女性6人による作家スタジオpunto

“点”から線や面が生まれるように、ここを拠点に様々な活動形態へと繋がっていく

In 特集記事 by Tsuyoshi Yamada 2014-05-31

京都には作家が主体的に運営しているアトリエやスタジオが数多く存在しています。今回新たに京都駅の南東側に位置する「punto」という作家スタジオが誕生しました。メンバーは絵画、立体など、ジャンルを超えた6人の女性作家が制作の場として運営しています。スタジオオープンと共に作品展示と共に公開制作などをしているという事でお話を聞いてきました。

「punto」という言葉はラテン語で「点」という意味を持っており、「点から線や面が生まれるように、ここを拠点に様々な活動形態へと繋がっていく」そのような思いを込めてスタジオ名としたそうです。

「punto」は、嶋春香と長谷川由貴が発起人となり、大学を修了するのに伴い、制作場所を探しはじめました。京都市の若手芸術家支援事業を実施する東山アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS(ハップス)に相談を持ちかけ、空き物件を所有している大家さんと繋いでもらったことがきっかけで、元々かばん製品の工場だった場所をリノベーションし、スタジオにしました。

制作場所を探すのと共にメンバーも集め始め、ジャンルの違う6人のメンバーが集まりました。互いに刺激をうけ合うために、当初からジャンルの違う作家を集めようとしていたようです。

長谷川由貴は、日本各地の神の宿ると言われている場所を実際に訪れ、その場所の風景を描いています。以前は、神そのものの姿を描いていましたが、現在は、場所での体感を色彩に置き換える行為を行い、鑑賞者が追体験する絵画を描いています。彼女のスタジオには、聖地や神なるものの資料が大量に置かれているのが特徴的でした。

岡本里栄は、時間をそこで留めたいという想いを絵画表現によって表現しています。スタジオには、人物のシリーズと最近描きはじめたという木のシリーズが展示されています。彼女は数多くのドローイングの先に一枚の絵画を仕上げます。ぼやけた像は視点を定めることができず、鑑賞者は何が描かれているかをじっくりと鑑賞することとなります。永遠を感じる作品を描きたいという岡本里栄の絵画には、そこには時間の濃縮のかたちが描かれています。

嶋春香は、パターンやタッチの連続性に着目した作品を制作している作家です。3枚並んだ作品シリーズは、ある絵画をトレースして、そこで生まれる形をパターンとして並べ、幾重にもイメージを重ねることで作り出しています。嶋春香は自分のスタイルを「音楽で言うとエフェクト(効果/影響/結果)みたいなもので、絵画が成立させられないかを考えている」と語っています。

松平莉奈は、日本画を描く作家です。スタジオで唯一床で制作をしているので、ここだけ平面勢の中でも、違った雰囲気があります。壁に立て掛けられた3枚の日本画は、「わかり合えない2人」をテーマに、一休さんのお話として知られる実在の禅宗の僧侶と、彼が晩年溺愛した盲女の森女とのエピソードを描いています。松平は、日本画の魅力をエッジの強さと日本が独特の色彩だといい、シンプルだからこそ最適な形を摸索していきたいと語っていました。

山西杏奈は、木を削り出して工芸作品を制作する作家です。その作品は、空間の「緊張感」や「張り」を意識して制作されています。そのため展示においての配置で、とても気を使うそうです。削り出していくマイナスの作業の先に、抜け落ちていくカタチに注目していると語る山西杏奈のスタジオは、平面勢とは違い机が備え付けられ、材料となる木とそれを掘り出す道具が並べられています。

西條茜は、やきものにおける釉薬の可能性を摸索してきました。本来うわぐすりとして使用する釉薬のみで、器を作ることができないかという発想をもとにして、今回の作品が作られています。燃焼することで発泡する釉薬の固まりから削り出して器を制作しています。そこから金属との融合や、改めて本来のやきものに戻ってくるなど、制作の過程を垣間みることができます。

6人6様、表現に対する思考性も方法論も目指す方向も違う作家たち。各々のスペースには、画材や資料などと共に、ポートフォリオが配置されており、彼女たちの作品遍歴を見ることができます。そこには作家としての変化の途上を見ることができ、スタジオに飾られているのが、まぎれもない彼女達の今の姿であることを確認できます。そしてみな総じて「変りたい」「影響を受けたい」と言葉にしていました。

「大学の制作室では、同じジャンルの人々と制作をしてきた。そこでは語る言葉も同一化してくる。他のジャンルの作家と同じ空間で制作することでどんな影響を受けるのか今は楽しみだ」それと共に「もう学生ではないのだ」そう語る嶋春香の言葉がとても印象的でした。

アカデミックな制作環境から抜け、作家として新しい一歩を踏み出した彼女たち。「punto」というスタジオ名に込められた「点から線や面が生まれるように、ここを拠点に様々な活動形態へと繋がっていく」と言う言葉通り、彼女達の今後に注目したい。

写真撮影:山田毅

【概要】
スタジオ名称:「punto(プント)」
所在地:〒601-8011 京都市南区東九条南山王町6-3
オープンスタジオ:2014年5月20日(火)〜6月1日(日)12:00-18:00
Webサイト: http://punto-studio.net/

Tsuyoshi Yamada

Tsuyoshi Yamada . 東京都小平市生まれ、武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。長らく武蔵野美術大学で、研究制作を続けて、その傍ら、美術展企画や舞台制作、ドキュメンタリー制作などに尽力を注ぎ、芸術と美術、作家と作品、ものつくりの世界に触れる。2013年京都に拠点を移し、デザインとアートの世界の周辺に身を置いている。株式会社モーフィング所属。 ≫ 他の記事

KABlogについて

Kansai Art Beatの運営チームにまつわるニュースをお伝えします。

Facebook

KABlogのそれぞれの記事は著者個人の文責によるものであり、その雇用主、Kansai Art Beat、NPO法人GADAGOの見解、意向を示すものではありません。

All content on this site is © their respective owner(s).
Kansai Art Beat (2004 - 2024) - About - Contact - Privacy - Terms of Use