皆川淇園の志を受け継ぐ学問所「有斐斎 弘道館」

「祥春菓祭~春をよろこぶ空想茶会~」レポート

In フォトレポート by Ai Kiyabu 2015-04-10

京都御所蛤御門からほど近くに位置する「有斐斎 弘道館」は、数奇屋造りの建物を利用した文化施設です。もともとは江戸時代の儒者・皆川淇園(みながわきえん)がつくった学びの場所。2009年にマンションになりかけたことから保存の声があがり、2013年に公益財団法人となりました。ここでは、茶道や芸能など、京文化に関わる様々な講座やイベントが開催されています。2015年3月7日、茶会イベント「祥春菓祭(しょうしゅんかさい)~春をよろこぶ空想茶会~」が開催中の本館を訪れました。

太田宗達、林周作、杉山早陽子による3者3様のおもてなし

震えるような寒さからようやく逃れて、ほのかに土の香りのする雨が降ったり止んだりを繰り返していた季節。「祥春菓祭」と題された今回の茶会は、お菓子に造詣の深い太田宗達さん、林周作さん、杉山早陽子さんの3者が、「春を祝う」というテーマで、各々の趣向を凝らした空間で客をもてなすという内容です。
草木に囲まれた石畳のアプローチを歩いていき、玄関を開けると、アオザイを着た女性スタッフの方々が迎えてくれました。なぜ、アオザイ? 日本家屋とのギャップを感じながら、無国籍な雰囲気に期待が高まります。

雪解けの土塊からふきのとうが顔を出す–杉山早陽子

参加者はグループごとに分かれて、3つの茶会を順に回っていきます。筆者のグループは、「日菓」「御菓子丸」で知られる和菓子作家、杉山早陽子さんからスタートしました。白い割烹着を纏った真っ赤なワンピースが、杉山さんの背後にある梅の花の色と同じで華やかな様子です。金色の皿にこんもりと盛られた、土の塊。これが、杉山さんが用意したお菓子です。参加者は箸で自分の塊を取って、次の人へと回していきます。土に見立てられたのは、甘さ控えめの村雨餡でした。土をつかむように、手でいただきます。砂糖でできた白い雪の間から、ほんのり苦いふきのとうが、顔をのぞかせていました。お茶は「白牡丹」という中国茶。耳を澄ますと、床の間のほうから雪解けの水音が聞こえてきました。

とっても甘い、アゼルバイジャン・スタイル–林周作

続いて、「郷土菓子研究社」として活動する林周作さん。林さんは、ヨーロッパ・アジアの国々を自転車で旅しながら、各々の土地の郷土菓子を食べ、つくり方や文化を研究しています。今回は、旅した国の一つ、アゼルバイジャンのスタイルでのおもてなしです。アゼルバイジャンでは、一日に何度もティータイムを取り、そのお供には「ムレベ」と呼ばれるフルーツの甘露煮が食べられるのだそうです。紅茶は、サモヴァルという薪の入ったポットで煎れます。くびれのあるグラスに注ぎ、たっぷりの砂糖を入れるのが現地の方々の飲み方。甘い同士の組み合わせで、頭が冴え渡ります。シェチェルブラという焼き菓子とリボンを巻いた猫草、色付けした卵のセットで、新年の祝い「Novruz Bayram」の飾りとのことです。馴染みの無い異国文化に、「これはなに?」「どう使うの?」と会話が弾みました。

一体感を感じる暗闇での茶会–太田宗達

最後は、茶人の太田宗達さん。はじめに、灯りのついていない室内に通され、ゲストの間にどよめきが起こりました。床の間には餅花が垂れ下がり、大きな松茸を持った女性をたくさんの女性が囲んでいる、セクシャルな絵の掛け軸が。酒粕の団子に魚の頭を突っ込んだ供え物もおどろおどろしい。太田さんは入室すると「滋賀県北部あたりの『おこない』のように、『修正会(しゅしょうえ)』・『修二会(しゅにえ)』を農家の山村で祝うような、作法以前の原始的なお茶を」と今回の茶会のイメージを伝えました。派手やかなピンクのお菓子をいただいた後、有斐斎 弘道館のスタッフ・クリスティーナさんが唱えるお経をBGMに、小川待子作の茶碗でお茶を回し飲みしました。ゲストの一体感が高まったところで、太田さんが語りかけます。「この時間、この灯りのなか、このゲストの方々、この道具たち。この空間は一生に一回だけです」。一期一会というお茶の心を、まさに体感できる時間でした。

食の教養や日本の伝統文化が学べる場所・有斐斎 弘道館

空想の歳時「祥春」をテーマに、それぞれ主人の関心に基づいた全く異なるスタイルの3つの茶会が行われた今回のイベント。茶道のルールや教養がなくても、誰もが気軽に楽しめた一方で、背景に信仰の歴史や食の文化、教養を内包する、奥深いものでした。
有斐斎 弘道館ではほかにも、日本の伝統文化に関わるさまざまなイベントを開催しています。茶道に深い関心がある方、京都の文化を教養として楽しく学びたい人も、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

撮影=松井学(Studio MacCa)
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【有斐斎 弘道館で開催のオススメ講座】

京文化教養講座Ⅰ 信仰からみる京都
信仰・宗教の視点から京文化を読み解く教養講座。
日程:4月18日(土)、5月16日(土)、6月13日(土)7月11日(土)、8月8日(土)、9月12日(土)、10月10日(土)、11月14日(土)、12月12日(土)
講師:太田宗達 時間:11:00〜12:30
受講料:各回2000円(生菓子・抹茶付)*要申込 
*4月18日(土)は課外講座(上七軒)のためご注意ください。

京文化教養講座Ⅱ 茶の湯の文化を識る
茶道の歴史を学ぶ教養講座。
日程:4月16日(木)、5月28日(木)、6月25日(木)、7月23日(木)、8月27日(木)、9月24日(木)、10月22日(木)、11月26日(木)、12月17日(木)
講師:太田宗達 時間:13:00〜14:30 
受講料:各回2000円(生菓子・抹茶付)*要申込

京菓子専門講座 2015年(後期)
京菓子づくりの歴史文化と実践を専門的に修得。教養として学びたい方にもオススメ。
日程:7月23日(木)、8月27日(木)、9月24日(木)、10月22日(木)、11月26日(木)、12月17日(木)
講 師:太田達、前田亜紀、杉山早陽子、有職菓子御調進所 老松
時 間:15:00〜16:30(実習日は30分程度延長)
受講料:全6回3万円(材料費込) *要申込

【お問い合わせ】
有斐斎 弘道館
http://kodo-kan.com
TEL:075−441−6662

Ai Kiyabu

Ai Kiyabu . 1989年岐阜生まれのエディター・ライター。成城大学文芸学部芸術学科卒業。大学生の頃にファッション誌『GINZA』の編集アシスタント、フリーペーパー『Tokyo Art Map』の編集インターンを経験。卒業後、雑誌『美術手帖』の編集部にて、現代美術から写真、陶芸まで様々なジャンルの記事を担当。2014年冬より憧れの地・京都に拠点を移し、独立。歴史ある文化の面白さを新しい視点で発見したい。 ≫ 他の記事

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