シャレにしてオツなり −宮武外骨・没後60年記念−

明治生まれのパンクでラディカルな博覧強記ジャーナリスト

poster for Gaikotsu Miyatake 60th Memorial Exhibition

「シャレにしてオツなり - 宮武外骨・没後60年記念 - 」

兵庫県(その他)エリアにある
伊丹市立美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2015-01-10 - 2015-03-01)

In フォトレポート by Reiji Isoi 2015-02-16

明治から昭和にかけて活躍し、稀代のジャーナリストと称される宮武外骨(みやたけがいこつ)の展示 「シャレにしてオツなり −宮武外骨・没後60年記念−」が、兵庫県伊丹市立美術館にて開催中です。

風刺とユーモアを軸にコレクション展示を行っている伊丹市立美術館では、19世紀の風刺作家ドーミエ他、風刺画家の作品を多く収蔵しています。宮武外骨は、幼少期に国内外の風刺雑誌から刺激を受けて反骨精神溢れるジャーナリストとなり、先鋭的なユーモア感覚と批評精神で、社会に対してメッセージを発信し続けました。

同館の外骨関連の展示としては、開館20周年事業として2008年に開催された「宮武外骨~希代のジャーナリスト」展以来のものとなります。今回の展示は、明治時代に出版された「絵葉書世界」を中心に、外骨のコレクションを公開しています。

1つめのフロアでは、外骨が出版した新聞・雑誌、収集した書籍を紹介し、波瀾万丈な人生とその人物を紹介しています。

外骨が、10代の頃に影響を受けた国内外の風刺新聞、20歳の頃に初めて出版した「頓智(とんち)協会雑誌」をはじめ、「滑稽新聞」「スコブル」など外骨の名を世に広く知らしめた新聞雑誌や、関東大震災の後すぐに出版した「震災画報」など、外骨に関わる出版物が網羅的に展示されています。その他にも、「賭博史」「筆禍史」「奇態流行史」など、外骨が独自の視点で編集した刊行物を見ることができます。

その執筆・出版活動において、何かと物議を醸すことの多かった外骨は、生涯に、筆禍による入獄4回、罰金15回、発禁処分14回を数えながらも「過激にして愛嬌あり」の精神で、旺盛な出版活動を行い1000冊を超える刊行物を遺しています。

外骨は22歳の頃に、自身が創設した頓智協会より発刊した「頓智協会雑誌」の中で、当時発布されたばかりの明治憲法をパロディにした風刺記事を掲載したことで不敬罪に問われ投獄されました。この事件により、自由な表現もままならない現実に憤りを感じた外骨は筆の力で世の中を変えていこうとする意志を強めました。外骨は、獄中でも秘密裏に囚人たちの投稿を集め「鉄窓詩林」として印刷発行を企て、後に「獄中記念物」としてまとめています。

その後、再起した外骨は「滑稽新聞」を創刊し、誌面には、警察署長の不正や悪徳商法の首謀者を長期間晒すなど、皮肉、ブラックユーモアを交えたきわどい表現が満載され、大手新聞社の発行部数が10万部の当時に、滑稽新聞社の発行部数が8万部を記録するほどに庶民の人気を博しました。影響力を持つようになった「滑稽新聞」は、その後もたびたび当局からの規制を受けますが、外骨はあらゆる手段を駆使した多彩な表現で新聞メディアの力を最大限に発揮し、自身の考えを発信し続けています。その表現手法のなかには、テキストアートのはしりともいわれる斬新な表現なども多く見受けられます。

大正12年に起こった関東大震災の際には、余震も収まらない混乱状態のなか、外骨が自ら取材・執筆・編集をし、震災から25日後に「震災画報」として発行しています。震災当日、外骨は自宅で「川柳語彙」と「変態知識」という刊行物のための打ち合わせをしていましたが、屋外へ避難し、墓地での野宿、奪い合いのような玄米の買い入れ、不眠不休でつづけた夜警団の配置監督役等を経て、震災から9日目に本誌の発行準備に着手したそうです。新聞紙の号外すら出せずにいる混乱状況のなかで、震災の実情を伝える「震災画報」をわずか3週間あまりで発行した背景には、外骨の並外れた行動力とジャーナリストとしての使命感を感じます。

2つめのフロアでは、「絵葉書世界」のコレクションが公開されています。

明治時代、日露戦争の頃の日本に熱狂的な絵葉書ブームが巻き起こり、それに目をつけた外骨は、明治38年3月〜7月にかけて、滑稽新聞社から6枚1組の「高等滑稽意匠絵葉書」を出版し、さらに「絵葉書世界」を刊行しました。

イラストとデザインの多くは外骨の奔放なアイデアによるもので、江戸時代の浮世絵の伝統を継ぐ絵師たちがそれを表現しています。謎かけのようなイラストは、葉書の表裏両面を見ることでその真意が解るように巧みに構成されており、その魅力を高めています。

滑稽新聞をはじめ何度も発禁処分を受けた外骨ですが、絵葉書世界では、ときにわいせつ・風俗壊乱として検閲の対象となっても、ぎりぎりのラインを、猥雑さと格調高さを併せ持つウィットに富んだ表現へと昇華させて刊行する編集者としての手腕を発揮し、商業的にも成功を収めています。

なかにはドット絵のような表現や、文字通り枠からはみ出した図案など、その高度なデザイン性や、現代にも通じるPOPな表現力に驚かされます。またこのフロアでは、宮武外骨のユーモアとシャレの効いたヴィジュアル表現に通じる作家として、武田秀雄、浅野竹二の作品も展示されています。

「滑稽新聞」のコレクターでもあり「滑稽新聞完全復刻版」の編集にも携わった赤瀬川原平は、著書「学術小説 宮武外骨という人がいた!」の中で、外骨とその刊行物の持つ魅力を執拗に掘り下げて解説し、外骨の透徹した洞察力、メディアを駆使したパフォーマンス性、現代芸術性、表現のユニークさなどを賞賛し、外骨の表現を、雑誌的、消耗的表現であるにもかかわらず「永続性な現代性を持っている」と評しています。

表現・言論の自由が保証されていなかった時代に、風刺とユーモアを武器に創意工夫し、人々の心を掴むメッセージを発信し続けた外骨の新聞・雑誌表現は、現代においてもなお斬新な魅力を放っています。

「滑稽新聞」「スコブル」「絵葉書世界」をはじめ、宮武外骨の過激にして愛嬌のある刊行物を目の当たりにできる貴重な機会に、是非足を運んでみてはいかがでしょうか?

【開催概要】
兵庫県伊丹市立美術館
シャレにしてオツなり −宮武外骨・没後60年記念−

会場:伊丹市立美術館地下1階展示場
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)

休館日:月曜日

入館料:一般300(240)円、大高生200(160)円、中小生100(80)円
※( )内は20名以上の団体料金*兵庫県内の小中学生はココロンカード呈示にて無料
※4市1町(伊丹市・川西市・宝塚市・三田市・猪名川町)の 高齢者割引有(平日60歳以上、土日祝65歳以上)
主催:伊丹市立美術館[公益財団法人伊丹市文化振興財団・伊丹市]
共催:伊丹市教育委員会 2月14日|土|ー3月1日|日|は「平成26年度 伊丹市芸術家協会展」(美術館2階展示室) と同時開催
詳細:http://artmuseum-itami.jp/jp/category/exhibition/current_exhibition/

Reiji Isoi

Reiji Isoi . 1978年生まれ。00年代前半より音楽業界を中心に写真の撮影活動を始め、音楽・美術・文芸誌に写真・インタビュー記事等を寄稿するほか、映像撮影・制作の仕事に携わる。仲間と突発的に結成した『宇宙メガネ』からも不定期に発信することがある。各地で起こる皆既日食、米国のバーニングマン、インドのクンブメーラ祭、古代遺跡でのイベントなど、津々浦々で出会う作品や表現者たちとの交流を通じ、森羅万象の片影を捉えようとカメラを携え日々撮り続けている。 http://razyisoi.jp/ ≫ 他の記事

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