アートのための地域、地域のためのアート第1弾

町と人の再発見、Breaker Project にうかがう

In インタビュー by KAB Interns 2015-05-02

近頃、瀬戸内国際芸術祭、大地の芸術祭と、アートと地域が協同で開催するアート・プロジェクトが盛んです。そんな中、コンセプトや参加アーティストなど、プロジェクトそのものを取り上げた記事は多く見られますが、アートと地域の結びつきに着目したものはあまり目にしません。このインタビューでは、アート・プロジェクトのディレクターと地域の協力者の方々に、アートプロジェクトを通した経験をお伺いしました。アート関係者とこれまでアートに馴染みがなかった方々、両方の共通点や違いを探ることで、アート・プロジェクトの新たな側面を浮かび上がらせます。

ディレクターにお話をうかがう

第一弾はBreaker Projectです。地域に密着したアートの実践として、2003年から大阪市西成区を中心に現在まで展開しているアート・プロジェクトです。まずBreaker Projectの代表ディレクターである雨森信さんへお話をうかがいました。

ーはじめに、Breaker Projectの取り組みについて教えて下さい

大阪市の文化事業として、2003年に浪速区新世界という場所でスタートしたアートプロジェクトで、その後、西成区の方へもエリアを広げ、現在は西成区山王を拠点に継続して活動しています。現実の社会のなかで、新しい表現活動に取り組むアーティストの方をお招きして、まちのなかに創造の現場をつくりだし、地域の場所や人や記憶と関わりながら作品や活動を生み出していくことを旨としています。活動をしていく上で、アーティストが実験的な取り組みを長期的に行っていける環境づくり、また、作品をつくっていくプロセスを地域の方々と共有する、という二点を重視しています。

ーこの地域の独自性を意識して活動しているのですか?

作品に地域の独自性を出すことを目的にするというよりは、地域に根ざして活動していくことで、おのずと地域の固有性が浮かび上がってくると考えています。この地域で活動していくことになったのはたまたまでしたが、活動をしていくなかで地域の人々と出会い、様々なことを学んでいきました。

最初に活動を始めた新世界と現在の拠点としている山王は隣接するエリアですが、まちの性質や様子はまったく違います。山王地区から四方を見渡すと、南側には飛田新地、東は阿倍野ハルカスで注目を集める天王寺や阿倍野、西側には萩之茶屋(釜ヶ崎と呼ばれる日雇い労働者のまち)がある。それぞれ異なる来歴をまちが、見えない境界線で区切られつつもお互いに影響しあっている状況があるわけです。特に釜ヶ崎は、近代化からはじまる都市政策や経済発展の遂げる成長の裏側、影の部分が顕著にみられるエリアでありますが、一方で、昔から様々な出自をもつ人々を受け入れてきた寛容なまちであり、近年の再開発事業からは免れてきたことで、昔ながらの風景やコミュニティがかろうじて残っている場所です。といったような説明ではまとめることはできない地域の人々の多種多様な有り様がある。

アートには、見過ごされがちな存在、語られることのない記憶にまなざしを向けるといった特性があり、アーティストそれぞれの視点で、目に見えない意識下にある事象が掘り起こされ顕在化されていきます。ですので、同じエリアで10年以上活動していても、毎回新たな発見や出会いがあります。また、アートという触媒となって、地域のなかに小さな変化が起こっていく。さらに続けると、もっと面白い状況が起こっていくんじゃないかと考えています。

ー地域で活動するとなると、住民の方々のご理解が必要になるはずですが、どのようにしてプロジェクトへ協力していただいたのですか?

最初はもちろん、現代美術と言われても、よくわらないという人がほとんどですし、説明しても理解してもらえない状況でしたので、協力をお願いしたところでそんな簡単に得られるわけではありません。そういった経験から、「関わり」をつくっていくこと、そのために活動のプロセスを共有していくことが重要だということに気づいていくわけです。コツとしては、具体的なことをお願いするということでしょうか。

まちとのつながりが生まれていく大きなきっかけとなったプロジェクト、かなり遡りますが、2003年に伊達伸明さんをお招きして実施した「ウクレレと歌留多(カルタ)で語る新世界」というプロジェクトを少し紹介します。伊達さんは、2000年より「建築物ウクレレ化保存計画」といって、取り壊される建物の部材を使ってウクレレを制作するという活動をされている美術家です。新世界のまちでは、取り壊されるわけではない現役の建物を対象に約60軒の建物にまつわる記憶やエピソードを聞き取るフィールドワークを半年以上かけて実施しました。一軒一軒を訪ねてお話を聞きいていくということを行ったことが、地域の人々との出会い、私たちの活動について知ってもらう機会となっています。

ー半年に60件も!?現代アートのプロジェクトを進める難しさは感じませんでしたか?

Breaker Projectの初年度ですし、初めて会う人ばかりですから、まずは私たちが何者なのかということを説明するのも一苦労でした。そこからプロジェクトの説明をしても「家の記憶をウクレレにするの、なんのために?」とか、「うちはまだ壊せへんで」と言われることがほとんどでしたが、ここでひるまず「あなたの家(お店)の建物の思い出を聞かせてください」という具体的なお願いをして、半ば強引になんとかアポをとりつけていくわけです(笑)。

そして伊達さんと共に取材に伺い、建物のエピソードを訊いていくなかで、その方の半生が語られていく。長い時は2時間ほどにもなりました。そういったプロセスが信頼関係を築く第一歩になったのではないかと思います。その後のプロジェクトでも、地域の方に様々な協力をお願いしたり参加してもらったりと粘り強く関わりをつくっていくことを大切にしながら活動していくことで関係性も深まってきました。

まちのなかにアートを持ち込むという困難さはもちろんありましたけど、異なる価値を持つ者が出会っていくというときに、摩擦や衝突があるのは当然のこと。落ち込むこともありましたけど、そこにチャレンジする面白さも同時にあったように思います。現在では、私たちの活動も認知されるようになって、限られたエリアではありますが活動しやすい状況が生まれています。

ーそれでは最後に、Breaker Projectの今後の展望をお聞かせください

2011年あたりから、空き家や空き店舗などを活用した創造活動拠点の創出と、地域コーディネーターとの連携・共働に力を入れています。現在、創造活動拠点は山王地区に2ヶ所あるのですが、そのひとつは築60年以上の木造アーパート「新・福寿荘」と、もうひとつは元たんす店だった「kioku手芸館 たんす」というスペースです。

地域で使われなくなった建物を活用して、アーティストたちの実験の場であったり、地域の人々が気軽に立ち寄れる創造の場をつくっていくという取り組みです。現在の取り組みとしては、今宮小学校(h27年3月末で閉校)の校庭にあった陶芸の窯を発見し、きむらとしろうじんじんと共に「西成の土を焼いてみる」というプロジェクトを試行してみたのですが、今後は、この窯を中心に地域の作業場として新たな活動をつくっていこうとしています。

「地域コーディネーター」というのは、私たちのプロジェクトと地域の人々をつなぐ地域側のパートナーです。よく分からないアートを面白がって積極的に協力してくれる住民の方と出会い、連携を図っていくことで、活動がより地域に浸透し定着していくことにつながっていきます。地域のなかにパートナーをどんどん増やしていくことで、小さな創造活動拠点が自然発生的に増えていくと面白いなと。

もうひとつは2011年度から始動した「西成・子どもオーケストラ」も、昨年より中学生とのワークショップを新たなにスタートしていまして、このプロジェクトも継続していくことで、ゆくゆくは地域の活動として定着させていきたいと考えています。

地域の協力者の方々にお話をうかがう

つづいては Breaker Project の地域の協力者の声をご紹介します。山王地区にあるデイサービスセンターみどり苑で普段は社会福祉士として働かれている川崎さんと錦織さんは、高齢者の方々をBreaker Projectの企画とつなぐへの参加をうながす地域コーディネーターとしてBreaker Projectに協力されています。もともとアートに関しての知識はあまりなかったそうですが、関わって参加していくことで、アートに対する見方が変化していったそうです。

—Breaker Projectの、どのような活動に関わられてきましたか?

川﨑さん: 主に高齢者の方たちにBreaker Projectの企画を紹介しています。この地域は孤立した高齢者の方が多いですが、そうした方々に居場所を提供するなどつながりづくりをお手伝いしています。

錦織さん: 私は、この町で密かに物づくりを続けている人をリサーチするという下道基行さんのプロジェクトから関わりはじめました。このプロジェクトを通して、たとえばボランティアの高木さんという紙縒り(こより)でミニチュアの五重塔を作り続けている方を紹介しました。高木さんの埋もれていた作品を飾り始めたら、地域の病院に置かれるようになったり、地域の方や小学生が作品を欲しがったりと人気になりました。ついには昨年度の横浜トリエンナーレにも出品されていました。

川﨑さん: 高木さんの作品をきっかけに、地域の方々が自分の作品や物づくりをしている人を紹介してくれるようにもなりました。物づくりを続けている方がこんなにもいたのかと驚きましたね。

—プロジェクトを通して、アートに関する印象は変化しましたか

錦織さん: 普段は社会福祉士なので、利用者の方を福祉の面から理解しがちだったけれども、様々なアート活動に参加される姿を見て、その人の別の側面も見えてきて、つながりが深まりました。

川﨑さん: アートを言葉にするのは難しいと感じていましたが、ただ感じるだけでいいんだな、と思うようになりました。僕はもともとイベントの際に物づくりをしていましたが、それに近いんじゃないかと。

<シンノスケあとがき>
大阪ミナミという地域は、観光地として画一的に語られることが多いですが、そうしたイメージからは抜け落ちてしまうものもあります。それは、町の歴史や文化、地域に住んできた人の記憶です。目覚ましい発展をみせる阿倍野区に隣接する西成区でBreaker Projectを推進していく意義は、いたずらに再開発の波に町をさらすのではなく、町やそこに住む人を再発見し、イメージ豊かに伝えていくことにあります。地域の人と協働し、町の別の側面を見出してゆくBreaker Projectの姿勢によって、アートプロジェクトの新たな魅力を発見することができるでしょう。

取材先:Breaker Project
〒557-0001 大阪府大阪市西成区山王1-5-31 新・福寿荘

[KABインターン]

合志信之介:大学院生。フランスの前衛芸術運動を研究中。美術館に収まるよりも広範にコミットできる芸術のあり方に関心をもつ。変な形のメガネをかけている。

[インターンプロジェクト]

本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。

KAB Interns

KAB Interns . 学生からキャリアのある人まで、KABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。2名からなるチームを6ヶ月毎に結成、KABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中!業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、KABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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