芸大生Kanaが行くギャラリーレポート まとめ

写真作品レポート全7回の総集編

In 特集記事 by KAB Interns 2015-11-03

私は現在芸術大学で、版画や写真を学んでいます。これまでKansai Art Beatのfacebook上で、7回にわたり写真作品をレポートしてきました。(以下リスト)

第1回 大西伸明「vacuum」 ギャラリーノマルエディション

第2回 鈴木隆志「白線の上を歩きたくなる」 ホテルアンテルーム

第3回 山本浩貴「他者の表象 あるいは表象の他者」 京都芸術センター

第4回 ART OSAKA / ホテルグランヴィア大阪

第5回 OsakaPhotoWeeks① / 伊丹豪「RODIN / starman」de sign de>

第6回 OsakaPhotoWeeks② / 柴田敏雄「The Red Bridge」 Yoshiaki Inoue Gallery

第7回 OsakaPhotoWeeks③ / 三宅砂織「THE MISSING SHADE」FukuganGALLERY / 今村遼佑、大洲大作、前谷康太郎「光路」SAI GLLERY

写真は、報道に用いられるなど、社会の中に浸透している媒体です。今回は、関西の写真作品を用いた展示のレポートを元に、アートとしての写真の今を探ります。

1. 写真の起源

写真はカメラオブスキュラをもとに発達した技術です。カメラオブスキュラとは「暗い部屋」という意味があり、穴を通して外から光を取り込み、内部に反転した外の景色を映し出します。遠近が正しく投影されるため、多くの画家が写実的な絵画の制作に用いました。このように「現実を狂いなく捉えたい」という要求がカメラという装置を作り出したと言えます。

しかし、現代においても、写真は昔と同じように現実を切り取る装置としてのみ機能しているのでしょうか。常に新たな表現を探求するアーティストがどのように写真を用いるのか、7つの展覧会を取材することで新しい写真の在り方を見ていきます。

2. 写真と絵画の関係性

「THE MISSING SHADE」三宅砂織 | FukuganGALLERY

フォトグラムという技法を応用し、どこまでが事実の像を映し出したものなのか、またはどのくらい作者の創作が混じっているのかが曖昧な作品を制作しています。「写真が現実を狂いなく捉える」という認識に疑問を投げかけるような作品です。

※フォトグラム:カメラを使用せず、印画紙上に直接物を置いたりして感光させ、イメージを作り出す写真技法。

「The Red Bridge」柴田敏雄 | Yoshiaki Inoue Gallery

鉄橋などの工業的な建造物を様々な構図で捉え、極度に平面的であったり、遠近感を強調したり、普段は見ることができない視点で景色を切り取ります。全てにピントが合うようにカメラの被写界深度を調整し、肉眼では認識できない視点を生み出しています。

「現実を狂いなく捉える」カメラの機能は、表現手法として使われることにより、私たちの認識や常識を覆す可能性があります。

作家が、カメラでしか表現できない見せ方を発見することで、写真という仕組みが一つの表現として成立しました。例にある、2つの作品は、カメラを「現実と非現実の境界へ意識を向けさせる媒体」として見せています。

3. 空間を感じながら写真作品を楽しむこと
 
インスタレーションという場所や空間そのものを作品とする考え方があります。この技法を用いて、写真の機能を再考した作品をご紹介します。

「RODIN / starman」伊丹豪 | de sign de>

写真を平面としてだけではなく、空間を構成する要素としても配置しています。わざと真っ直ぐに歩かせないようにするなどの工夫によって、鑑賞者の意識を空間全体に向けさせます。

「光路」今村遼佑、大洲大作、前谷康太郎 | SAI GLLERY

薄暗いギャラリーでプロジェクターを用いて映像を投影する作品が見られました。作家たちに共通していたのは、空間や光に意識が向かうような作品が多く見られたことです。この展示は写真において最も大切な要素である「光」について再考した展示です。

インスタレーションとして用いると、写真という一枚の紙が立体的な空間を構成する要素となります。これも近年見られる新たな写真表現です。

4. 社会に介入するアートとしての写真のあり方

これまで紹介してきた作品では、ギャラリーでの作品展示という形式を踏襲していました。それとは別に、他人の視点を収集するフィルターとして写真を用いることも新たな流れの1つです。

「他者の表象 あるいは表象の他者」山本浩貴 | 京都芸術センター

京都芸術センターで行われていた山本浩貴さんの展示は「移住」をテーマにしていました。山本さんは「Socially Engaged Art」というコミュニケーションを通して作品を制作するスタイルで知られています。

プロジェクトの中で山本さんは在日外国人にカメラを渡し、写真を撮影してもらいました。撮影者に簡単なルールをのみを設定して、異なる文化的背景を持つ人々の視点が、写真を通して切り取られています。山本さんにとって、写真は他人の視線を覗くように人の価値観や意識を汲み取るフィルターとして使われています。

「見えないものを見えるようにする。または拡張する。」

様々な方法で写真を用いた作品をレポートしてきました。現実と非現実の境界へ意識を向けさせる写真、空間を意識させる写真、そして価値観や意識を汲み取るフィルターとしての写真がありました。

遠近を正しく表現するという特定の目的で生まれたカメラという装置が、現在は情報技術の発達に伴い、誰でも扱うことができる一般的なツールになりました。京都芸術センターでの山本浩貴さんの展示では、写真は他人のプライベートを覗く媒体として扱われていました。他人の生活や価値観をシェアする写真の扱い方は、Instagramなどのソーシャルメディアにおける写真と共通しています。

写真は、時代をダイレクトに映し出すメディアです。これからも、その時代に生きる人が見たい、伝えたいことを反映する道具として、新しい表現を生み出し続けるでしょう。

[KABインターン]
青木加奈:現在京都の芸術大学で制作を通じて人間の視覚や認識について研究をしています。

[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。

KAB Interns

KAB Interns . 学生からキャリアのある人まで、KABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。2名からなるチームを6ヶ月毎に結成、KABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中!業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、KABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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