KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 SPRING

13組のアーティストによる11の公式プログラム全容発表

In ニュース by Megumi Takashima 2015-11-23

2016年3月に開催される「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 SPRING」(以下、「KYOTO EXPERIMENT」と略記)の記者会見が行われ、プログラムの全容が発表された。6回目を迎える今回は、2016年1月にリニューアルオープンするロームシアター京都をメイン会場に迎えての開催となる。

公式プログラム11作品は、4つの軸に沿って構成されている。以下、その魅力的なラインナップを紹介したい。

(1)現代舞台芸術の源流を辿る試み

1960~70年代、それまでの演劇やダンスの既成概念を打ち破る革新的な作品を発表し、現在に至る舞台芸術に大きな影響を与えてきた国内外のアーティストたちが紹介される。日常的な動きや即興性などを取り入れ、それまでのモダンダンスからポスト・モダンダンスへの道を切り開いた振付家・ダンサーのトリシャ・ブラウン。彼女が1970年に設立したトリシャ・ブラウン・ダンスカンパニーの初期作品群がオムニバス形式で上演される。京都国立近代美術館での上演という、サイトスペシフィックな上演形態にも注目だ。また、「舞踏」を創始した土方巽やアングラ演劇の旗手・唐十郎の状況劇場に関わった麿赤兒が1972年に創設した、舞踏集団・大駱駝艦の近年の代表作『ムシノホシ』が上演される。さらに、1970年に劇団・維新派を設立し、「ジャンジャン☆オペラ」として知られる独特の上演スタイルや野外劇の雄として知られる松本雄吉が演出する新作も予定されている。彼らの初期作品や近作・新作に触れることで、時代を切り開いてきた実験精神を改めて見つめ直す機会となるだろう。

また、トリシャ・ブラウンやマース・カニングハムなど、先行世代を意識して作品をつくっている振付家・ダンサーのボリス・シャルマッツ/ミュゼ・ドゥ・ラ・ダンスによる『喰う』の上演も予定されている。シャルマッツは、ブラウンやウィリアム・フォーサイスなどに続く次世代のホープと目される存在であり、彼の作品も含めることで時代の流れを意識してほしいという狙いが込められている。

(2)作家たちの共同作業による新作群

東日本大震災と原発事故を題材にしたエルフリーデ・イェリネクの戯曲『光のない。』で高い評価を受けた、京都の劇団・地点と現代音楽家・作曲家の三輪眞弘が再びタッグを組み、イェリネクの別作品『スポーツ劇』の上演に挑む。また、前作『地面と床』で音・言葉・身体・空間の関係性を探る試みを行なったチェルフィッチュは、現代美術作家・久門剛史との共同作業による新作『部屋に流れる時間の旅』を上演予定。また、ボイスパフォーマー・作曲家の足立智美は、KYOTO EXPERIMENTの子ども向けプロジェクトとして、舞台音楽を子どもたちとともに制作するワークショップを行なうとともに、激しく身体をぶつけあうパフォーマンスで知られるcontact Gonzoとの初顔合わせを試みる。いずれも、異ジャンルのアーティスト同士のコラボレーションであり、刺激的な相互作用が生まれるだろうと期待したい。

(3)継続的な国際交流プロジェクト

フェスティバルの役割の一つとして、国際的な共同製作やネットワークづくりを掲げているKYOTO EXPERIMENT。また、同舞台芸術祭の特徴の一つとして、日本で紹介される機会の少ない、ラテンアメリカ諸国の現代演劇やダンスを継続的に紹介してきた実績がある。今回の開催では、チリ演劇界のホープ、マヌエラ・インファンテ率いるテアトロ・デ・チレの『動物園』が上演される。「人間の展示」というショッキングな主題を通して、西欧の植民地化や軍事独裁政権といったチリの複雑な歴史、異文化の混淆や衝突、さらには「舞台芸術」のあり方への鋭い批評となるのではと期待される。また、シンガポール出身のアーティスト・チョイ・カファイは、アジア諸国のダンサー・振付家へのインタビューやリサーチを通して、伝統舞踊とコンテンポラリー、現代社会とダンサー個人の身体性といった様々な問題を提示する。さらに、フランスを拠点とするダンサー・振付家のダヴィデ・ヴォンパクは、「カニバリズム」という人間の極限的な行為を切り口にした先鋭的なダンス作品の上演を予定している。

(4)デザインと建築の視点によるリサーチプロジェクト

舞台芸術と隣接するアートジャンルを紹介する試みとして、デザインと建築、それぞれの領域で活躍するUMA/design farm と dot architectsが京都の街のインフラを再編集して提示するリサーチプロジェクト、「researchlight」の展開も予定されている。

ショーケース「Forecast」とフリンジ企画「オープンエントリー作品」

以上の公式プログラムに加えて、外部キュレーター2名の視点から日本の新進アーティストを紹介するショーケース「Forecast」が初めて開催される。今回は、あごうさとし(劇作家・演出家・アトリエ劇研ディレクター)が「劇場における身体のあり方」という視点から選んだ3組(岩渕貞太×八木良太、辻本佳、あごうさとし)と、国枝かつら(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館学芸員)が選出した音と映像を扱う3組のアーティスト(小金沢健人、田村友一郎、梅田哲也)の作品が上演される予定。また、フェスティバル開催期間中に京都で発表される作品を一挙に紹介するフリンジ企画「オープンエントリー作品」では、45作品が登録されている。

公式プログラムに加えて、ショーケース「Forecast」やフリンジ企画「オープンエントリー作品」など関連プログラムを含めると、過去最大の作品数が集まっている。京都は移動のしやすい規模の街なので、スケジュールの組み方次第では、公演のはしごも可能だ。ダンスと演劇、国内と海外、世代の違いなど、その日観劇した作品どうしの共通性や相違を考えながら、充実したプログラムを楽しんでみてはいかがだろうか。

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「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2016 SPRING」
期間:2016年3月5日(土)~3月27日(日)
会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都府立府民ホール“アルティ”、京都国立近代美術館、ほか
http://kyoto-ex.jp/
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Megumi Takashima

Megumi Takashima . 美術批評。京都大学大学院博士課程。現在、artscapeにて現代美術や舞台芸術に関するレビューを連載中。企画した展覧会に、「Project ‘Mirrors’ 稲垣智子個展:はざまをひらく」(2013年、京都芸術センター)、「egØ-『主体』を問い直す-」展(2014年、punto、京都)。 ≫ 他の記事

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