くるくる回ったり、ゆらゆら動いたり。新宮晋は「風の力」という自然のエネルギーを動力源にした彫刻作品を手掛けてきた。今回神戸市立小磯記念美術館での展覧会は、本人初の回顧展であるだけでなく、いろんな「すごい」を連発してしまう充実した内容。学芸員の辻智美さんに、新宮のこれまでを振り返るお話を伺いながら、展覧会を紹介していこう。
1937年に大阪府豊中市で生まれた新宮晋は、小学4年生のころから遠い親せきの画家・小磯良平のもとへ通い、絵を見てもらっていたという。展覧会場の第1室は、そんな小学生高学年から大学時代までの絵が並ぶ部屋からはじまる。
並んでいる絵はとにかくどれも上手くて、私はまず小磯良平を紹介しているのかな、と思ってしまったほどだ。
「小学生時代の絵は、お母さんをモチーフにして描いているものが多いです。そして展示では見られないのですが、絵の裏には、描くのに掛かった時間をお母さんが書きとめているものもあります」(学芸員/辻智美)
お母さんは芸術家になることを信じていた、という。だからこそきちんと記録し、残したのだろうか。 東京藝術大学を卒業した新宮は、イタリアへ留学する。20代、つまり時代でいうと1960年代をローマですごした彼は、絵画だけでなく彫刻作品を手掛けるようになった。
天井から吊られた彫刻作品。風を受けてゆらゆら動いているさまを見た新宮は、逆に風で動く彫刻作品をつくったらどうだろう、と試みるようになった。
「このころアルバイトで、日本から訪れる旅行者相手に観光案内をされていたそうです。たまたま大阪造船所の社長さんがいらして案内したことをきっかけに、帰国後その社員となり、アトリエの提供を受け、制作活動をしていきました」(学芸員/辻智美)
展示室は「絵本」の紹介へ。実は新宮が手掛けた絵本は、膨大な数にわたっている。植物や自然をテーマにした内容の絵本は、緻密な表現でありながら原色を多くつかっているせいか、見ているだけでとても心が躍る。
新宮の才能の豊かさを尊敬し、うらやましくも思う。さて、次の展示室では何を、といったん廊下に出て、歩を進めていく。 会場である神戸市立小磯記念美術館は、上述した新宮の遠い親せきである画家・小磯良平を記念した美術館である。移築された小磯のアトリエを取り囲むように、展示室やショップなどが配置されている。アトリエではインフォメーションスタッフの解説も行われている。今回の新宮展では、正面入口とアトリエの間に小さな彫刻作品が置かれていた。見るから重そうな金属の小作品なのに、微風さえ感じ取り、動いていた。
次の展示室は、空間を大きくつかい、作品を点在させたインスタレーションを展開している。
扇風機の風を受け取り、それぞれ楽しそうに動いている。
「作品そのものだけでなく、床や壁に映る影も面白いです。来館した子どもたちに、床に寝転がって見てもらうこともあります」(学芸員/辻智美)
私の想像を超えて自由に動き回る作品は、いつまで見ていても飽きることはない。 そして、これまで新宮が手掛けた野外彫刻作品のマケット(模型)が並ぶ部屋、いつか完成を見たい「ブリージングアース(呼吸する大地)」のジオラマが置かれた部屋、と続く。風に吹かれる作品を見ながら、空を見上げ、自然を感じる。新宮の夢は、まだまだつむぎ出されていくのだろうか。
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特別展「新宮晋 地球の遊び方」
期間:2014年6月21日(土)~9月23日(火・祝)
会場:神戸市立小磯記念美術館
http://www.city.kobe.lg.jp/culture/culture/institution/koisogallery/tenrankai/
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