KAB読みもの探訪!《第6弾》

アーティストが選ぶ、読んでおきたい3冊!

In インタビュー by KAB Interns 2014-10-14

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本紹介インタビュー、第6回はアーティストの佐藤健博さんです。京都・大阪を中心に、木や石を素材として、展示空間そのものを生かしたインスタレーション作品などを発表しています。今回は佐藤さんからどのような本をご紹介頂けるのでしょうか。
佐藤さんの作品は公式サイトからご覧頂けます。

Q1. 現在のお仕事や進行中の企画など、近況についてお聞かせください。

「10月後半に京都で行われるグループ展(オープンアトリエ)に向けて製作中です。それと同時期に予定している大阪での個展のための作品も、同時進行中です。どちらの展示場所も、あらかじめ美術作品を見るための空間ではないため、独特の機能や見た目をふまえて、その場所の特性を引き出せるような展示になるよう、目下検討中です。」(佐藤)

※オープンアトリエとは: アーティストがアトリエを公開することで、一般の方も作品の制作過程を垣間見ることができるイベントです。

作品自体のクオリティはもちろんですが、それを展示する空間も考慮し、独自の世界を創り出しているところに、佐藤さんの作品の面白さがあるのではないでしょうか。ギャラリー以外の場所での展示は、どのような空間になるのか期待したいですね!(Chihiro)

Q2. キャリア形成において影響を受けた本や、人生の愛読書などをご紹介ください。

①鶴見俊輔『限界芸術論』(ちくま学芸文庫、1999年)Amazon

「“限界芸術”とは、ある専門的な芸術家によってのみ一方的に享受されるものではなく、日々の暮らしの中で私たちが(意識的にも無意識的にも)見いだす能動的な美的経験です。“名前” “遊び” “ガラクタ” “子供”など、その時毎のちいさな点として出発するそれらは、複雑に繋がり合って形づくられる線や面のように、”民族“とか”時代“とか、おおきな単位の中にあっても、個人の振る舞いやその重なりの関係として見ることができると思います。幾人かの作家の作品や生涯から、その広大な実践経験としての”限界芸術“の輪郭を考える、という内容です。
私が印象に残っているのは、『あるときある場面での状況にいきいきと奉仕する身ぶりとして、言語はまずみがかれなければならぬ。だが、よくみがかれた言語は、やがて状況をこえて、状況から状況へと、もちこされてゆくこととなる。』という一文です。これは、私たちの美的経験が、必ずしも継続的で揺るがない価値として、常に一定に還元されるものではないという、観念的な『芸術作品』に対するひとつの答えとしても、捉えなおすことができると思います。」(佐藤)

たとえば盆栽や民謡は、芸術性を備えながら個人の娯楽という側面も持っており、「芸術」という一言では定義できないジャンルです。このように大衆に愛されてきた芸術を『限界芸術』とし、その変遷をたどる文化論です!(Chihiro)

②『マイナー音楽のために 大里俊晴著作集』(月曜社、2010年)Amazon

「一本の線的な(西洋の)音楽史を鵜呑みにしたまま、目の前の音をただ無条件に聞く事への違和感はどこからくるのでしょうか。音楽研究家であり、ギタリストでもある大里俊晴の、最初で最後の批評集です。
ジョン・ケージやリュック・フェラーリなどの著名な現代音楽家から、シャンソン歌手のコレット・マニー、奄美大島の盲目の島唄歌手・里国隆などの、この本がなければ一生知らないままだったであろう無名な音楽家まで、その作品から思想、時には生涯にいたるまでを、丁寧に紹介し、批評しています。(私がその音楽や音楽家を知らない場合も多々あるのでその都度、ネットや人づてで音源を探し、読み進めていくのですが、情報自体がほとんど無いものについては、自身の拙い音楽経験と可能な限り照らし合わせ、想像し、自ら補完していくしかありませんでした)
筆者は、決して急いだ判断こそしていませんが、言葉の限りを尽くして音そのものすら正確に描写しようとしています。それは、私自身が現在未経験である音楽との、『出会い』を予感させてくれるものでもあります。そういった意味でも、今後何度でも読み直すべき一冊と言えます。」(佐藤)

音楽学者でロックミュージシャンでもあった著者による、現代音楽批評集。多様な音楽が溢れている現代ですが、まだ知らない音楽家の作品に、この本を通じて出会えるかもしれません。実際の音を聴きながら読みたい1冊です!(Chihiro)

③高野文子『棒がいっぽん』(マガジンハウス、1995年)Amazon

「漫画家、高野文子の短編集です。1話の『美しき町』で主人公たちは、何十年後かの未来に、”今日”という日をおぼえているだろうか?と考えます。最終話『奥村さんのお茄子』では別の主人公たちが、何十年前の”今日”の昼食を詳しく調べようとします。
私たちが普段経験しているのに、記憶としてはとどめておきにくい、非直線的なその都度の感情を、独特のまなざしで注意深く描写しています。そのやりかたは軽やかで、繊細な読み心地を維持しつつも、状態としてのそれぞれの登場人物の個性や、それらをふまえた設定のアクロバティックさをも、毎日の延長線上にあるものとして説得力を持たせるには十分です。大きな時間の余白を越えたところにある(かつての、これからの)日常は、個人が経験する出来事の正確さのみをたよりにつくられているのではなく、おおまかな幅のある一回性の場として、そのとき/そこにあった/あらゆるものや人たちによって多層的に構築されて
いくのものだと、あらためて気付かされました。」(佐藤)

当たり前のように、劇的な変化も無く過ぎていく日々のなかにも、後々考えるととても重要に思える一日があるのかもしれません。一日一日を、丁寧に生きていきたいものです。(Chihiro)

Q3. よく行く書店や、ご利用されるネット書店についてご紹介ください。

「書店自体、あまり行かないのですが、近所にある『ふたば書房』にはたまに行きます。理由として近いことと、ある程度立ち読みしやすい雰囲気がある事が挙げられます。
大体は知人、友人に進められた本をネットで検索して、Amazonで購入というパターンです。」(佐藤)

お友達に本を教えてもらって読むと、本を通じて価値観が共有できるようで嬉しいですよね。[KAB読みもの探訪!]で紹介している本も、手に取って頂けると嬉しいです!(Chihiro)

限界芸術、マイナー音楽、そして日常生活のなかの一日と、曖昧ながらも重要な物事について深く考える本をご紹介頂きました。みなさんの気になる1冊はありましたか?
佐藤さん、ありがとうございました!

[KABインターン]
渡辺千尋:兵庫県生まれの瀬戸内海育ち。大学院でフランス近代美術を研究中。現代のアートマーケットの仕組みに関心があります。アートとサッカーをこよなく愛しています。

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KAB Interns . 学生からキャリアのある人まで、KABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。2名からなるチームを6ヶ月毎に結成、KABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中!業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、KABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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