「人とは違ったことをする」がポリシーの「具体美術協会(以下『具体』)」。1960年代から関西を土台に、足でこねた絵具をキャンバスにぶつける白髪一雄、電球でつくられた「電気服」を全身にまとった田中敦子、連続して紙を体で破いて行く村上三郎らが所属していたことで知られる。その「具体」のメンバーとして、1960年代から今なお活動を続けている堀尾貞治が、神戸のBBプラザ美術館で個展を開催中・・・約30カ所もの場所でも作品展示中なのだ。
今回BBプラザ美術館の顧問で、堀尾と長く親交のある坂上義太郎さんに話を伺いながら、堀尾作品の魅力、展覧会の見どころを紹介する。
会場に足を踏み入れると、おびただしい数の作品に驚かされる。
「約3000点あります。これらの『色塗り』シリーズは、オブジェに色を塗った作品群です。堀尾さんが影響を受けたという、具体のメンバーの村上三郎さんが亡くなった翌日から、堀尾さんは毎朝5時に起きて、お寺の勤行のように、毎日毎日、球体のオブジェに色を塗っています。堀尾さんのアトリエは3階建てで、1階に『オブジェに色塗りをする部屋』を設けているほどです。また、家を不在にするときはつくり溜めをしていて、いずれにしても相当な数に上ります」
会場の壁に貼られたり、天井から吊ってあるオブジェの種類は実に多様。既製品、箱状、造作してあるもの、細長いものもあれば太いものも。それぞれに色が塗られ、作品としてのパワーがみなぎっている。
作品ひとつひとつを見ていると、筆のタッチや息づかい、色の選びとセンス、といった堀尾の「手」を感じることができる。オブジェとして選んだモノの「意味」を想像することも楽しい。 しかし膨大な数だ。どうやって展示をしたのだろう?
「堀尾さんの展示の手伝っている人たちを中心に、BBプラザ美術館のスタッフやアルバイトの職員などが、のべ50人もの『現場芸術集団 空気』のメンバーらと、搬入から展示作業を手伝ってくれました」
『現場芸術集団 空気』のメンバーは、会場の壁に釘を打って作品を設置をしただけでなく、作品ひとつひとつを2人1組になってデジカメで撮影もした。さらに美術館の建物内の階段と踊り場に設置された《にわか彫刻》をつくりあげた。神戸市西区にある木材屋からトラックで取り寄せた木材を、堀尾さんが現場で描いた大まかな図面と指示に基づいて、『現場芸術集団 空気』のメンバーが組み合わせた。
外からも見ることができるため、美術館近くで働くサラリーマンが「工事中ですか?」と話し掛けてきたり、通勤途中の人たちが足を止めて《にわか彫刻》を眺めていたり。普段は通りすぎる人も、美術館の中に入って来るという。「にわか」と名付けられている割には、ダイナミックなインスタレーションだった。
「この堀尾展は学芸員が作品を選んだり、配置を決めるのではなく、今年でBBプラザ美術館開館5周年を迎えて初めて、作家に展示室をおまかせした企画なのです」
美術館入口や展示室の一部の壁には、堀尾が考案した新聞紙や広告紙がまるめられて挟まっている。こうした展示方法も、BBプラザ美術館としては新しい試みである。
堀尾と同じ「貞治」である野球選手・王貞治の一本足打法をもじってつけられた『一分打法』シリーズは、文字通り短い時間で絵具を紙に打ち付ける作品群。『現場芸術集団 空気』のメンバーらと美術館スタッフによって、手際良く壁に配置されていった。
「堀尾さんは、具体の『人とは違ったことをする』を守りながら、毎日『色塗り』と『一分打法』を続けています。この展覧会だけでなく、最近の展覧会のタイトルが『あたりまえのこと』と付けられているのは、堀尾さんにとって制作は、特別なことではなく『あたりまえのこと』だから。今では具体を超える作家、といえるのではないでしょうか」
会期中、イベントとしてパフォーマンスやトークをするだけでなく、ふらっとやって来た堀尾さんが会場で色塗りをしていることも。さらに驚くのは、美術館がある神戸エリア、さらに大阪や京都のギャラリーやアートスペースで堀尾さん関連の展示が、約30カ所でも同時に開かれていること!
「6月1日までの会期中、こうした場所を回るスタンプラリーを実施しています。6か所を回った方先着100名様に、堀尾さんの『一分打法』作品をプレゼントします」
度肝を抜かれることづくしの堀尾ワールドを堪能するいいチャンスかも?! これは足を運ばないといけませんね!
写真撮影:藤田千彩