ふぞろいなハーモニー

東アジアの現代アーティストが広島に集う、多様な視点から今の社会を見返す展覧会。

In フォトレポート by Chiaki Ogura 2015-12-31

被爆70年を迎える2015年、広島市現代美術館で、「ヒロシマを見つめる三部作」のうちの第三部にあたる「ふぞろいなハーモニー展」が開催されています。これは、東アジア地域において常に変化する”調和=ハーモニー”について、現代のアーティストによる作品や調査、活動から対話の機会を広げていくことを目指した展覧会です。ドイツ政府が設立した公的な国際文化交流機関のゲーテ・インスティトゥートが企画。参加しているのは、日本・韓国・中国など東アジアゆかりのアーティスト16名。社会と結びついた美術作品を通して、東アジアの今を広島の地で探ろうとしています。

入口正面に位置するのは、田中功起氏の映像作品〈1台のピアノを5人のピアニストが弾く(最初の試み)〉。
その名の通り、5人のピアニストがどうやって1台のピアノを弾くのかというひとつのプロセスを約57分間に渡って撮影した作品です。記録をテーマにした作品を制作する田中氏は、ビデオを記録に適したメディアとして捉えています。ひとつの出来事を記録して再構成する上で、物事を言葉で描写するテキストと比べても、ビデオはより即物的にそれを試すことができると話しています。ネット上でも作品が閲覧できるというのも、彼ならではの作風ではないでしょうか(https://vimeo.com/34917113)。本展では他にも2つの映像作品が展示されています。

中国香港生まれ、同地在住の梁志和(リュン・チウー)氏は、読み手の国籍に応じて本を読むことで言語を読解するというアイデアを発展させた映像インスタレーション作品を展示。日本語に訳された中国の公立小学校で使われる中国史の教科書を題材に、ひとつの映像には、全ての漢字が棒線で消された本を、漢字を飛ばしながら読む日本人男性の姿が流れています。そして、同時にもう一方の映像では、漢字だけを拾って読む中国人女性が広東語で読み上げる姿が映し出されています。これはリュン氏が日本滞在中、日本語に訳された中国史の教科書を発見し、漢字を頼りに一部分を読み、残りを推測して読解した体験から生まれた作品です。

兵庫県生まれ、イギリス・ロンドン在住の米田知子氏は、瞬間を写し取り記録するメディアである写真を用います。歴史的な認識を地域や時間にとらわれず、客観的な視点で撮影するのは米田氏の作品の特徴。今回展示されている作品は、いずれも戦争の記憶を留める場所を撮影したものです。東日本大震災をきっかけに、これまでの安全神話が崩れ、いま目に見えているものだけではなく、その裏に隠れているものを感じて考えようと行動する若者が増えていると感じると米田氏は話しています。

人や文化の交流が活発である東アジアは、互いに影響し合う関係性があると同時に”圧力”として存在しうるともいえます。ひとつの歴史的な事象も、別の立ち位置からみれば捉え方が変わるように、多様な視点を受け止める想像力がこれからの時代において、特に必要になってくるのではないでしょうか。

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【概要】
ふぞろいなハーモニー

会期:2015年12月19日(土)~2016年3月6日(日)
開館時間:10:00~17:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、12月27日(日)~1月1日(金・祝)[ただし1月11日(月・祝)は開館。1月12日(火)は休館]
観覧料:一般1,030(820)円、大学生720(620)円、高校生・65歳以上510(410)円
    ※( )内は前売りおよび30名以上の団体料金
主催:広島市現代美術館、中国新聞社
企画・助成:ゲーテ・インスティトゥート
公式サイト:http://www.hiroshima-moca.jp/harmony/
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Chiaki Ogura

Chiaki Ogura . 岡山県出身。広告代理店・広報部にて勤め、現在はフリーライター・フォトグラファーとして活動中。ジャンルは幅広く、雑誌やWEB媒体などで執筆。ベンシャーンやアンディ・ウォーホルに感銘を受け、アートの世界に。ギャラリーや美術館の空間をこよなく愛する。作品を目の前にしたときの、右脳がぐらっと動かされる感覚がたまらない。comocomo.cafe ≫ 他の記事

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