日本とシンガポールのホテルでのアートフェアを見て

いまでも「アートフェア」は必要なのか

In 特集記事 by Chisai Fujita 2015-07-30

昨年秋にシンガポールで開かれた「Singapore Art Fair」。私はプレス向け説明会に参加した後、中国やインドネシア等の、私の同業者である新聞記者や雑誌編集者の人たちに話しかけられた。「どうして日本のギャラリーは、どのアートフェアでも村上(隆)や草間(彌生)を出すの?」「なぜ日本人アーティストは、サイズが小さい平面ばかりなの?」

さらに彼らは「日本人のアーティストは、原発とか震災とか、何も考えてないの?なぜそういうテーマの作品をつくらないの?」とも言ってきた。あなたが私なら、何と答えるだろうか?

ART OSAKA 2015の場合

ART OSAKA 2015」に行った。

ART OSAKA 2015は、毎年7月に行われている日本屈指のアートフェアで、今年は7月3日~5日に開かれた。JR大阪駅と直結したホテルグランヴィア大阪を会場としている。50以上の出展ギャラリーは、関西をはじめとした日本のギャラリーがほとんどで、客室それぞれに展示、販売していた。

ホテルの一室を会場にしているのは、購入した美術品を部屋に置いたイメージがしやすいからだろう。

また現在の日本(関西)の現代アートの市場規模からは、展示専門の施設でのフェア開催は会場費・設営費共に収支が見合わないという運営側の事情もあるそうだ。

隣の紳士が「前(に発表した作品)よりいいね」とギャラリストに言っている声が、私の耳に聞こえ漏れてくる。アートフェアは展覧会ではない。「ART OSAKA 2015」に限らず、アートフェアは知り合いのギャラリーやアーティストに挨拶する場になっている気がする。本当に売る場であり、買う人はいるのだろうか?

「ART OSAKA 2015」に並ぶ作品で多かったのは、ポートレートや人体像。

あるいは「作家を知ってもらえるだけで良いんです」と言わんばかりの作品。
会場の空間の狭さを無視しても、インパクトのある展示をするのは、その場の購入だけではなく、プロモーションの場として割り切っているギャラリーだろう。

アートフェアにおいて、私たちは鑑賞者ではなく「消費者」である。決められた場所で消費者が「買う」というのは、その場にある与えられたものから「選ぶ」という行為である。私たちは「買いたい」「欲しい」と思っただろうか?

ART APART FAIR in Singaporeの場合

ART OSAKA 2015から2週間後、シンガポールのホテルPARKROYAL on Pickeringで、「ART APART FAIR in Singapore」が始まった。

ART APART FAIRは、ロンドンでも行われており、今後ニューヨークでも開かれる予定である。シンガポールは半年に一度のペースで、今回のフェア開催で6回目を数えた。その地のりのせいか、地元シンガポールだけでなく、他のアジア諸国のギャラリーが出している。

ホテルでのアートフェアは、ホテルの客室のレベルが展示の空間づくりと比例する。(日本人から見て)巨大なスイートルームは、「この作品を私の家にも飾りたい」と思わせるよりも、作品サイズの大小のほうが気になり、他の作品とあれこれと見比べてしまう。ポートレートや人体像は、1つだけ出展していた日本のギャラリーから日本人のアーティストによるものだった。それでは他の国の作品は、どういったものがあるのだろう。

このフィリピン人アーティストによるペインティングは、いろいろ描かれており、漫画の1コマのようだ。よく見ると、それぞれがパソコンのキーボードを抱えた家族を描いている。フィリピンならでは、ということはモチーフやテーマにならないことを証明し、どの国にも共通する話題で問いかけをしている。

そして私が注目したのは、出展ギャラリーの数である。アートフェアは「出展数が多ければ、規模も大きい」と思われがちだが、ART APART FAIR in Singaporeのギャラリー数は16。それぞれの部屋にある作品数はかなり多いが、見ても疲れることはない。また、それぞれの作品を覚えることができる数なので、気になる部屋を再訪することも容易だった。

欲しいものはありますか?

アートフェアは美術品の市場なので、来場者が「欲しい」と思う作品が並ぶべきである。その「欲しい」作品は、バリエーションが必要だと私は思う。ART OSAKA 2015は、似たような素材やモチーフのものが多く、変わったものや異質なものには「買う意欲を生まない」ように感じた。ART APART FAIR in Singaporeでは、いまの社会や美術史を揶揄したコンセプトの作品も多く、表面的に眺めても理解できない。

日本人の「部屋が小さいから買わない」というのは言い訳なのではないか。私は他国のジャーナリストたちと話していて、実は「見る意味」も「買う気持ち」も日本人には欠けていて、アートのグローバルスタンダードに立てていない、と気が付いた。アーティストは「欲しい」と思わせるものを、ギャラリーは「売ろう」と感じさせるものを、そして私たちは「買いたい」と思う気持ちを持って、アートフェアに足を運ぶべきである。そうしないと大人の文化祭にしか見えないし、どの立場の人も「美術ってそんなものか」と思うだろう。今ここで、気が付かなくてはいけないのだ。

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ART OSAKA 2015
2015年7月3日(プレビュー)、4~5日
ホテルグランヴィア大阪(大阪府大阪市)
http://www.artosaka.jp/

ART APART FAIR in Singapore
6th Edition
2015年7月17日~19日
PARKROYAL on Pickering(シンガポール)
http://artapartfair.com/

次回「Art Apart Fair 7th Edition」は2016年1月21日~24日、シンガポールのPark Royal on Pickeringで開催予定。

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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