只今、兵庫県立美術館で「特別展 ガウディ×井上雄彦 シンクロする創造の源泉」が開催されています。
本展示は 「20132014日本スペイン交流400周年」の記念文化事業として昨年より開催され、東京、金沢、長崎、神戸、仙台を、約一年がかりで巡回するユニークな特別展示です。アントニオ・ガウディは19世紀~20世紀にかけてバルセロナを中心に活動し、グエル公園、カサ・ミラ、カサ・バトリョなど、ユネスコ世界遺産にも登録される数々の独創的な建築物を遺しました。1882年の着工以来、今もなお建築途中のサグラダ・ファミリアをはじめとするガウディの建築は、世紀を超えて世界中の人々を魅了しています。
井上雄彦は、代表作の「スラムダンク」の国内発行部数が1億冊を超えるほか、連載中の「リアル」「バガボンド」などの漫画作品が多くの読者に支持される国民的な人気漫画家です。近年は個展の開催や、京都・東本願寺に描いた親鸞の屏風絵など、漫画家の枠を超えた活動を展開しています。存命の日本画家の誰よりも画力があると、美術史家に言わしめるほどに卓越した絵筆の技術で描かれた作品群は、国や世代を超えて多くの人々に感動を与えています。
井上雄彦がガウディに初めて遭遇したのは、1992年にオリンピック観戦のために初めてバルセロナを訪れた際にサグラダ・ファミリアを目にしたときのことで人気連漫画「スラムダンク」を連載中の頃でした。その後約19年を経て、2011年には出版社の文化事業として立ち上がったプロジェクトの一環で、井上氏は、バルセロナをはじめカタルーニャ地方のガウディゆかりの地を訪れ、偉大な建築家の足跡を辿っています。ガウディへの理解と自身の表現を深化させるべく書き下ろしたイラストやスケッチで、ガウディの魂に触れる旅の記録をつづった書籍「pepita 井上雄彦meetsガウディ」を発表しています。そのなかで、井上氏は、ガウディの作品に触れて感じたのは「謙虚さ」であり、自然からのインスピレーションを受けての創造、純粋な気持ちで創造に取り組む姿勢を、ガウディから学んだと語っています。
2014年には、井上氏は、カサ・ミラの一室にアトリエを構え、窓からサグラダ・ファミリアの見える部屋に寝泊まりし、約1月に渡りバルセロナでの滞在生活を送るなど、本展示のための制作を通じて、より深くガウディの世界に没頭していったそうです。また、職人の伝統技術を大切にしたガウディの姿勢に触れた井上氏は、自分が描くものの原材料に触れたいという気持ちの高まりとともに「材料や水の力も活用した絵を描きたい」と思い立ち、手漉き和紙の制作にも参加しています。高さ3.3m×幅10.7mに及ぶ「平成長尺大紙」に、井上氏が感じたガウディの世界を表現しようと描かれた大作も、本展示の見所のひとつです。
本展示は3章立てで構成されており、ガウディの建築家としての業績だけでなく、人物像や生きざまにもスポットを当てて紹介しています。また、ガウディの学生時代の課題設計図をはじめ、カサ・バトリョ、カサ・ミラといった代表的建築のスケッチや立面図など貴重な図面資料のほか、本展示用に日本側で復元された、コローニア・グエル教会堂の逆さ吊り実験模型の予備実験模型など、希少な展示もあります。
世界的な建築家として知られるアントニオ・ガウディの名を冠した展示はこれまでに世界中でいくつも開催されていますが、本展示は、描くという表現行為を深化させ続ける現代日本の最高峰の絵師が、研ぎ澄まされた観察力で鬼才建築家の創造の源泉へと深く迫り、新たなガウディ像を浮かび上がらせるユニークな試みの展示です。井上雄彦、アントニオ・ガウディについて、それぞれの作品を通じてよく知る人もそうでない人にも、きっと新鮮な発見があるでしょう。
参考文献:
「ガウディ×井上雄彦 シンクロする創造の源泉 公式図録」 2014年東映発行
「Pepita 井上雄彦meetsガウディ」 日経BP社発行
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開催概要:「特別展 ガウディ×井上雄彦 – シンクロする創造の源泉 – 」
場所:兵庫県立美術館
日時:~5月24日(日)
月曜休館、月曜日が祝日の場合は開館し翌日休館、メンテナンスによる臨時休館あり
開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館時間の30分前まで)
入館料:《一般》1500円 《大学生》1000円《高校生・65歳以上》750円《中学以下》無料
*20名以上の団体割引あり。
*障がいのある方と介護の方1名は各当日料金の半額(65歳以上は販売無し)。
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