アーティスト 中西信洋氏 インタビュー

発信していくことができれば、場所は関西でいい

In インタビュー by Chisai Fujita 2015-02-06

アーティストの中西信洋さんの経歴を見ているだけでは、関西に関係している人とは思えません。しかし親の転勤で小学校時代は大阪や兵庫で過ごしたり、東京の大学を卒業してから京都市立芸術大学の大学院へ進学、さらに現在のアトリエは大阪府内、とちゃっかり関西人。そんな中西さんに海外展開も含めた近況をインタビューしました。

―中西さんにとって「関西」は、どういった場所でしょうか。

親の転勤で大阪や兵庫の小学校に通っていました。そのため僕は、東京造形大学で彫刻を勉強したものの、関西方面の大学院を選ぶことに抵抗感はありませんでした。カタログなどの資料を眺めていたとき、京都市立芸術大学の先生方=中原浩大さんや小清水漸さんなどの作品は、僕がそれまで東京で出会った先生方の作品とは全くタイプが違っていました。その異質な感じが魅力で、京都市立芸術大学の大学院へ進学を決めました。京都は街がコンパクトな割に美術系大学が多く、東京と比べて家賃も安いので、アトリエをシェアして制作を続けている人たちも多いですよね。交通の便がいい、情報が届きやすい一方で、ビジネスとしてのアートマーケットが成立していない。僕も20代後半から30代前半は自由に制作して、仲間たちと展覧会をしていました。

―中西さんの作品は、彫刻といっても木を削ったり粘土をこねたりするようなものではありません。どういう作品をつくられているか、教えていただけますか。

近年は、主に2種類の作品をつくっています。

ひとつめは《Layer Drawing》シリーズ。写真フィルムを重ねて、うつりゆく時間を表しています。空間は人と共有できますが、時間をとどめたり触れたりすることができないもの。時間を積層することで、彫刻として成立させています。

もうひとつは《Stripe Drawing》シリーズ。無数のストライプの線を描いているドローイング作品です。フリーハンドで線を描くのですが、線は集まることで何かの形が生まれ、同時に余白にも形が生まれる。そんな図と地が入り混じり、互いにつながりながら存在します。

―2つの作品は研ぎ澄まされた感性や感覚は似ていますが、ぱっと見だけでは同じ作家の作品には思えません。

どちらの作品も、時間や空間といった、触れることができないものを、視覚を通して感じてもらおうとしています。それを表すのに、僕の身体と見る人の身体の関係を意識しています。展示空間の中では、視点の移動や見る角度、作品の周りを動くこと、といった経験を重視しています。

今はもうない大阪府立現代美術センターでの個展で発表して以来、これら2つのシリーズを組み合わせて展示することで、「触れられないものに触れようとする」という考え方を、違う角度から見せています。

―こうした中西さんの作品は、どこで見ることができるのでしょうか。

今年は東京と鹿児島のギャラリーで個展の予定があります。ここ最近は、日本ではなく海外で展覧会をすることが多いです。

―海外、ですか!

僕は制作場所が大阪で、サポートをしてくれる業者さんも関西が多い。そして作品の発信先、つまり展覧会は今のところ海外が多いのです。東京の方が情報はあるし、美術業界も近いけど、僕は発信していくことができれば、場所は関西でいいし、ウェブサイト経由で問い合わせが届きます。

先にも述べましたが僕の作品を見るときは、視点を動かしたり、作品のまわりを歩き回ることになり、それは西洋的な空間のつくり方とはやりかたが異なります。だからといって西洋人に僕の作品を理解してもらえない、ということにはなりません。例えば宗教は、国や国境で区切られるものではなく、入り混じっているものです。あるいは気候でも、同じ日本でも北と南では違いますよね。美術もそういったものと同じ、その違いは国や国境で区切られることではない、と思います。

―今後も、この2つのシリーズは続いていくのでしょうか。

実は最近「絵」を描いています。《Stripe Drawing》は壁つまり空間に線を描いていたものですが、絵はキャンバスに絵具を重ねて行く作業。まだおひろめしていませんが、いつか発表しますのでお楽しみに。

・・・・・
今後の予定
今年の秋ごろに、Yumiko Chiba Associates(東京)とMizuho Oshiro Gallery(鹿児島)で個展を開催する予定。

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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