アートを仕事にする方法 Part 1

HAPSディレクター芦立さやかさんへインタビュー

In インタビュー by KAB Interns 2015-03-05

はじめまして、KABインターンのChiekoです。
関西のアートシーンを支えている方々は、どのように今のお仕事に辿りついたのでしょうか?これまでに何を経験し、学んでこられたのかをお伺いすることで、それぞれのアートや仕事に対しての向き合い方を知ることができるかもしれません。そこで、キュレーターやギャラリストの皆さんに直接お話をお伺いしました。

第1回目は、東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)ディレクターの、芦立さやかさんです。

-いつ頃から、アートのお仕事に就くことを意識されていたのでしょうか?

気づいたら、ですかね(笑)。高校生までは、ずっとピアノを弾いていました。たまたま選択科目で美術を選んでみたら、担当の先生がすごくおもしろい先生だったんです。高価なカメラをたくさん持っていて、それを借りて写真を撮って、暗室で焼いたりしていました。

-美術だけ、というわけではなく、様々なものに興味をお持ちだったんですね。

単純に、おもしろいと思うものに出会うのが好きなんでしょうね。だから、美術を専門にとは考えていませんでした。高2になって進路について考えるとき、美術と技術が得意だったので、どっちかにしようって、美大を選びました。

-大学時代はどのような活動をされていたのでしょうか?

1年生のときに、たまたま先輩のお手伝いで東京の上野・谷中周辺のイベントに行って、
そこで、SCAI THE BATHHOUSEの方と出会ったことがきっかけでインターンをはじめました。大学に入学した直後で、現代美術についてや有名なアーティストについて分からないことばかりでした。でも、自分が知らない世界がとても面白く感じて、わくわくしたのを覚えています。現代美術の周辺でどのような人が動いてるのか、アートにまつわるお金の動きや美術館の運営に興味を持つようになったきっかけですね。

-そのままギャラリストになろうとは思われなかったのでしょうか?

大学3、4年の間の春休みに、横浜にBankART1929ができることを知って、何でも良いので関わらさせてくださいと言ったら、お手伝いできることになって。そこで、ギャラリーの仕事よりアートセンターの動き方に興味を持ち、卒業後もそのまま働きました。もちろんSCAIでインターンをさせてもらった時の貴重な体験は今も役立っています。

-BankART1929を退職後は、どのような活動をされていたのでしょうか?

その後2、3年は、全国の展覧会の制作やフェスティバルの事務局などの仕事を転々としていました。展覧会の準備のために、2、3ヶ月間一気に集中して仕事をするんですが、その間は次の仕事のことなんて考えられないですよね。終わってちょっと一息ついたら、また短期の仕事が突然入るという先の読めない状況でした。もちろん、現場の仕事は楽しかったです。でも、体力もいるし本当に安定しない生活で、このままだとよくないなと考え始めたんです。今の状況を変えることはできないだろうか、と模索していました。

-様々な現場をご覧になって、どのような発見があったのでしょうか?

展覧会やフェスティバルの現場で働くなかで、アーティストたちと、現場の不満や生活の不安、未来のことなどをよく語り合いました。皆さん、私と同じように全国津々浦々をまわって、新作を発表し続けるハードな生活を送っていました。
行政や企業にとって重要なのは、来場者を何万人集めたとか、経済効果はどれくらいだとか、数字の成果なんですよね。確かに、そういう結果が出やすい発表の機会を作ることはすごく大切です。でも、数字の成果ばかり追う現行のシステムでは、アーティストはただ消費されて、疲弊していくばかりです。もっと違った形でアーティストを支援する方法があるんじゃないかな、と考えるようになりました。HAPSなら、そういう実験的な試みにチャレンジできると思ったんです。


ーHAPSの事業に関わられるいきさつはどのようなものだったのでしょうか。

ニューヨークで、レジデンスをコーディネートするオフィスでインターンをしているときに、遠藤(遠藤水城さん: HAPS 実行委員長)から連絡がきて、京都にこない?と誘われました。最初は迷っていたんですが、その後311(東日本大震災)が起こって。何か新しいことを始めたいと思って、日本に帰ってすぐに京都に行き準備をはじめました。それまで京都には旅行でしか来たことがなかったんですけど、新しい世界に出会えると思ったら、わくわくしましたね。

-HAPSではどのような形でアーティストをサポートされているのでしょうか?

HAPSは京都市の委託により、「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」を主な目的として設立した団体です。物件を紹介したり、制作をはじめ、アーティストの様々な活動上の相談に応じています。つまり、アーティストのニーズがあってこその活動で、主体はあくまでもアーティストなんです。難しい相談も沢山ありますが、解決するというよりも、模索しながら、きっかけを一緒に作っていくというスタイルです。

-HAPSのお仕事で楽しいと思われる瞬間はどんなときですか?

物件がマッチングしたときや、すごく大変だったプロジェクトが最後に良い形でまとまった時は励みになります。あとは、HAPSで出会ったアーティストが、自分の力でさらに活躍しているのを見たときです。

ー今後の展望はどのようなものでしょうか?

先のことはわからないですね。今もずっと、勉強をさせてもらってるって気持ちなんです。現時点がゴールではないので、また全然違うことをやるかもしれません。バリバリ作品を売っているかも(笑)。でも、これからもHAPSはあり続けてほしいと考えています。アーティストがその地域に根を張ることによって、経済的なものとは別の豊かさをもたらすことを、私は経験してきたし信じているんです。

<Chiekoあとがき>

芦立さんは控えめに「出会った人に流されて生きてきたんです」と語られました。けれど、その出会いは偶然でも幸運でもなく、わくわくする気持ちに素直な好奇心や、積極的な行動が導いた出会いに他なりません。お話をお伺いして、たくさんの出会いの中で模索し、選び、時には捨てながら、今のお仕事にまで辿りつかれたのかなと感じられました。「先のことはわからないですね」という軽やかな答えは、見えない未来も楽しもうとしておられるようでした。

取材先:東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)
京都市東山区大和大路五条上る山崎町339

[KABインターン]

中川千恵子:大学院生。インドでアートプロジェクトに参加してから、社会に意思表明するアートに関心を持つようになる。アーティストをサポートする仕事に就くために日々勉強中。

[インターンプロジェクト]

本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。

KAB Interns

KAB Interns . 学生からキャリアのある人まで、KABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。2名からなるチームを6ヶ月毎に結成、KABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中!業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、KABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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