関西のアートシーンを支えている方々は、どのように今のお仕事に辿りついたのでしょうか?これまでに何を経験し学んでこられたのかをお伺いすることで、それぞれのアートや仕事に対しての向き合い方を知ることができるかもしれません。そこで、キュレーターやギャラリストの皆さんに直接お話をお伺いしました。
第2回目は、大阪にギャラリーを構えながら、国内のみならず海外のアートフェアにも積極的に出展されているTEZUKAYAMA GALLERY代表の松尾良一さんです。
-現在の主なご活動について教えてください。
「今運営しているギャラリーはこの1軒(TEZUKAYAMA GALLERY)で、若手の作家を売り出すために海外のアートフェアや展覧会を企画しています。作家との打ち合わせや全体の管理はしますが、プレスやウェブサイトなどの仕事はスタッフに任せています。1人ですべてやろうとすると、利益を出すのがおろそかになってしまうので、僕自身は独立したときから継続している現代美術のセカンダリーマーケット(※1)のビジネスにある程度集中してます。」
※1 セカンダリーマーケット: 第2次のマーケット。作家に人気が出て需要が供給(制作数)を超えると、アート・ディーラーやセカンダリー専門のギャラリー、オークション会社などで売買されるようになる。対して、第1次であるプライマリーマーケットでは、作家が新しい作品を発表し、ギャラリーが販売するのが主な市場。
-元々、アートや芸術にご関心があったのでしょうか?
「全然(笑)。大学を卒業して一般企業に勤めたけど、サラリーマンは向いてないと分かって1年半で仕事をやめました。山小屋で住み込みのバイトを3ヶ月して、アメリカでも行くかって考えてたときに、東京でギャラリーを経営していた兄に仕事を手伝えへん?って誘われて。2、3ヶ月東京で修行したあとに、ギャラリーを開きました。だから、こんな仕事があるなんてことも知らなかった。」
-全くご興味のなかったアートを仕事にされたのはどうしてなのでしょうか?
「ビジネスとしておもしろいと思ったから。アートマーケットは、作品の価値の評価基準が公にはっきりしないもので、そこがエキサイティングでおもしろい。でも独立したときは、美術のことも売買のことも何も知らなかった。そのとき兄に、サラリーマンみたいに下手に出る態度やったら絶対あかん、見え張ってでもそれなりの振る舞いをしろって言われたのを今でも覚えています。だから、画廊さんに営業に行って質問されたら、あーあれですね!って知ったかぶりして後で調べたり、とにかく必死でした。」
-プライマリーの作品も取り扱われるようになったのは、お仕事に対する考え方に変化があったからなのでしょうか?
「セカンダリーの仕事では、自ら作家を発掘し作り出していくことがありません。海外のアートフェアなどを見ていて、自分も日本のアーティストを紹介していく仕事がしてみたいと思いプライマリーの仕事も始めました。アート界に関わって15年くらい経った頃ですね。
マーケットがどういう構造をしているか、海外ではどのように新しい作家が売れていくのかは分かる。その巨大な世界マーケットに打って出る力は僕には無いかもしれないけど、自分が好きだと判断した作家や作品と向き合い、どのように理想を現実化させていくかを考えるのが楽しい。」
-売れやすい作品と、松尾さんご自身が評価している作品にギャップがあったということでしょうか?
「全てがそういう訳ではないです。ただ、やはりマーケットで評価されるものが全てが良い作品とは感じないので、理想と現実の差はあるかなと思います。
アーティストは過度にマーケットの動きを考慮する必要はなくて、彼らが表現したいことを見せればいい。僕も、もっと彼らの良さを引き出せるような展示をしたい。作家の表現したいことと僕のやりたいことを、一緒に試行錯誤しながら実現させたい。もちろん単に理想を語るんじゃなくて、その中で現実にビジネスとして成り立たせることを目指してるけどね。」
-制作について作家さんにアドバイスされることはありますか?
「作家自身が持つ考えや表現方法を評価しているからその作家を扱っているので、基本的には何も言いません。もちろん相談されたらアドバイスはするけど、それを取り入れるかは作家の自由。
でも、作家自身がどうなりたいかっていうビジョンを持っていてほしいとは思う。僕はよく、この小さなギャラリーを埋めれへんなら、大きな美術館なんか絶対無理やでって言います。セルフプロモーションするためにも、自分の作品がどう見えるのかイメージを持ってる方が良い。」
-お仕事で1番やりがいを感じる瞬間はどんなときですか?
「海外のフェアや展覧会で作品が売れたらやっぱり感動します。金額の設定や作品のセレクト、展示の仕方、ひとつひとつを選んで作りあげた展覧会でその作家が認められるってことやからね。特に海外のお客様にとっては、それが作家とのファーストコンタクト。どう反応されるか分からない中で、だんだん人が群がってきて、購入が決まった瞬間は本当に気持ち良いですね。」
-今後の展望について教えてください。
「今ある形を継続しつつ、もっと大きくしてゆくことかな。僕たちがやりたい方法で作品を発信して、それが評価されて、海外のギャラリーに所属するアーティストをどれだけ送り出せるか。
1990-2000年代は、アーティストにとって不遇の時代と言われています。今、プライマリーギャラリーの皆さんがものすごく頑張ってその空白期間を埋めようとしてるんですよ。それは今は大きな美術史には残らないかもしれないけど、その土台をしっかり作ることが僕たちの仕事かなと思うし、その作家たちが後世に残るかもしれない。同業者の先輩たちがやってきた仕事を尊敬するし、あとの僕たちはやっぱり負けたくない仕事をしたいなって思うね。」
<Chiekoあとがき>
松尾さんのお話をお伺いして、シビアな業界でご自身の理想を実現する難しさと同時に、そのおもしろさが伝わってきました。「理想と現実」という言葉はネガディブな意味合いで使われることが多いのですが、夢を夢のまま終わらせないために必要な視点かもしれません。
取材先:TEZUKAYAMA GALLERY
〒550-0015 大阪府大阪市西区南堀江1-19-27 2F
[KABインターン]
中川千恵子:大学院生。インドでアートプロジェクトに参加してから、社会に意思表明するアートに関心を持つようになる。アーティストをサポートする仕事に就くために日々勉強中。
[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。