アートのための地域、地域のためのアート 第2弾

ART BASE 百島と地域の人にうかがう

In インタビュー by KAB Interns 2015-05-15

近頃、瀬戸内国際芸術祭、大地の芸術祭と、アートと地域が協同で開催するアート・プロジェクトが盛んです。そんな中、コンセプトや参加アーティストなど、プロジェクトそのものを取り上げた記事は多く見られますが、アートと地域の結びつきに着目したものはあまり目にしません。このインタビューでは、アート・プロジェクトのディレクターと地域の協力者の方々に、アートプロジェクトを通した経験をお伺いしました。アート関係者とこれまでアートに馴染みがなかった方々、両方の共通点や違いを探ることで、アート・プロジェクトの新たな側面を浮かび上がらせます。

今回はその第二弾、関西から新幹線とフェリーを乗り継いで数時間の場所に、人口530人あまりの島、百島(ももしま)があります。そこで活動を続けるアート・プロジェクト、ART BASE 百島へうかがいました。

ART BASE 百島は、日本を代表する現代美術家・柳幸典氏によって2012年に始動したアート・プロジェクトです。活動拠点となる旧中学校のリノベーション、企画展のディレクション。また、アーティスト・イン・レジデンスへ招聘する作家の選定も柳氏によって行われ、「アーティストがアーティストのために行うプロジェクト」ゆえの高いクオリティのもと活動が展開されています。

まずは、ART BASE 百島のチーフマネージャーである大橋さんにお話をうかがいました。

チーフマネージャーにお話をうかがう

ーはじめにART BASE 百島の活動についてお教えください。

ART BASE 百島の特徴は、学芸員や専門家が介入せずに、アーティストである柳幸典が代表を務めている点にあります。柳は「アートは手段ではなく目的である」と言っており、私たちもそれを意識して招待したアーティストへのサポートを行っています。そのため、百島はアーティストの「遊びの場」であるように努めています。実際、アーティストは制作を行う時間以上に、島内の人と交流し、そしてめいっぱい遊びます。そして、彼らが「こういうことやりたいよね」となった時に、島内の人の協力を集めて形にしていきます。また、島民の方からも提案をいただき、耕作放棄地への植樹を行いました。植樹それ自体がアートかどうかと言われたら、それはわからないです。ですが、植樹などのプロジェクトを行った後どうしていくのか、ということが私たちやアーティストに託されているのだと思います。アーティストがいるというのは、クリエイティブな新しいアイディアを出せるということですから、今後はそこに力をいれていきたいです。

ー尾道市ではなく、百島で活動を展開していくことの魅力や可能性はどこにあるのでしょうか。

島というのはコミュニティも行政区としても非常に小さいです。ですから、新しいプロジェクトをすぐに実行していくことができます。その代わり島内の方からダメだと言われたら、それはできません。人口が500人程度の小さな島だからこそ、やりたいことがあればその場で賛同してもらえます。そういう意味で、私たちがやりたいことが実行に移しやすい環境にあります。

ー島内で活動を行う一方で、ART BASE 百島の展示は、決して島内の問題にとどまるのではなく、ひろく世界や未来に向けた問いを投げかけているものであると思います。

それはアーティストとして柳が個人でプロジェクトを動かしているからでしょうね。というのも、柳は着想から実現まで長く時間をかけて犬島アートプロジェクトを行なっていましたが、多くの規制や事情が絡みあい、自由な活動を十分に果たせなかったようです。その際に「自分がやりたいことを自由に行える場所をつくろう」と考え、その思いをもとにART BASE 百島はできました。だから、地域のためのアートという観点に収まらない、アーティストが自由に制作し発信できる場になっています。

ー現代アートに慣れ親しんでおられた方は、島内には多くなかったと思います。そうした地域の人々を巻き込んでいくために、どのような取り組みをされてきましたか。

他の地域に比べて、百島の人たちは初めのうちから積極的に協力してくれたように思います。ただ、私自身努力しているのは、できる限り地域の飲み会や地域の集まりや清掃活動には顔をだすことです。そういうことの積み重ねで、今の協調関係があるのだと思っています。

ーアーティストが活動する上で、島民の協力は不可欠だと思うのですが、アーティストの方が地域と協調できるように、どのような提案をされましたか。

公募という形式を一切とらずに、こちらのコンセプトにあった作家に声をかけています。そして、アーティストのレジデンスは、島内の民家のなかに設けているので、そこに滞在して制作を行ってもらいます。海外から招聘したアーティストも民家に滞在しますが、島民の方にタコを釣って食べさせてもらったりと、みんな自然と島に馴染んでいきます。島民の方も、アーティストが来ると盛り上がります。言葉が通じないときに、ようやくスタッフが呼ばれるくらいです。

ー最後に、これからの展望についてお訊かせください

百島はスマートアイランドづくりを行っていきます。たとえば、エネルギー、空き家、移住者の集め方、といった問題をみんなで考えています。これから新しい施設の建設事業が島内に入ってきます。ですが、昔ながらの焼き杉を使ったりすることで、ただのハコをつくることだけはやめようと提言しています。スマートアイランドづくりを通して、問題に対する「意識を変える」ことを目指していきます。また、百島の近くに人口8人の離島・小木島があるのですが、そこでも新しいプロジェクトをはじめています。環境機器をつくっている会社がスポンサーについてくださっているので、その島に美術館と会社の技術をあわせた何かがつくれれば、と柳は構想しています。どちらの島にも共通しているコンセプトは「島をひとつの生命体として捉え、そのなかに多様なものが点在している」ということです。

ーそうしたなかで、アートが果たせる役割とはなんでしょうか?

百島を訪れた美術家たちに新しいアイディアを落としていってほしいわけです。たしかに現代アートを初めて観た島の人たちは驚いていました。けれども「何回も観ているうちになんとなく分かってきた」と言ってくれます。このように現代アートは気付くきっかけを与えます。そのために、常設作品をこれからもっと増やしていきたいですね。



地域の協力者の方々にお話をうかがう

今回、インタビューを引き受けてくださった島民の野木さんと林さんは、もともと百島を活性化するために活動をされていました。そのさなかにART BASE 百島がつくられることになり、現代美術のことはよくわからないけれども、ART BASE 百島と協働して島を盛り上げていければと思い、参加され始めたそうです。

ーART BASE 百島の活動や展示を観てきて、現代アートに関する印象は変化しましたか?

野木さん: そりゃ、変わったよ(笑)。現代アートは一般の人には分かりにくいものが多いんだよな。ただ、毎回展示を観に行って、いろいろな意見をきいているうちに、なんとなく分かるようになってきた。理解しがたさはもちろんあるけれども、作品の奥深さを知れた。

林さん: アートというと最初は彫刻のようなものを島内に置いていくのかと思っていた。けれども、現代表現というのがあって、違う見方でものを観て、現代とはこういう風になっていると発信するものがあると初めて知った。実際にそうした作品を観て、ああそういうことなんだな、と感じることができた。

ーART BASE 百島がきて、なにか地域が変化しましたか?
野木さん: 島内は人口も少なく、それぞれ歳も離れているので、交流するコミュニティが限られていたんだよね。だけど、ART BASE 百島の活動に携わる人が増えるようになって、ここが世代を超えた地域の交流の場になりつつある。

林さん: アートを目的として来る人もいれば、仕事として来る人もいるけども、とにかく若い人たちが少しずつ島に訪れるようになった。アートによって、百島というひとつの文化ができてきている。また、アートを通じて、百島自体を発信していくこともできるようになった。

<シンノスケあとがき>
原子力エネルギーへの批判を含む作品を展示するなどの活動を展開できるのも、様々な規制から自由なアーティストのための場所を創出してきたからに他なりません。また、都市から離れた島でプロジェクトを行うからこそ、日本の社会課題に対して客観的な目線で捉え直すことができます。地域の方に日常的に作品を鑑賞してもらい、問題に気付いてもらうきっかけとなり、アーティストと協働し次のプロジェクトに向かっていく。スマートアイランドづくりの計画もこの延長上にあります。

ART BASE 百島の魅力とは、アーティストと島民とが一体になり生命循環のシステムを構築することによって、地域独立型のモデルを作り上げようとしていることにあります。百島の活動は、私たちの未来への提言として機能してゆくでしょう。

新神戸から新幹線でおおよそ1時間で福山へ到着します。福山市にある常石港から百島へは10分もかからず、関西からでも気軽にアクセスすることができます。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

取材先: ART BASE 百島
〒722-0061 広島県尾道市百島町1440 ART BASE 百島
廃校になった尾道市百島の旧中学校校舎を再活用し、アーティスト柳幸典と恊働者達による創作活動を通して、離島の創造的な再生を試みるアートセンターです。

[KABインターン]

合志信之介:大学院生。フランスの前衛芸術運動を研究中。美術館に収まるよりも広範にコミットできる芸術のあり方に関心をもつ。変な形のメガネをかけている。

[インターンプロジェクト]

本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。

KAB Interns

KAB Interns . 学生からキャリアのある人まで、KABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。2名からなるチームを6ヶ月毎に結成、KABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中!業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、KABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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