よくギャラリーに入ると「作家さんのお知り合いですか?」と声を掛けられることがある。アートコートギャラリーはそのようなことを聞くようなギャラリーではないが、もしあなたがこの國府理を知っていれば、彼の性格や言葉を思い出しながら、置かれた作品それぞれに何かしらの感情を馳せることができるだろう。
入口から展示されているのは、多くの人たちが國府理について書いたテキストである。
もし國府理のことを知らないあなたは、この展覧会がなぜ開かれているのかさえ分からなくても、あまたのテキストを読み進めることで、國府理がいまは亡き作家であること、本展タイトルにあるように「仲間たち」の展覧会であることを必然的に意識するだろう。作品キャプションだけでは、國府理と仲間たちの関係性が分からないので、私はこの原稿を書き進めるため別途、出品作家にヒアリングを行った。
テキストを出した松下和美氏は、國府理が出品した2009年に展覧会を企画した群馬県立館林美術館の学芸員。「当時の國府さんのアーティスト・トークの記録を聞き直すことから始め、展覧会への出品依頼を決めるきっかけとなった2008年アートスペース虹での個展から、2011年のヴェネツィアでのグループ展まで、私が展示場所を訪れた時に心に響いたことを思い出しながら國府さんの作品について考え、彼の制作の根幹に近づけたらという思いでテキストを書きました」とのこと。
2002年の「第8回六甲アイランド現代アート野外展」以降、何度か同じ展覧会に出品したことがあるアーティストの植松琢麿氏は、「國府さんと出会った2000年ごろから急速な情報化が始まりました。國府さんがつかっていた質量を失い浮遊する俯瞰的な白の物質感と、そこに確固として存在する自然物とのコントラストに、私は同時代の作家として親近感を覚えてました」と最近作である《earth palette》を出品。
また、公私にわたって國府理と交流があったアーティストの吉原和恵氏は「貴重な思い出をつくってもらった國府さんに、『ありがとう』とつぶやきながら筆を運びました」と語る。
「2011年に初めて作品を見た」というタムラサトル氏は、「昨年2月にTEZUKAYAMA GALLERYで私の個展を開いた際、國府さんとマニアックな機械加工のトークをしました。そのとき展示していた《ハートマシン#5》を今回展示しています」
このような背景を知らないと「展示された作品がなぜここに置かれているのか」ということが分かりにくい。
仲間たちだけでなく、國府理についても作品のコンセプトの明示はなく、過去の図録に掲載された作家ステイトメントの引用がキャプションに添えられていた。また、國府理がどういった作家であったか?ということは、会場に掲示された「経歴」と、配布資料に書かれたギャラリーによる「作家紹介テキスト」だけにとどまっている。
ここは美術館ではなく、ギャラリーというスペースである。美術史との関連や文脈を提示する必要は特にないし、國府理の作品コンセプトを知ったからといって見方が変わるような展覧会でもない。ただ國府理というアーティストがいたこと、彼そして彼の作品を慕うアーティストや学芸員、ジャーナリストが多くいることを証明する、そういった展覧会である。
【概要】國府理の仕事と仲間たち
【会場】アートコートギャラリー
【会期】2015年5月1日(金)―5月30日(土)
【開館時間】11:00~19:00(土曜は11:00~17:00)、日・月曜休廊
【公式サイト】http://www.artcourtgallery.com/exhibitions/5432/