Dance Fanfare Kyoto は、ダンス作品のクリエイションを通して、身体の可能性を探る実験の場です。2012年2月に開催された「We dance 京都 2012」を足がかりに、アーティストと若手制作者が企画を立ち上げ、2013年7月にvol.01、2014年6月にvol.02が実施され、総勢100名以上のアーティストがジャンル・バックグラウンド・世代の境界を越えて参加しました。Dance Fanfare Kyoto vol.03が2015年5月29日~31日に開催されるのにあわせ、ディレクターであるきたまりさん(ダンサー・振付家、KIKIKIKIKIKI)に、各プログラム内容や見どころについてお話を伺いました。
―初めに、Dance Fanfare Kyotoを立ち上げたきっかけや経緯について教えてください。
きた:元々、横浜で開催されていた「We dance」という企画を、私が京都でプログラムを組んで、2012年に「We dance 京都 2012」としてやることになったのがきっかけです。関西というか特に京都は、ダンスアーティストが多い土壌だと言われながらも、ダンサー同士が一緒に作品をつくる機会が少なく、それぞれが個別にやっている印象がありました。なので、お互いの考えていることを知ったり、作品を一緒につくる機会がもっとあればいいのにという意識でプログラムを組みました。そして、終わった後にすごく良い時間だったなと思ったんです。出演者も「ずっと知っているダンサーだったけど、初めて一緒に踊った」ということがすごく多くて、もう知っていると思っていた相手と新しく出会い直すことで、たくさんの発見がありました。こういう機会はこれからも必要だと感じて、京都で「We dance」みたいな企画を立ち上げたいと思ったのがきっかけです。
―Dance Fanfare Kyotoは今年で3回目になりますが、回を重ねてきて、関西のダンスを取り巻く状況や意識の変化はありましたか?
きた:私たち運営側と参加アーティスト側、両方にとって意識の変化があると思います。一つの結果としては、参加者たちが、Dance Fanfare Kyotoでこれまで出会わなかった人たちと出会って、その出会いが次の創作に活きるということが活性化していると思います。例えば、以前は同じ大学出身者だけで作品をつくっていたダンサーが、Dance Fanfare Kyotoで出会った人と一緒につくるようになったり、近い年齢やジャンル内で偏りがちだったのが、離れた世代や他のジャンルのアーティストと交流するようになったり。
運営側としては、毎年、やり終わるたびに、「今年はこういうことが伝わらなかった、こういうことを意識していなかった」という反省が出ます。来年度にその反省をどう活かすかをステップアップとしてやっているので、発見が多いです。また、Dance Fanfare Kyotoでは、企画ごとにディレクターがいるのですが、それぞれの企画内容に関しても、すごくミーティングを重ねています。自分の考えていることが他人から見たらツッコミどころが多かったり、危うかったりするので、訓練みたいなミーティングだと思うし、非常に良い対話が生まれていると思います。
―今年の各プログラム内容について紹介してください。
きた:上演プログラム自体は3企画5作品です。あとはワークショップ、トーク、カフェがあります。
■PROGRAM 01「ダンス、なんや?」(ディレクション:きたまり)
きた:これは私の企画で、ヨーロッパ企画の演出家・上田誠さんと、contact Gonzoの塚原悠也さんのお二人に、ダンスを演出した作品をつくってもらうというものです。
上田さんは演劇の演出家で、基本はコメディなので、今回はダンスコメディをつくっていただきます。上田さんの作品はコントやエンターテイメントのイメージが強いですが、作品のつくり方について話を聞いた時に、「これはダンスに応用できる」と思いました。というのは、彼は台本からではなく、まず空間の設定からスタートするんです。例えば、迷路みたいな城とか、飛行機という設定とか、空間的に横なのか縦なのかをまず決めて、その空間を舞台美術で仮組みして、俳優に色々なお題を出して、即興で話を展開してもらい、そこから台本を書いていく。この手法はダンスっぽいなと思って、上田さんにダンス作品をつくってほしいとずっと思っていました。
もう1作品では、contact Gonzoの塚原さんにダンス作品をつくっていただきます。出演者は、contact Gonzoのメンバー4人と男性ダンサー1名の計5人です。塚原さんは、contact Gonzoのこれまでの作品では、ダンスという感覚ではつくっていなかったそうです。でも今回は、あえて「ダンス作品」をつくることにチャレンジしてもらいます。塚原さんのダンスの価値観がどういうものかきちんと提示しないと、ダンス作品としては成立しないと思うので、意見交換をメールでたくさんやり取りしました。今回の作品の大きな枠組みは、contact Gonzoが普段はあえてやらない、捨てている素材を集めること。彼らは普段は野外でしか練習しませんが、今回は屋内のリハーサル室で稽古することと、「動きを細かくデザインする」ということの2つがあります。
メールでのやり取りの中で、塚原さんのダンスの定義が、「動きを細かくデザインすること」であるという印象を受けました。ある意味当たり前のことですが、例えば、「振付」という言葉を使わずに、「身体へのデザイン」という言い方をしたり、言葉を変えてもう一度掘り下げていると思います。
もう一つ、塚原さんからは、「ダンスにまつわる制度をあえて全部やってみる」という提案がありました。私のようにどっぷり浸かっている人間からしたら「ダンスにまつわる制度って何だ?」と思うわけです。
―色々あると思います。振付家とダンサーという役割であるとか、劇場という役割、観客という役割もあるだろうし、「プロのダンサーが踊る」という固定観念や、訓練された動きとそうでない人の動きとの違いなど。
きた:ええ。でも、今言われたことを全部制度だと感じていなかったんです。そういうたくさんの当たり前だと思っていることに、改めて気づき直すことで、全く違う何かが生まれるのではないかという期待があります。塚原さん自身としては、ダンスに対してある種の挑発が可能かをやりたいと言っているので、それが見えたらとても嬉しいです。
だから、私の企画に関しては、どんな作品になるのか全然分からないので、最終的に「ダンス、なんや?」というタイトルになりました。本当にダンスが出てくるかどうか分からないし、もしかしたら全然ダンスではないかもしれない。でもそれは、実はどうでもいいことかもしれない。たぶん二人とも、ダンスというものを扱って作品をつくってくれると思うので、何が出てくるかなと期待しています。
■PROGRAM 02「美術×ダンス」(ディレクション:御厨亮)
―ダンスと美術をコラボレーションさせようという企画の狙いはどこにありますか?
きた:これまでも Dance Fanfare Kyotoでは、「演劇×ダンス」「美術×ダンス」「音楽×ダンス」という試みをやってきました。美術とのコラボレーションのすごく良い点は、空間性をダンサーがいかに意識できるようになるかということに関わっていることです。
よく、他のジャンルの人から、「ダンスは、身体ひとつあれば、色々な所に行って踊れるから、フットワークが軽くて良いよね」と言われます。そういう一面もありますが、美術の場合は、空間のどこに展示するかという意識があるし、演劇の場合は、その設定を舞台美術でつくりますが、意外とダンスって、モノで空間をつくることがそんなに多くないんです。ただ、やはり空間が違うと、身体の見え方も絶対に違ってくる。でも、そういう意識を実験できる場がそんなに多くない。そこで、例えば、美術作家が一枚の絵を描いたり、何かモノを持ってきた時に、それが身体とどう反応し、溶け込み、あるいは対立してもいいのですが、モノや空間とダンスをどのように組み合わせることができるだろうかという意識から、「美術×ダンス」の企画が生まれました。
―去年の「美術×ダンス」を拝見して、美術作家とダンサーの持っている感覚がすごく合っていて面白かったし、空間の中にモノがあることで、ダンサーの身体的な意識が変わっていくことも分かります。では美術作家にとって、ダンサーとのコラボレーションがどういうプラスの経験になって返ってくるのでしょうか?
きた:去年のプログラムが終わった後、その点について反省を話し合いました。去年は、美術作家のつくったインスタレーション空間の中でダンサーが踊るというもので、お互いに相手の領域には踏み入れない印象がありました。でも、ずっと良い関係のまま続くのではなく、その良い関係の中で衝突したり、すごく離れたり、もっと密接に関わったりする方がお互いにとって強い経験になるのではないかと思います。たぶん、良い距離感を保ったままだと、お互いが想像しなかったことが発生しない。だから今年は、もっと美術と身体が関わって、お互いに想像しなかったことが発生するのかどうか分からない状況で、つくる時間が生まれてくればと思います。
具体的に言うと、鬣(たてがみ)恒太郎さんというペインターの方にライブペインティングをやっていただくのですが、ダンサーが筆になるというイメージです。鬣さんが描きたい絵は、ダンサーの身体が動かないと描けない。美術作家に振付されているダンサーの身体が生まれると思います。美術作家から、言葉やイメージで与えられた情報をムーブメントとして想像して出すのがダンサーの仕事になるので、鬣さんがイメージしたものと、ダンサーがそれを受け取って動きとして出したものが一緒になって、最終的には絵になるのだろうと思います。
■PROGRAM 03「ねほりはほり」(ディレクション:和田ながら)
きた:「ねほりはほり」は、振付家がダンス作品を「つくる前」「つくっている最中」「上演する間際」に、インタビューを受ける企画です。インタビュアーとの対話を通じて、ダンス、身体、作品について考えていることを、ねほりはほり聞き出そうというものです。
―上演後のアフタートークはよくありますが、作品をつくる過程の中で、複数回のインタビューを行うというのは、どういう狙いがあるのでしょうか?
きた:ダンスは言葉にするのが難しいとよく言われる一方で、ダンスの魅力を伝えるには言葉というメディアの力も大きいと思います。「ねほりはほり」では、ダンスを徹底的に言葉にしてみるために、インタビュアーとの対話に加えて、初対面のダンサーに出演してもらうという枠組みを設けています。振付家は若手の人ですが、「作品をつくりたい」と思っている意志が強く見える人を選んでいます。今年は、佐藤有華さんと山本和馬さんという、20代前半の若い二人にそれぞれ作品をつくってもらいます。
―最後に、きたさんご自身がアーティストでありつつ、プロデューサー的な立場も兼ねていらっしゃることについてお聞きします。こうした経験は、ご自身にとってどういうプラスになっているのでしょうか?
きた:Dance Fanfare Kyotoをやって思うのは、一つの視点だけで物事を考えてはいけないなということがまずあります。私自身、ダンスやっててつまらないなと思っていた時期がありました。ダンスのことしか知らないと、ダンスのコミュニティで良いと思われている理想が嫌になったら、本当に嫌になってしまうじゃないですか。だから、もっと色々な角度から物事を見るために、自分が得意とするジャンル以外の情報をもっと入れないといけないなと強く思いました。Dance Fanfare Kyotoでは、そういうことをまさにしているなと思います。Dance Fanfare Kyotoには、ダンス作品をつくる人も、演劇の演出家も、美術作家も、色々な人が参加しています。ダンスと関係がない人とでも一緒につくれるし、取り入れられるし、お互いの発見にもなるし、そういう場が必要だと思っています。こういうことって、稽古場で身体を動かすことと一緒で、私にとって稽古なんです。
Dance Fanfare Kyotoは、フタを開けないと、どんな作品が上演されるのか分からないので、開催前には毎年、「今年は面白そう」とワクワクします。参加してくれたアーティストが、こういう企画を知って、次に自分たちがどういうことができるかを考えてくれるのが一番の理想です。作品をつくることも大切だけど、場をつくることも同じことだと思うので。
―ありがとうございました。今年のプログラムも楽しみにしています。
【プロフィール】
きたまり
1983年生まれ。2003年より「KIKIKIKIKIKI」主宰。
「トヨタコレオグラフィーアワード2008」”オーディエンス賞”、「横浜ダンスコレクションR2010 」”未来にはばたく横浜賞”受賞。2010年~2013年伊丹アイホールの「Take a chance project」や「KYOTO EXPERIMENT2011」にて新作共同制作を行う。「We dance 京都2012」ディレクター他、ダンスシーンの活性化と舞台芸術の可能性の広がりを目指し、2013年「Dance Fanfare Kyoto」を立ち上げる。アトリエ劇研アソシエイトアーティスト。
・・・・・・
Dance Fanfare Kyoto 03
http://dancefanfarekyoto.info/
日時:2015年5月29日 (金) ~ 31日(日) &4月25日 (土)、5月17日 (日)、6月27日 (土)
会場:元・立誠小学校 *4月25日 (土)、5月17日 (日)、6月27日 (土)は他会場
料金:各プログラム:無料~2,200円 当日料金+300円UP
・・・・・・