いのちの交響 空海の地で会う日・韓現代美術

生きている芸術家の息吹を感じて・高野山総本山金剛峯寺にて

In フォトレポート by Chisai Fujita 2015-09-14

真言宗の信仰の地としてでなく、世界遺産さらには今年で開創1200年記念ということもあり、高野山には国内外から多くの人たちが足を運んでいる。個人的にこの1年以上、「命」や「生きること」について考えてばかりいるため、この展覧会タイトルには、とても心が引き付けられてしまった。こうなったら行くしかない、小学生のとき以来の高野山へ足を運んだ。

816(弘仁7)年に、弘法大師・空海が開いた高野山。その総本山である金剛峰寺と開創1200年ギャラリーが、「いのちの交響」展の会場となり、徐庸宣(ソ・ヨンソン)、井上廣子、崔石鎬(チェ・ソクホ)、淀川テクニックの合計5組の日本と韓国のアーティストが出展することになった。

関西アートビート読者なら、上の写真を見てこう言うだろう。
「え?なんで淀テク?」
実家が真言宗の私も初めて知ったのだが、他の仏教と異なり、真言宗は「岩や鉄といったものにも命がある」という教えなのだそう。淀川のゴミを再構成することは、真言宗てきには「一度捨てられた命に新しい命を与える」ととらえることができるらしい。見慣れたつもりのチヌであっても、つい手を合わせてしまいたくなる。

「いのちの交響」の展示会場は、いくつか分かれている。まずは金剛峰寺の別殿へ。

井上廣子は写真を扱い、日本とドイツを行き来する作家である。高野山の光を撮影した写真をもとにした《高野の光―無量光への旅》は、写真それぞれによって光や対象のとらえかたが異なるため、一枚一枚の写真の中へ、自分を置くことができるだろう。光のまぶしさや暗さ、何かを照らしたり、反射したり。畳の空間に置かれた大きなライトボックスにも、圧巻されてしまう。

アートイベントの多くは、その場でしかありえない展示をすることが多いが、この畳の大広間では、他にも徐庸宣、崔石鎬、淀川テクニックの作品が置かれている。どう見えるかは、ぜひ足を運んで感じてほしい。

さらに寺内を進んで奥殿へ。この奥殿は、普段は一般人が足を踏み入れることができない場所とのこと。そこから見える蟠龍庭は、日本最大級の石庭でもある。奥殿では、榎忠が大きな作品を3つも展示していた。

榎忠といえば、銀色に磨かれた金属が高層ビルのように立ち並ぶ作品(も展示されている)を思い浮かべるだろうが、私はこの《薬莢の間》をおすすめしたい。整然と並ぶ薬莢と、金のふすまや木の柱が「こんなに和室に合うなんて」と驚いた。小さな薬莢は小さな仏様にも見えるし、畳の上、床の間、書院棚、すべての薬莢からは生かされているハーモニーを奏でていた。

金剛峰寺を出て、外へ。

崔石鎬の作品は金剛峰寺別殿にもあるが、外にある《森林のいのちの塔》は、とても意味が深い。2015年4月2日から5月21日の高野山開創1200年記念大法会の期間に、金剛峰寺を訪れた方たちが東北復興の祈りなどをしたためて奉納された護摩木をつかっている。小さな護摩木にはメッセージが書かれており、見上げるほどの大きな巨木のようになっている。来年の3月11日には、福島県いわき市内にある真言宗の寺へ運ばれる、という。人と人のつながりが響きあう、文字通り「いのちの交響」だと思った。

さて金剛峰寺から歩いて数分、開創1200年ギャラリーには、2つの展示室がある。入口からすぐの部屋には、井上廣子が、木陰のように床に白い塩を展開し、壁面には高野山で撮影された写真によるインスタレーション作品がある。壁を隔てて隣の部屋は、徐庸宣による絵画と木彫作品による空間が広がる。

この写真だけだとプリミティブな印象が強い。徐庸宣のこの木彫作品は、金剛峰寺の室内にも置かれているが、私は開創1200年ギャラリーの無機質な空間にあるほうが好き、と感じた。読者の皆さんはどう感じるだろうか。

文頭に書いた通り私は、「命」や「生きること」を考えているため、展覧会「いのちの交響」のひとつひとつに強く反応してしまった。手の動きを感じることができる、榎忠の磨かれた金属や徐庸宣の木彫、そして日々を積み重ねるような崔石鎬の木片。生きている動きをとらえた井上廣子、作品として命を与えた淀川テクニック。意識する必要性もないのだろうが、5人の作家はもちろん生きていて、当たり前のように作品をつくって、展示する機会を得ている。生きているってすばらしい、現代美術って面白い。改めて思わせてくれる展覧会であった。

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【概要】いのちの交響 空海の地で会う日・韓現代美術
【会場】高野山総本山金剛峯寺(別殿・奥殿)および開創1200年ギャラリー
【会期】2015(平成27)年9月5日(土)―11月3日(祝・火)
【開館時間】8:30~17:00(入場は16:30 まで)
【公式サイト】http://inochinokokyo.com/

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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