大阪市内にある国立国際美術館では「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」展が、9月15日まで開催中だ。ロマンチックな展覧会タイトルとはうらはらに、並んだ作品は現実にあるものをモチーフにしている。しかしそれらは「具象」とか「リアル」とかいう平凡な言葉で共有できるものではなく、やはりノスタルジー&ファンタジーと感じてしまうのは、なぜだろう。
仮に「日本の風景」というキーワードであっても、個々に持っている思い出は異なる。稲が揺らぐ田んぼを思い出す人もいるだろうし、海に浮かぶ島なみを想い描く人もいるだろう。個々によって異なる感情を抱くこと、まさに現代美術の鑑賞も同じようなことではないだろうか。
例えば、須藤由希子の平面作品。
知らないはずなのに「どこかで見たことがある」と思わせる光景が表現されている。画面の中に自分が立ち、友達を探したり、足元のクローバーに目をやったりする、みたいな入り込みをしてしまうのはなぜだろう。
あるいは、山本桂輔の立体と平面作品。
子どものころに描いたような、あるいはつくったような造形物を思い出す。にぎやかな色と優しいフォルムに親しみを感じるし、土着的な感性もそそられる。
少し温かくなる心を抱きながら、展示会場で「トリ」を務めた淀川テクニックの作品《Let’s Become garbage!(みんなでゴミになれる!)》に圧巻された。
淀川テクニックはこれまで、大阪を流れる淀川の河原に落ちているゴミを素材にした立体物を制作し、各地の展覧会で発表してきた2人組のアーティスト。今回彼らは美術館に、ゴミで構成した巨大な壁を打ち立てた。
「今回の見どころ、というような作品です。参加型で、後ろからごみの中に顔を出して、写真も撮影できるようになっています。記念撮影ということが、ノスタルジーというコンセプトにも合っています」(淀川テクニック/柴田英昭)
ゴミを貼りつけたベニヤ板を何枚もつくったという大作は、3トントラックで美術館まで運んだ。
「以前、プロトタイプとも言うべき、顔を出せる小さな作品はつくったことがあるんです。でも小さくて物足りなかった。もっと大きいものをつくりたい、と思ってつくりました」(淀川テクニック/柴田英昭)
「この大きさの壁をつくるために、ゴミ拾いイベントを4回も開催したんですよ」(淀川テクニック/松永和也)
展示作品は、この壁だけではない。
ゴミがアクリルに閉じ込められた《淀テクブロック》、運動場にある鉄棒のようなハンガーに大きなゴミがインスタレーションされた《Just Hanging》などが並んでいる。
「全部新作です。これまで拾ったゴミから魚のような生きものをつくっていて、それは面白いことなのですが、モチーフから離れてゴミ自体について考えるようになったんです。これまでも《ゴミ 淀川産》という、ゴミを商品に見立ててパッケージ化した作品はあるのですが、今回はアクリルに入れたり、吊ってみたりとシンプルな形で見せるようになりました」(淀川テクニック/柴田英昭)
作品がインストールされた空間にたたずむと、遠くにシカが立っている。まるで山の中にでも来たような気持ちになる。
「最近、ゴミの持ってる”訳のわからなさ”や”狂暴性”に興味があります。そして鳥取の山の中で鹿の骨を拾った時、何か同じような感覚がありました。持って帰って、吊って他のゴミと並べてみたら、何か関係性が生まれたように感じました」(淀川テクニック/柴田英昭)
淀川テクニックに限らず、この「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」展は、空間を味わうようなつくりにもなっている。並べられたひとつひとつの作品を鑑賞することも楽しいが、一歩引いて作品の集積が広がる空間も愉しむことができるのだ。その空間に立つだけで、ふわっとこれまでの自分の何かに引っ掛かり、何かを感じさせてくれる不思議な展覧会である。
写真撮影:山田毅
[開催概要]
「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」展
国立国際美術館
開催中 ~ 2014年09月15日