壬生狂言、新撰組ゆかりの寺として有名な壬生寺の向かいにある美術館「京都 清宗根付館」を知っていますか。現代根付を中心に4000点を超えるコレクションを所蔵する日本最大の根付専門美術館です。2015年1月5日から「稲田一郎 不朽の美」展が開催中の本館にて、スタッフ伊達さんにお話を伺いました。
根付とは、男性に欠かせないファッションアイテム
美術館を訪れると、手のひらに乗るほどの小さな彫刻がずらり。そもそもこの根付とは何でしょうか。誕生は定かではありませんが、江戸時代のことといわれています。当時和服にはポケットがないので、人々は印籠や煙草入れ、胴乱、巾着などの持ち物を、紐で括り帯に吊るして携帯しました。その際、落ちないようにする留具として活用されたのが根付です。ゴルフボールほどの大きさで、形は帯や着物が傷つかないよう丸みを帯びた物が多く、裏に紐を通すための穴が二つ空いているのが特徴。手に取って使用するものなので、360度どの角度から見ても美しくつくられています。
「水戸黄門では印籠を懐から出しますよね。紋所が一目瞭然になってしまうのを避けるためにそうしているんでしょうけど、本当は腰の辺りにつけていたんです。当時、根付や印籠といった小物はあまり派手な着物を着ることができなかった男性のおしゃれとして欠かせないものでした。時計にこだわるのと同じ感覚と言えば分かりやすいでしょうか。男性って、形とかメーカーとか、実用性とは別の要素を重視するでしょう」(伊達)
近代根付の巨匠・稲田一郎と海外から見た「Netsuke」
美術館では定期的に、現代の作家を中心とした個人作家の企画展を開催しています。本展の作家、稲田一郎は明治時代に生まれ大正時代から昭和初期にかけて活躍し国内外から高い評価を得ました。絵画を学んだ経験が活きた着色と、七福神や猿回しなど日本独自の題材が海外の人々に好まれ、多くの作品が輸出されました。猫背やあぐらをかいたような姿勢の表現は、丸い形にするための工夫のひとつ。人や動物の表情は、日本的でどこか愛嬌を感じられるものばかりです。
ところで、「Netsuke(根付)」は海外の方にも人気だそうです。美術館のパンフレットやカタログがすべてバイリンガルでつくられていることからも分かるように、訪れる外国人は後を絶ちません。
「戦後、根付に注目したのは日本人よりもむしろ外国人。お土産として雑多に売られていた根付を、アメリカ人が国に持ち帰り良さを知り、たくさんの根付が渡っていきました」(伊達)
いきいきと表現される「現代根付」
美術館では、企画展以外にも常設として約400点の根付が展示されています。十二支や縁起物を象ったもの、食べ物、動物などテーマは様々です。凝った仕掛けが施されたものもあり、例えばカメの出産を表現した根付(写真)は、本体の中に2ミリ程度の小さなカメが多数収納されています。細部まで写実的につくられた落花生(写真)は、本物の中に混ぜ入れて他人を驚かすジョークとして使えそうです。作家の個性がいきいきと反映されている「現代根付」は戦後、江戸時代の優れた技法を活かしつつ、現代人にとって身近な素材、テーマで制作されてきたジャンルです。
「和装から洋装へと人々の生活スタイルが変化し、衰退しつつあった根付ですが、国内の収集家や海外での人気に支えられ現代根付という分野が確立されていきます。当館も根付文化の発展と継承の一助となることを願って一般公開させて頂いております」(伊達)
根付と歴史を供にしてきた趣き深い木造建築
京都市指定有形文化財に登録されている建物も魅力的。壬生郷士、神先家の住宅として1820年に建てられたものと推測されているこの建物の見どころは、縁側に展開する庭園風景です。茶室と15畳にもわたる座敷を結ぶ縁側には柱が無く、パノラマ状に視界が広がります。2007年の美術館開館に伴い修繕が施された建物は、伝統的な味わいがありつつもどこかモダンで、歩いているだけでも様々な発見があります。
「江戸時代にできたということで、根付の歴史と一致します。この建物と供に、今後の根付の歴史を切り開いていけたら幸いです」(伊達)
「稲田一郎 不朽の美」展は3月31日まで開催中。隔月だった開館は、今年から通年になる見込みです。ぜひ訪れて、手のひらサイズで展開される驚くべき意匠を感じてみてください。
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【開催概要】
根付作家 特別企画展
「稲田一郎の世界 不朽の美」
http://www.netsukekan.jp/exhibition/201501
日時:2015年1月5日(月)- 3月31日(火) 10:00〜17:00(最終入場16:30まで)
休館日:月曜
観覧料:一般1000円 小学・中学・高校生500円
交通:市バス「壬生寺道」より徒歩3分
お問い合わせ
京都 清宗根付館 TEL: 075-802-7000