美術家 大崎のぶゆき氏 インタビュー

関西はアートの懐(ふところ)が広い場所

In インタビュー by Chisai Fujita 2015-01-27

今回インタビューをした大崎のぶゆきさんは、大阪府岸和田市生まれ、京都市立芸術大学大学院修了、と生粋の関西っ子アーティスト。現在、愛知県立芸術大学で教鞭を取りながら、東京都現代美術館でグループ展「未見の星座」(2015年3月22日まで開催)に出品、と活動範囲は関西にとどまらない大崎さんに話を伺いました。

―大崎さんにとって「関西」は、どういった場所でしょうか。

現在、愛知県立芸術大学で教えながら制作をしていますが、関西は生まれた場所、育った場所、そして美術を学んだ場所、つまり僕の構造体のほとんどは関西でできてます(笑)。ここ数年の活動は、大阪や京都、愛知や東京だけでなく、ドイツなど海外でも行っています。でも僕にとって居心地のいい「関西」にしょっちゅう帰って、実家がある大阪に居たり、学生時代を過ごした京都に居たりしています。

―関西のどういったところが、居心地がいいのでしょうか。

アートの環境で言えば、関西のアートマーケットは小さいです。しかし関西で活躍している作家は、ペインティングだけでなく、写真や版画、インスタレーションといった、さまざまな種類の作家がいるので、作品や活動のフィールドに幅があるし、むしろ既成のメディアにとらわれない作家が多いです。そして僕たち作家を支えてくれる人たちも多い、と感じます。例えば僕は「京都芸術センター公募」(現在名称:「展覧会ドラフト」「作家ドラフト」)で個展をさせてもらったり、今はなくなりましたが、神戸アートビレッジセンターの「神戸アートアニュアル」に参加したり、大阪府のレジデンスプログラム「ART-EX」ではドイツに行かせてもらいました。それが現在の活動の礎となっています。今でも神戸アートビレッジセンターでは「1floor」という公募プログラムをしているように、関西には若手支援のプログラムが多くあります。こうした若手にきっかけがあること、育ててもらう場があることは、他の地域にはない関西の良さだと感じるし、関西は懐(ふところ)が広いと思います。

 

―大崎さんの作品を私が初めて見たのが、2007年に京都芸術センターで展覧会でした。そのとき出していた作品《water drawing-stardust-》が、現在、東京都現代美術館「未見の星座-つながり/発見のプラクティス」展に出しているのですね。

そうなんです。8年前に制作した作品なんですが、企画担当の学芸員さんから「この作品を出してほしい」ということで、今回展示することになりました。

―この作品から今なお、絵が溶けて行く作品をつくられていますが、なぜそういう作品をつくっているのでしょうか。

学生時代にセルフポートレイトを使った作品をつくってから、「自分とは何か」「世界とは何か」ということを考えています。僕にとって世界は不確かなもので、それを形にしようとすると、絵が溶けていったり、流れているような表現をするようになりました。どの作品もCGではありません。この《Dimension Wall》は、壁紙の模様が溶けていくことで、私たちが抱えている不安さを体感することができます。

 

また、認識の痕跡を形にした《Display of surface》では、警察のようにモノについた指紋の跡を取って表出させています。見えないものを見ることができる、つまり世界は不確かだけれども存在する、ということを表現しています。

 

―最近では、ご自身のことではなく、誰か他人をモチーフにして作品もつくっていますよね。

2年前に京都で初めて発表した「Trace Trip」シリーズが、そうです。その後ハンブルクや現在の東京での個展で発表しています。他人のアルバムを借りたり、インタビューをしたりして、その人の記憶や記録から場所や事象をたどって、物語をつくっています。東日本大震災以降、関西と東海エリアに縁のあることから、今後震災が起こりうる事を想像したとき、「もしこれから身近に起こったとき、何か残せるかもしれない」という思いから始めたシリーズです。

  

―最後に大崎さんのこれからを教えてください。

2月に京都でdabadaというアーティストの展覧会にゲストで呼ばれたり、3月には京都のギャラリー16で展覧会があります。あと昨年から自分都合でペンディング状態になっているアーティストブックの計画や、展覧会の予定があったりもします。いろいろとやりたいプランもあるのでこれからも制作を続けていきたいし、国内外問わずこれらを実現できるような大きな場所や美術館などで仕事ができればうれしいですね。

——

“Constellations: Practices for Unseen Connections/ Discoveries”
「未見の星座(コンステレーション)-つながり/ 発見のプラクティス」
Jan. 24(Sat)-Mar.22(Sun). 2015

MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO
東京都現代美術館
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/constellations.html

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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