京都銭湯芸術祭2015

京都市内8店舗の銭湯を舞台にした芸術祭レポート

In フォトレポート by Ai Kiyabu 2015-05-25

「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭」や「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」で賑わう春の京都で開催された、ローカルな芸術祭「京都銭湯芸術祭2015」。京都市内の銭湯と堀川団地を舞台に社会と芸術の接点を探る、銭湯芸術祭をレポートします。

銭湯芸術と聞いてまず思い浮かべたのは、大竹伸朗の「I ♥ 湯」です。「I ♥ 湯」は直島島民の生活の場として、またアートファンと直島島民との交流の場として機能していますが、京都における銭湯芸術祭はいったいどのような効果をもたらすのでしょうか。
2014年秋に引き続き2回目となる今年は国際芸術祭に時期が重なり、国内外のアートファンが京都に集まりました。展覧会を観た後、疲れを銭湯で癒すという方も多かったのでは。筆者もこれを機に、京都市内の様々な銭湯を巡ってみました。

堀川団地に出現した、手作り感溢れる銭湯

まず訪れたのは、堀川団地の一室で行われたオープニング・パーティです。断っておかなければならないのは、堀川団地だけ会場が本物の銭湯ではないということです。

会場に着くと、レトロで可愛い銭湯グッズとともに、浴槽に家庭用電気ケトルでお湯を少しずつ湧かし入れていくスタッフの姿が目に飛び込んできました。その作業の途方も無さに不安な気持ちで見ていると、更に浴槽からお湯が漏れていることが発覚し、現場は騒然(のちに修復)。危うく水浸しになるところでした。

そんなお茶目なハプニングを経てサミュエル・アンドレと京都銭湯芸術祭スタッフのコラボレーションによる、音響パフォーマンスが始まりました。スタッフが浴槽を磨く低音をベースに、アンドレ氏が電子音を奏でます。多くの観客で蒸されるような暑さのなか、二人の奏でるソフトなノイズが思考停止を促し、風呂というよりはサウナにいるような気分に。

銭湯主人のクリエイティビティと作品との絶妙なコラボレーション

そして堀川団地で汗ばんだ体を流しに筆者が訪れたのは、錦市場のすぐ北にある錦湯です。アートユニット・ピコピコカケラ村による作品とともに、河井順子によるアクリル抽象画が展示されています。

気になったのが、湯出口になっている子どもの像。瞳にビー玉頭にターバンを纏っているので、これもピコピコカケラ村の作品かと思ったら銭湯のご主人のご趣味であるとのこと。脱力系人形であるカケラビトと絶妙にマッチしており、もはや作品と作品でないものの境界線が曖昧に感じられます。

ほかにも、東山湯温泉にはジョンとポールの絵が飾ってありますが、銭湯芸術祭の出品作品ではなく、銭湯のご主人がビートルズファンであるが故、だそう。銭湯を営む人々のクリエイティブな一面が伺えます。

銭湯という場所でしか実現し得ない作品やパフォーマンス

個人的に好きだった作品はこちら(下図)です。六波羅蜜寺近くの旭湯に展示された、池田精堂による靴箱の鍵。一つ一つモチーフが違う鍵が手作業でつくられており、相当な労力がかかってそうです。手に取れる彫刻ということで、感触を楽しめます。自分の好きな鍵を選べるのも楽しい。この作品は会期終了後も、継続して使われることになったそうです。

旭湯から徒歩5分圏内にある大黒湯では、パラモデルの林泰彦によるワークショップ「銭湯の作法」も開催されました。浴室・脱衣所の清掃から、湯沸かし、入浴までの一連の作業を、大黒湯の主人による「作法の解説」を交えて体験するというもの。普段見ることのない銭湯の裏方仕事を体験できるのは面白いですね。

ほかにも、会場となった全銭湯に「YOU ARE IN HEAVEN」というコメントを仕掛けたフクナガコウジの作品など、銭湯という場所ならではの作品が多く見られました。

銭湯芸術祭の会期は1ヶ月。長いようですが、普通一日にお風呂に入る回数は1回なので、いったいどのタイミングで訪れようか考えを巡らせました。就寝前だけではなく、飲み会の3次会として利用したり、おやつの後に摂取カロリーをサウナで消費した気分になったりと、いろんな場面で訪れてみて銭湯が身近になった気がします。

気になるのは来年の開催の有無です。「ビエンナーレ」でも「トリエンナーレ」でもないPARASOPHIAがどういった形で継続される、またはされないのかも問題ですが、今年3回目にして大好評だったKYOTOGRAPHIEと合わせて、来年のGWもぜひ、京都のアートシーンを盛り上げて欲しいと思います。

2015年の参加アーティストは公募で集められました。来年はどうなるか分かりませんが、銭湯という場所の魅力を活かしつつ、その迫力に負けない素敵な作品が見られますように!

【概要】
京都銭湯芸術祭2015
期間:2015年4月18日(土)〜5月17日(日)
各銭湯入浴料(鑑賞料):
大人430円、小学生150円、小学生未満60円
会場:
[中京区]玉の湯・錦湯
[左京区]東雲湯・東山湯温泉・平安湯
[東山区]新シ湯・大黒湯(山城町)・旭湯
堀川団地(上長者町棟535号室)

湯賞:日名舞子
湯衆賞:川田知志
Yann Le Gal
湯湯生:平安湯 村中夫妻

公式サイト:http://www.kyotosentoartfes.com

Ai Kiyabu

Ai Kiyabu . 1989年岐阜生まれのエディター・ライター。成城大学文芸学部芸術学科卒業。大学生の頃にファッション誌『GINZA』の編集アシスタント、フリーペーパー『Tokyo Art Map』の編集インターンを経験。卒業後、雑誌『美術手帖』の編集部にて、現代美術から写真、陶芸まで様々なジャンルの記事を担当。2014年冬より憧れの地・京都に拠点を移し、独立。歴史ある文化の面白さを新しい視点で発見したい。 ≫ 他の記事

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