マテリアライジング展Ⅲ 情報と物質とそのあいだ

The Third Digital Revolution: 第3次デジタル革命の今

poster for Materializing Exhibition III - Between Information and Materiality

「マテリアライジング展Ⅲ - 情報と物質とそのあいだ - 」

京都市中京区エリアにある
京都市立芸術大学ギャラリー @KCUAにて
このイベントは終了しました。 - (2015-05-16 - 2015-06-21)

In フォトレポート by KABlog 2015-06-15

最近ではコンピュータでデータを作り、3Dプリンタやレーザーカッターといった出力装置を使って立体作品を制作することも当たり前になってきました。現在、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催されている「マテリアライジング展Ⅲ」は The Third Degital Revolution (第3次デジタル革命) とよばれるムーブメント「デジタルファブリケーション」をテーマにしたシリーズ展の第3回です。

※デジタルファブリケーションの第1人者、ニール・ガーシェンフェルド氏によると第1次デジタル革命はコミュニケーション、第2次はコンピュテーション、そして第3次がファブリケーションです。

デジタルファブリケーションという言葉を耳にしたことがない方も、まだ多いかもしれません。その意味は名前の通り、コンピュータで作られた「デジタル(数値)」なデータを元に、実際に手に触れられる物を「ファブリケーション(製作)」することです。

例えば、最近ニュースでよく聞く3Dプリンタはその代表的なツールです。3DCGソフトを使って作成したデータを、太さ1mmほどのプラスチックを溶かし薄く積層していくことで立体にすることができます。また、他にもコンピュータミシンや、レーザーカッターなど、平面的なデータを元に図柄や輪郭を出力するツールも一般的です。最近では自作の巨大3Dプリンタで本物の家を作る建築家が現れたりと、ツールの飛躍的な進化とともに、その用途は広がり続けています。

マテリアライジング展は、デジタルファブリケーションに関わる新しい技術やアイディアを、アートという枠組みで一同に集めることで、その多様性、さらにアートとテクノロジーの関係性について考える試みです。さて「情報と物質とそのあいだ」には、一体何があるのでしょうか。さっそく見ていきましょう!

アートとテクノロジーの深いつながり

1F中央、一際鮮やかな色彩で来場者を惹き付ける牛。i.materialize社の協賛企画で展示されるThomas Cornelis氏の作品で、アンディウォーホルデザインコンテスト入賞作品。「ウォーホルが現代に生きていたとしたら、彼のファクトリーは3Dプリンタでいっぱいになっていただろう」というキャプションの一文は、アートとテクノロジーの深い関わりに気付かせてくれます。

今では3Dプリントできる素材はプラスチックだけにとどまらず、金属、セラミック、さらにはチョコレートと多岐に渡り、表現のツールとして定着してきています。また、同スペースでは、京都五条で3Dプリンティング・レーザーカーティングサービスを提供している sac sac の展示も行われています。展覧会のリーフレットを再利用し、封筒を作るワークショップは生活の中にある魅力的な素材を再発見する機会になりそうです。(展覧会のチラシはかっこいいものが多いので、これからはとっておくと良いですね!)


情報と物質とそのあいだを考えるための部屋

建築家として活動する木内俊克さん、砂山太一さん、永田康祐さんの3名が作り上げた2F中央の1部屋は、まるで彼らの頭の中にある様々な思考実験をそのまま出力したような、そんな空間です。一歩足を踏み入れると、誰かの頭の中に迷い込んだような気持ちになる不思議な場所。「情報と物質とそのあいだ」というテーマについてじっくりと考えるには最適です。

入口脇に当たり前のように置かれている脚立とそこに掛けられた意味深な構造物。これはコンピュータ上で「柔らかい構造が棒に引っかかっている状態」をシミュレーションし、レーザーカッターで出力したものです。コンピュータの中では柔らかいものが、プリントすることで構造として硬くなります。しかし、その形は依然として枕のような、何か柔らかいもののように感じられます。

続いて壁に貼られた3枚のレモンの写真。同じ角度、同じ色で合成されているにも関わらず、置かれる下地によって異なる奥行きを鑑賞者に与えます。情報がコンピュータと現実を行き来する過程で生まれる誤差や共通点、それらを観察することで「そのあいだ」に何があるのかを探ります。まるでメンバーの一員になったかのように、一緒になって考えてみるのも、この部屋の楽しみ方です。


部屋の奥に佇むあれは…トーテムポール?聞くところによると、トーテムポールが作家さんの中で何やら熱いテーマのようです。(会場のスタッフの方に作品の話を伺うと、いろいろと教えてくれます。是非声をかけてみましょう)

レコードと石ころから見える物質と情報の運命的な関係

デジタルなデータでは完成されているのに、物質にした途端に破綻する。城一裕さんのレコードは物質と情報の運命的な関係を教えてくれます。

城さんはこれまでコンピュータ上で描いた波線を様々な素材の盤面に彫り込み、レコードプレーヤーで再生するという実験を重ねてきました。シンプルなリズムの電子音が流れるのですが、素材の質感が音の違いに表れます。今回の展示では、機械的に音を拡声する蓄音機を用い、純粋な物質による音の演奏に試んでいます。

電気的に音を増幅するレコードプレーヤーの針の重さはわずか数グラムなのに対し、蓄音機の針は100グラム以上にもなります。多くの素材はその重さに耐えられず回転を止めてしまい、展示直前にようやく成功したのは、結果的に市販のレコードと非常に近い性質を持つ素材でした。

どれだけ同じ加工が多様な素材にできたとしても、物質と情報のあいだにある運命的な関係は揺るがない。なんだかロマンチックですね。(※レコードは近くのスタッフの方にお願いするとかけてもらうことができます)

同じ部屋の向かい側、階段状に並べられた大小異なる大きさの石。田部井勝さんは川辺で拾った石の形状を「3Dスキャン」という技術を使って3Dデータ化し、コンピュータ上でサイズを変え、また3Dプリントするという過程を作品として展示しています。

「いちど情報となった石ころは、岩にも小石にもなって再出現できる」というメッセージには、デジタルファブリケーションの大切なコンセプトが隠れているように思えてなりません。一番大きなものは氷の柱のようにも見え、物質のスケールを変化させることで、受けとる情報が変わっていくこともまた、この作品から見えてくることのひとつです。

オープンソースー物質が情報になるからできること

渡邉朋也《なべたんの極力直そう[初夏の特別編]ほか》は、どれもクスッと笑みがこぼれるプロジェクトです。山口県在住の渡邉さんは、DMM.makeの企画として身近な欠けているものを見つけては、直すというプロジェクトを行っています。その対象は割り箸からなんとガードレールまで。


渡邉さんはただ直すだけではなくインターネットで作った3Dデータを公開します。これで誰でもガードレールが直せますね。インターネットでデータを公開し、誰もが利用できるようにする「オープンソース」と呼ばれるトレンド。物質を情報にすることで、出会ったこともない同じ問題を抱える人と、インターネットを通して解決策をシェアすることができます。また、誰もが公開されたデータを自由に編集できるので、世界中の人が開発に参加することが可能です。もしかすると、いつかこの割り箸がどこか違う国で3Dプリントされたり、誰かのアイディアで進化したりするかもしれませんね(笑)

デジタルファブリケーションという領域は広く、ツールとして使いこなすためには専門的な知識を必要とします。しかし、実際の作品を目の前に、表現としてテクノロジーと接することで、それも少し身近な存在になりそうです。物質と情報、2つの世界を分ける壁が無くなることで、表現の未来はどう変わるのでしょうか。今後の動きにも注目です。

「マテリアライジング展Ⅲ クロージングイベント」
会場: 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
日程: 2015年6月21日(日)
観覧料: 無料
1, トークイベント 15:30〜17:00
スピーカー: 谷口暁彦(メディアアーティスト)、砂山太一(京都市立芸術大学特任講師、展覧会企画)
2, サウンドイベント 17:00〜19:00
ゲスト: 藤本由紀夫、Cryogenic Rhythm Science (Shun Owada + Shohei Amimori)
出展者: 谷口暁彦、城一裕

【展覧会概要】
「マテリアライジング展Ⅲ 情報と物質とそのあいだ」
会場: 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
会期: 2015年5月16日(土)―6月21日(日)
開館時間: 11:00~19:00(入場は18:30まで)

ライター: 辻勇樹
1986年兵庫県生まれ。慶応義塾大学政策・メディア研究科卒業。大学院で義足デザインの研究に携わり、社会的にデザインの適応が難しい分野に興味を持つ。卒業後、発展途上国でのプロダクト開発に従事。退職後、約1年アメリカで語学を学び、帰国。現在はKansai Art Beat PRスタッフのほか、京町家アーティスト・イン・レジデンスのサポーター、フリーランスデザイナーとしてプロダクト、ウェブ、グラフィックなどのデザインと日英翻訳を行う。デザイナーが気になる情報を拾い上げたい。

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