展示されていた北宋時代の磁器を髣髴とさせる花器、中国やインド、中央アジア、トルコに至るまでのユーラシア大陸を山水画風にデフォルメした地図が描かれた水盤《水盤 染付山水図 西游》、そして東京のギャラリーのgallery αMでの個展で初めて披露された墨汁に浸されたサザエのオブジェ《栄螺 硯海の貝》など、十点ほどの作品が出展されていたが、興味深いのはそれらが一点ずつコンクリート製の台座の上に乗せられた形で展示されていたこと。打ちっ放しのコンクリートが表出する無機的な重量感と磁器の見た目の軽さとが鋭く対置されていたことになるわけで、「游谷」展によって提示された夢遊的な感覚がこのような展示を通して物理的なレヴェルにおいてもさらに強調されていたと言える。もちろんそれはただ軽いだけではない。コンクリートの重さと拮抗することでかろうじて均衡するような軽さであり、そしてその限りにおいて、上出の作品のクリティカル(批評的=危機的)な性格をさらに強調するように存在している。

写真撮影:前田裕哉

[KABライター]
前田裕哉 1975年生まれ。立命館大学卒業。現在、郵便局勤務をしながら、美術展を巡り、批評ライティング活動を行う。

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