バイリンガル・フリーペーパーFLAG

日常にとけこむアート/メディアを作るということ

In インタビュー by Chiaki Ogura 2014-10-17

アートは美術館の中だけで楽しむ、といった特別なものでは、もはやありません。日々の暮らしになじむように、そっと寄り添うように存在しています。生活の中に自分らしい個性を表現することが、アートの主流になりつつあるのかもしれません。衣・食・住・プロダクト開発・空間デザインなど、様々なアプローチからアートと関わる企業、団体やメディアを取材します。

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「メディアを作るということ」
後藤哲也さん(FLAG/OOO projects)

大阪のアート&カルチャー情報を発信する、バイリンガル・フリーペーパー「FLAG(フラッグ)」。2009年に発行されて、現在で5年目に入る人気フリーペーパーです。メディアを作るという面白さや現状の想いなどについて、編集長の後藤哲也さんにお話を伺いました。

「大阪がもっとクリエイティブで面白い場所になれば。」

ー老舗のアートメディアという印象がある「FLAG」ですが、始めたきっかけや想いを教えてください。

2009年頃に、関西エリアのアートやカルチャー情報を伝える英語メディアだった、KANSAI ART BEATやKANSAI TIME OUTがストップしたんです。外国人が展覧会やイベント情報について知るすべが、無くなってしまったので、それなら自分たちで作ろうというところから始まりました。初刊は英語版で、1年後にバイリンガルに対応。今も一緒に制作しているデザイナーのダンカン・ブラザトンと2人で、創刊しました。

僕は、大阪出身ではないのですが、大阪を拠点に活動しているので、自分が住んでいるところがもっと面白い場所になったらいいなと思っています。例えば、大阪のことをほとんど知らない外国人が、FLAGを見て大阪の文化を知り、足を運んでくれたりすると、色んな文化が混ざって、もっと面白い状況が生まれるんじゃないかなと。

クリエイティブなことに関心のある外国人が大阪に集まってくれると、今よりも更に面白い場所になるかもしれないとか。そこで、FLAGの主軸をアートに絞ったんです。アートだと、展覧会とかイベントとか、常に何か起こっていて、アクセスしやすい。FLAGは、アート愛好者がアートを啓蒙するというものではなく、そういう状況を作り出すためのメディアだと思っています。

「そのときの自分たちにとって、達成感が得られるものを」

ー5年間発行を続けてみて、実際どうでしょうか?
作り出して最初の1、2年くらいは、あまり反応がなくて(笑)ウェブサイトだとアクセス数などで、わかるのかもしれませんが。期待していたような反応は少なかったですね。どういう人がどうやって見てくれてるのか疑問がずっとありました。ただ2,3年経った頃からトークイベントやデザインの仕事など、アート界隈の仕事の依頼が少し来るようになりました。続けることが大事なんだなと、経験をもって学んだという感じです。

ーデザインも、以前から変化されていますね。
そうですね。毎年デザインは変えていますね。最初はインパクト重視で雑然とした感じを出したいと思っていました。東京っぽいシュッとした感じは違うかなと(笑)。少しずつ整理しているという感じですね。内容としては、地図、展示情報とコラムを掲載していました。ずっと同じことを続けるのは気持ちが持たないので、そのときの自分たちが、達成感が得られるような形態にしたいと思っています。今出しているFLAGは、レビューを中心にした記録媒体にしたいと思ってリニューアルしました。展覧会の情報は、大手メディアや個人のTwitterなどでも得られます。ただ、いつ、どこでどんな展覧会が行われて、誰がどう感じたかという記録は、展覧会が終わると残らない。これは作る価値があるかなと考えたんです。「展覧会」「アーティスト」「ギャラリー」そして学芸員やライターなどの「人」を記録するためのメディアとして作っています。

ーピックアップする展覧会はどのように決めていますか?
取材先は、寄稿者にお任せしています。ただ、大きな美術館や博物館は、きっと他のメディアがやるので外して、大阪府下のギャラリーを中心にしてほしいとお願いしています。アーティストはなるべく、大阪や関西の方がいいなとは思っています。
最近は、アート関係者から色々ご意見をもらうことも増えてきて、ジレンマもありますが、日々学べますね。

「知ること、学ぶこと、そして経験を積むことが全ての糧」

ーFLAGを発行することで、後藤さんのお仕事になにか変化はありますか?

FLAGに関しては、利益は求めていません。むしろ赤字です(笑)。有料化して、読者が遠のくのは本末転倒ですし。ひとつ、FLAGを作ってみて学んだことは、自分が発信するメディアを持つと、これが自分自身の発信源となってくれるんだなということです。デザインも原稿を書くことも、誰かに習ったことはなく、ほぼ独学でやっています。FLAGは、いわば自作自演なのですが、つくったものを表に出すことで、人が評価してくれることもあるんだなと感じています。これがきっかけとなって、ネットワークができたり、人との繋がりが広がることが、僕にとっての一番のプラスです。
アーティストや自分と違うジャンルの業界の方の話を聞く機会も増え、面白いですね。”この作品が好きだから話を聞きたい”というよりも、こういうものを作る人はどういう考え方をするのかなとか、どんな感じ方をするのかを見たり聞いたりしたいという感覚ですかね。

僕個人の仕事では、デザイン業務や企画編集がメインです。クライアントは様々で、アート・カルチャーだけでなく、もちろんコマーシャルな仕事もします。特定の分野に絞ってやりたいという想いはあまりないです。新しい仕事に出会って、知らない知識を増やしたり、経験を積む行為を求めてこの仕事をしているところもありますね。

ー今後開催される、イベントについて教えてください。
10月25〜27日の3日間、はまやしきアートフェスタ2014に参加します。ドイツ・デュッセルドルフのアートセンターWeltkunstzimmerや江之子島文化芸術創造センター[enoco]でも開催された「あなたがほしい i want you」のメンバーで開催します。僕は、オーガナイザーを務めています。展示会場の吹田歴史文化まちづくり協会”浜屋敷”は歴史的な家屋なので、作品は同じでもまた違った意味合いが生まれてくると思いますね。
いわゆる町おこしイベントですが、僕らとしては、地域活性化云々ということではなく、地域と建物、そして美術の境界を緩やかにしてみる、という感じですね。地元の人たちのものの見方や考え方に、少しでも刺激が与えられれば良いなという感じです。ちょっとこの辺りの空間だけ少し歪んでいるな、みたいな感覚でいいのかなと。ぜひ楽しみにしていてください。

ー今後のFLAGについて、少し教えてください。
実は、あまり決めていません(笑)今年度中の発行は決まっているのですが、来年度のことは年末が近づいたらじっくりと考えようかなと思っています。アイデアが浮かべば、また形態を変えるかもしれません。常にそのときの自分たちにとって、情熱が持てるかたちで続けていきたいと思っています。

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OOO projects Co.Ltd
http://www.outofoffice.jp/

【開催予定の展覧会】
はまやしきアートフェスタ 2014「i want you あなたがほしい」
http://hamayashiki.com/H26_calendar.html
https://www.facebook.com/events/1629180143975361/?ref_dashboard_filter=upcoming

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場所:
日時:10/25-27
時間:10:00-21:00
場所:吹田歴史文化まちづくり協会 浜屋敷
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Chiaki Ogura

Chiaki Ogura . 岡山県出身。広告代理店・広報部にて勤め、現在はフリーライター・フォトグラファーとして活動中。ジャンルは幅広く、雑誌やWEB媒体などで執筆。ベンシャーンやアンディ・ウォーホルに感銘を受け、アートの世界に。ギャラリーや美術館の空間をこよなく愛する。作品を目の前にしたときの、右脳がぐらっと動かされる感覚がたまらない。comocomo.cafe ≫ 他の記事

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