still moving

PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭 特別連携プログラム/京芸 Transmit Program #6(京都市立芸術大学移転プレ事業)

poster for Still Moving: Special Plan Exhibition of the 6th Anniversary of the Kyoto City University

京芸 Transmit Program #6(京都市立芸術大学移転プレ事業)「Still moving」

京都市下京区エリアにある
元崇仁小学校にて
このイベントは終了しました。 - (2015-03-07 - 2015-05-10)

In フォトレポート by Tsuyoshi Yamada 2015-04-04

京都市立芸術大学は、10年以内に京都駅にほど近い崇仁(すうじん)地域にキャンパスを移転する計画があります。この崇仁地域は(京都駅の東、鴨川の手前)は、旧・同和地域であり、便利な立地に恵まれる一方で少子高齢化に伴う急速な人口減少という課題を抱えています。「still moving」は、歴史を持った地域へのキャンパスの「移動」を契機として、国内外の作家が集い、大学と地域のあり方を探る「第一歩」の試みとなっています。

作家の多くは、この地域で事前にリサーチを行い、歴史や場所性から、作品を構成、制作している作家も多く、作品の展示という単純な展覧会とはまた違った印象を受けるでしょう。また複合的なプログラムも「still moving」の魅力の一つとなっています。

この展覧会を読み解くきっかけとして、学芸員の藤田瑞穂さんと広報の西谷枝里子さんに展覧会の見どころを伺いました。

長坂常(スキーマ建築計画)

メインの会場となった元・崇仁学校の会場構成を担当した長坂常(スキーマ建築計画)は、会場である小学校の床から上を、作品と並列に展示空間上に並べています。そうした事で、作品だけでなく、小学校自体も鑑賞の対象にしています。表面を1mm程度削られた床や壁のぜひ目を凝らしてみてください。

またこの地域特有の金網が立ち並ぶ風景から、金網を素材としたプロダクトを制作。展覧会会場内外に転々と置かれています。

藤田「長坂さんは、実際の仕事に取りかかる前に、リサーチを兼ねてその街を歩いたり走ったりするそうです。はじめて崇仁地域にいらしたときにも、じっくりと時間をかけて街歩きをされました。京都駅にこんなに近い場所に、空き地が点在することに驚き、また、その他にも街自体の魅力を強く感じる発見がたくさんあったそうです。京都駅から来た人が、ここの地域に入って、展示を見て、実際に帰り道に、来たときに見た京都タワーと帰りに見る京都タワーが違って見えたら、それは素敵な展示なんじゃないかという話をされていました。その言葉はこの展覧会の方向性を決める上でとても重要な言葉となりました」

石原友明崇仁ゼミ

京都市立芸術大学で油画を教えている石原友明は、早くよりゼミの授業の一部を崇仁地域で行っており、本展ではそのゼミ内で行われているレオナルド・ダ・ヴィンチが使用していたデッサン箱の仕組みを使い描かれた、崇仁地域の現在の風景を展示しています。

久門剛史

「音」と「現象」と「光」という3つの要素を用いて、インスタレーション作品を制作している久門剛史は、小学校の一室に、鏡面状になった時計や照明器具、扇風機で動くカーテンやスピーカーから流れる音など、様々な現象を配置しています。現象はプログラムによって制御されていますが、実は各現象が現れる組み合わせは常にランダムに組み替えられ、一度として同じ組み合わせで現象が立ち現れる事はありません。プログラム制御されている中での偶然、窓から見える景色や、差し込む光など、様々な偶然の重なりによって構成されている作品なので、何度でも訪れてみたくなる作品です。

西谷「この作品上で起こる現象によって自分の記憶や経験が引き起こされるような作品です。また、誰もが一度は小学生でしたので、この小学校で授業を受けていた生徒と自分の記憶がシンクロするような一面もあるかもしれません」

久門剛史の作品は、もう一部屋ありますので、そちらも是非楽しんでください。

井上明彦+ 二瓶晃

井上明彦と二瓶晃は、水の流れと地形をテーマに、リサーチ型の作品を展開しています。展示されているのは、グリッドの引かれた地図と、教室に展開されているグリット状の構造物です。

壁に貼られているのは、崇仁地域の空撮の地図です。かつてこの地域に流れてる高瀬川は現在と異なり、川の流れが大きく河原町通りの方向に曲がっていたようです。そのもともとあった高瀬川の流れにそったグリットを地図上にしるし、そのグリットにあわせた角度のグリッドを教室内にインスタレーションとして展開しています。

塞がれた窓には、丸く穴が開けてあり、同サイズの水晶が室内に転がっています。水晶は水を表しており、塞がれた窓の穴から水が入ってくるということを表しているそうです。

かげうつし展実行委員会
(企画:林田新、参加アーティスト:小田原のどか、髙橋耕平、水木塁)

still movingの面白いところとして、出品作家のラインナップに、かげうつし展実行委員会というメンバーによる「かげうつし展」という展覧会自体も入り込んでいます。

京都市立芸術術大学アーカイブセンターの研究員でもあり、写真批評家でもある林田新さんの企画であるこの展覧会は、1度目を京都市立芸術大学ギャラリー@KUCA(アクア)で開催し、今回は2度目の開催となります。

西谷「still movingという展覧会ラインナップのなかに、もうひとつ展覧会があるという状況も見せていきたいと思っています。『かげうつし』では”うつす”という言葉の多義性を出発点に、今回は『Here-After』というタイトルのもと、記録/記憶/記念の角度から作品を紹介しています」

RAD -Research for Architectural Domain-

京都で活躍する建築リサーチ集団RADによる「SUUJIN MAINTENANCE CLUB」もまた、この地域に対する新しい試みが行われています。建築家、アーティスト、来場者らとの協働による都市空間 への「メンテナンス」をアーカイブすることによって、都市に関わるための 様々な術=アートを浮かび上がらせるという試みで、展覧会会場では、メンテナンスのアーカイブを見ることができます。

西谷「ここでは、『メンテナンス』という言葉の意味を、単に元通りに戻すという事だけでなく、様々な角度から多義的に捉え、リサーチを通じて、地域の中でのメンテナンス対象を見つけ出し、実際にメンテナンスを進めます。このプロジェクトには展覧会期間中を通して約20組のアーティストが参加する予定で、アーティスト独自の20通りの着眼点と手法がプロジェクトに落とし込まれていきます」

タイミングが良ければ、RADとアーティストによるメンテナンスの様子を街中で見かけることができるだろう。

その他にも教室の一室をアトリエ化し、期間中にリサーチを行い、制作を行う田中和人+増本泰斗や、崇仁地域での一角にたき火をするカフェを開く小山田徹の「ウィークエンドカフェ」、崇仁地域に作品を屋外展示している杉山雅之
、谷中佑輔、そしてPARASOPHA: 京都国際芸術祭と作家や作品を横断的に展開している高橋悟やヘフナー/ ザックスなど、数多くの作家が参加している。

藤田「会場に訪れた人は、しばらくして、元の状態から手が入っているところと入っていないところが混在していることに気づかれるのではないでしょうか。するとだんだん、どれが作品、あるいは意図的に設置されたもので、何が小学校当時の状態のままなのか、輪郭が曖昧になっていく。その瞬間から、自分の周囲にあるものに対して、見るべきものは何なのかということにより敏感になっていくのではないかと考えています。そして最終的には、行きには特に注意を払わず通り過ぎた風景にも目を向けるようになっている。来場者の方々にとって、長坂さんが最初におっしゃっていたように『帰りに見る京都タワーが違って見える』ような展示体験となっていたら良いな、と思います」

still movingは、作家それぞれによって試みの違いは多種多様であり、崇仁地域の歴史や場所性、時間の流れ、地域のコミュニケーションなど多くのものを内包し、それを感じ取れる展覧会となっています。これから開催するプログラムもたくさんありますので、10年後の未来、この場所に京都市立芸術大学が移転してくる第一歩として、ぜひ楽しみながら風景に目を向けてみてはいかがでしょうか?

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今後の開催のプログラム

4月26日(日)久門剛史 × 建畠晢 ポエトリーリーディングライブ「言葉と明滅」
4月12日(日)「小学校でふくらむワタシとアナタ」
4月5日(日) 「謡と小鼓でたのしむ春の崇仁」
4月4日(土)漂流するアクアカフェ@’Weekend Café’ | DRIFT@KCUA-CAFÉ
4月4日(土)14:00~15:30「水のみちをたどる:Tracing Suujin フィールドワーク」

3/7(土)、14(土)、21(土)、28(土)、4/4(土)、11(土)、18(土)、25(土)、5/2(土)、9(土)
小山田徹「ウィークエンドカフェ」
会場:崇仁地域屋外(高倉通塩小路通交差点の南東角)
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PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭 特別連携プログラム
京芸 Transmit Program #6(京都市立芸術大学移転プレ事業)
「still moving」

http://stillmoving.kcua.ac.jp/

2015年3月7日(土)- 5月10日(日)
(元・崇仁小学校会場は期間中の金・土・日・祝、4/30のみ開館)
元・崇仁小学校会場:12:00〜18:00(最終入場17:30まで)
崇仁地域周辺:終日
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA会場:11:00〜19:00(最終入場18:30まで)
ただし毎週月曜日休館(5/4(月)は開館、5/7(木)は休館)

観覧料:無料
企画:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
主催:京都市、京都市立芸術大学

共催:京都国際現代芸術祭組織委員会 京都芸術センター 京都文化芸術コア・ネットワーク
助成:平成26年度文化庁 優れた現代美術の海外発信促進事業 公益財団法人野村財団
協力:東山アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)
協賛:株式会社資生堂 ターナー色彩株式会社
お問い合わせ @KCUA TEL: 075-253-1509

Tsuyoshi Yamada

Tsuyoshi Yamada . 東京都小平市生まれ、武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。長らく武蔵野美術大学で、研究制作を続けて、その傍ら、美術展企画や舞台制作、ドキュメンタリー制作などに尽力を注ぎ、芸術と美術、作家と作品、ものつくりの世界に触れる。2013年京都に拠点を移し、デザインとアートの世界の周辺に身を置いている。株式会社モーフィング所属。 ≫ 他の記事

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