イベントレポート「ミュゼオバトル」in フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション 展

「みる、考える、話す、聴く」を考える新しいアート鑑賞イベント

poster for Fruits of Passion: La Collection du Centre Pompidou

フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション 展

神戸市エリアにある
兵庫県立美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2014-01-18 - 2014-03-23)

In 特集記事 by Tsuyoshi Yamada 2014-03-20

私たちKansai Art Beatは、関西のユーザーの皆さんが集い、共にアート鑑賞体験ができるイベント「ミュゼオバトル」を2月7日、8日に開催しました。会場となったのは、大阪府の国際国立美術館「アンドレアス・グルスキー展」と兵庫県の兵庫県立美術館「フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション 展」です。

この企画は、日頃から対話型の美術鑑賞プログラムを実践されている京都造形芸術大学 アート・コミュニケーション研究センター(ACOP)とタッグを組んで行われました。

普段の展覧会鑑賞とは違うこのイベントによって、参加者の展覧会の楽しみ方はどのように変ったのでしょうか?今回は2月8日に兵庫県立美術館で行われたイベントの様子をお伝えします。

7日に国立国際美術館で行われたミュゼオバトルの様子はこちらからご覧ください。


今回、ファシリテーターにお迎えしたのは、ミュゼオバトルの考案者で、アートの「対話型鑑賞」について研究・実践をされている平野智紀さん。

そしてACOPの伊達隆洋さん、北野諒さん・原泉さん・松本光史さん・深見悠介さんです。

「対話型鑑賞」とは、「みる」「かんがえる」「はなす」「きく」という4つの行為を基本にしながら、美術の知識だけに頼らず、鑑賞者同士の対話を通して、作品の理解を深めていくための美術館や作品の鑑賞方法です。

「ミュゼオバトル」は、そういった要素を取り入れた新しい企画で、鑑賞者が展覧会でみた作品の中から一番いいなと思った作品について、鑑賞者同士でプレゼンし合い、「もう一度見たい!」と思える作品をひとつ選ぶ、という鑑賞体験ワークショップです。

今回参加者には事前の応募申し込みのときに、「あなたがこれまでに美術館・ギャラリーでみた作品の中で、いいなと思った作品」について、facebookTwitterから投稿してもらっていました。これには、投稿をするときから、鑑賞体験モードを参加者に作り出すというねらいがありました。

そして、美術館に集合した参加者に、ACOPのみなさんが「どんな作品を選ばれたんですか?」と話しかけていて、はじめて会う参加者たちの会話のきっかけとして利用することで、場を和ませているのが印象的でした。こうして初対面同士の参加者の緊張感が、徐々にほぐれていく中、イベントはスタートしました。

まず始めに兵庫県立美術館学芸員の小林さんから展覧会についてのお話を伺いました。

この展覧会は、21世紀に入ってから作られた作品のコレクション展であり、出品作品は、支援団体である友の会の会員によって選ばれたものであるそうです。「フルーツ・オブ・パション」訳すと「情熱の果実」と題されたこの展覧会タイトルには、現代美術を収集しよう、ポンピドゥー・センターを支えようという、多くの支援者の情熱が込められているという展覧会の趣旨をうかがいました。そんな経緯を少し踏まえながら、同世代、同時代を生きている作家たちの作品を是非楽しんでほしいとの事でした。

普段なかなか聞く事の出来ない学芸員のお話を聞き、気持ちも高まったところで、参加者は、4つのグループに別れたあと、いよいよ鑑賞タイムのスタートです。

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「まずは一人でじっくり作品を見てください。そこで好きな作品、気になる作品、気に入らない作品など何でも良いので、あなたが心に残った作品を一点選んでください」平野さんからはそんな言葉が投げかけられました。

年齢も経歴もバラバラで、異なるバックグラウンドを持つ参加者が、一緒に鑑賞していく中で、どんな意見が生まれていくのでしょうか。


展示室に移動した参加者たちは、思い思いに展覧会会場に散らばっていきます。
作品を鑑賞する速度も人によってばらばら。どんどん先へと進む参加者もいれば、一つ一つ時間をかけて丁寧に鑑賞している参加者もいます。



平面作品から立体、映像、インスタレーション作品まで多様な作品が展示されているので、参加者もその作品形態の幅の広さに、何度も展示室を行き来している姿が印象的でした。作品それぞれが力強く、印象的であるために、作品を決めかねている様子の参加者もちらほらと見受けられました。

十分に時間をかけて作品と自分との距離をつめているようで、この時点で普段の展覧会鑑賞とは違った鑑賞をしていることに多くの参加者が気づいているようでした。

鑑賞を終えた参加者は、美術館のレストランに移動して、ここからミュゼオバトルの開始です。

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「ミュゼオバトル」のルールは至って簡単です。
参加者は1つ選んだ作品について、5分程度の時間で2つについて発表を行います。

①それがどんな作品だったか、何が写っていたのか、どんなふうに写っていたのか、その作品をじっくり見ていない人にも伝わるように話すこと。
②ただ報告するだけでなく、その作品をみてどんなことを思ったのかを伝えること。

その後で他の参加者から質疑応答、意見や感想をうかがいます。
ここで重要なのは、図録などの写真は一切見せず、自分の言葉で説明をするということです。

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作品のみるべきところが同じだったり、感じた事、考えた事が違ったりと、自然と意見が飛び出し、共感や相違点を見つけた参加者同士、初対面だったとは思えないほど、議論が盛り上がっていました。

全ての参加者が、プレゼンテーションを行った後には、もう一度鑑賞したい作品をグループで一点選び、なぜその作品が選ばれたのか?どのような意見が出たのか?などを、他のグループに向けてファシリテーターが発表を行います。

最初のグループは、ジェイソン・ローズの《ボーブールの雌猫》を選びました。理由として挙げられたのは、まずその目を引く作品のインパクト。そして制作年が、作家が亡くなる2年前という時期なのですが、40を超えているその年齢、そしてその時期にしては、直接的でとてもエロスを感じる表現であったことです。

またアメリカ人である作家が、フランスのポンピドゥー・センターに向けて、フランス語で隠語を用いて作品を制作しているなど、とても挑戦的な作品であることが挙げられました。その作風にグループの中でも避けてしまった人もいたのだが、もう一回しっかり見てみたいという意見が出たそうです。

次のグループは、アダム・アダクの一連の絵画作品を選びました。作品に使用されている赤の色に話題が集中し、赤という色には、攻撃的で勢いがある印象があるけれども、よくみると繊細なタッチで描かれていて、そういったイメージと技法の違いに注目したと発表しました。

そして、この作品を選んだ参加者の年齢、時代的に、学生運動などが身の周りであり、時代的なもの、生きてきた経験を作品に投影することができたと話しました。しかし、それが絵画であったからこそであり、写真であってはだめだったかもしれないという話に発展していったようです。写真よりも抽象的であったからこそ、そういった感覚に戻る事が出来たのかもしれないという話など、グループで非常に話が深まったので、この作品を選んだとのことでした。

3番目のグループは、レアンドロ・エルリッヒの《眺め》を選びました。この作品は真っ暗な部屋の中に窓があり、そこから覗いてみると、その奥にマンションのようなものがあり、一つ一つの個室をみる事が出来ます。


「人の生活をみることも面白いが、その作品を見ている人をみるというのも、その欲求を見ているという感じがしてまた面白い。そしてブラインドがある事で、こちら側も部屋であり、もしかしたらこちら側も見られているんじゃないかというような、はっとさせられるような仕掛けもあったことも、面白い要因だった」とのこと。そういう作品を、またみんなで眺めにいこうという事で選びました。

最後のグループは、カーティス・マンの《二つの試み(オリーブの収穫、パレスチナ)》を選びました。「ぱっと見たときは、もやっとした画面で、内戦状態のような雰囲気を醸し出していて、暴力的な感じに見えるのだけど、あの作品はネットから拾って来た画像を加工したものであるという事がわかったりして、現実なのか虚構なのか、フィクションなのかノンフィクションなのかという、見ているこちらの感覚が揺らぐという事が面白い」という発表でした。

グループの中にはパレスチナ問題に詳しい方がいて、作品の背後にある文脈やコンテクストを解説していただいた事で皆の関心が高まったことも、この作品を選んだ一つの理由だったようです。

ミュゼオバトル終了後、各グループに選ばれた4作品を改めて鑑賞するために、展示会場へと会場を移します。

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それぞれの作品について、学芸員の小林さんに解説をしていただきながら、参加者全員で一緒に作品鑑賞をしました。作家の意図や歴史的背景など、解説を聞く事で作品に対する印象・感想と知識がつながって、はっとした方も多いのではないでしょうか。

グループの他の参加者の指摘で、自分が見落としている部分を改めて確認したり、作家や作品について考えている機会となり、ミュゼオバトルをやる前と、やった後では、参加者たちの作品に対する姿勢が変ったように見受けられました。

最後に、ミュゼオバトル全体を見ていたACOPの伊達さんに、各グループがどのようにミュゼオバトルを進め、どのようなものを見つける事が出来たのかを解説していただきました。4つのグループが全く別の視点から、同じ展覧会を経験していた事がわかり、それを知る事自体がまたミュゼオバトルの醍醐味なのだと改めて実感しました。

ミュゼオバトルは、みる人の視点を組み合わせる事によって、自分が気づいていなかった事に気づいたり、多くの他者の視点を持つ事で展覧会をもっと楽しもうという試みです。

たまにはこういった仕掛けを持って、展覧会に脚を運んでみてはいかがでしょうか?「フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション 展」は、兵庫県の兵庫県立美術館で3月23日まで開催しています。

Tsuyoshi Yamada

Tsuyoshi Yamada . 東京都小平市生まれ、武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。長らく武蔵野美術大学で、研究制作を続けて、その傍ら、美術展企画や舞台制作、ドキュメンタリー制作などに尽力を注ぎ、芸術と美術、作家と作品、ものつくりの世界に触れる。2013年京都に拠点を移し、デザインとアートの世界の周辺に身を置いている。株式会社モーフィング所属。 ≫ 他の記事

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