アートブック: 体験する本 vol.1

YUY BOOKS オーナー 小野友資さんへインタビュー

In KABからのお知らせ インタビュー by KAB Interns 2016-01-25

美術専門書、写真集、絵画作品集、展覧会図録、ファッション性の高い雑誌……。アートブックとは、「読む」ためではなく「体験する」本。それは私たちにとって、アートの入口の1つ、とも成りうるかもしれません。
しかし、アートファン・文化的感度の高い人々の間では一般的な専門書店も、一般の方に目に触れる機会は多くないのが現状です。
このインタビュー記事では、個性豊かな取り揃えのある書店の方々にお話を伺い、「アートブック」を切り口に、お店の運営のあり方や特徴などを紹介していきます。第1回目は、YUY BOOKS オーナーの小野友資 (おの ゆうすけ) さんです。

―アートブックストアを始めた理由について教えて下さい。

もともと本が好きで、気づいたら家にたくさん本が溜まっていました。これをなんとかできないかと思っていたところ、近所の仲のいい本屋さんに「じゃあ本屋をやればいいじゃない」と言われて「あ、そうか!」と思い立って。
もともとアートブックが好きだったのと、京都にこういう店が少ないことから、「できる」と確信しました。何かを始めたい、とはずっと思っていて、自分の「うり」として一番いいものって何だろうと考えた時に、自分の中で「本屋さん」というのがぴったり当てはまったんですよね。仕事としての軸が何本かある中で「本屋さん」という軸を入れることによっていろいろつながってくると感じました。

―どんなふうに「つながって」きたのでしょうか?

ブックディレクションという仕事があって、例えばカフェやホテルなど、あるスペースにどういった本を置くかという、本棚セレクトの仕事もしています。
今の時代、本(アート関係なく…)をたくさん売ることは難しく、本屋+αで、小さな本屋ならそれぞれアイデアを出してやっていかないといけないんです。ギャラリーやカフェなどを付随させたりとか。そういう本屋さんをどうやってつくっていくかを紹介する講座 (いまどきの本屋のつくり方講座) も行っています。他にも、写真家さんを呼んでトークイベント を開催したり。こうやって本屋をやりながら付随してくる仕事は面白いです。本屋を軸において周りを騒がせる、みたいな感じですかね。

―普段はどういったお仕事をされているのでしょうか?

普段はモーションデザイナーをしていて、土日だけ本屋をしています。

―お店のこだわりはありますか?

いろいろな仕入れ方法のパターンがあるのですが、YUY BOOKSでは取次(※1)を使わず、全ての本を直接仕入れています。基本的には一点一点選んでいるので、本当に自分が気に入った本を販売しています。そこはこだわりになるんでしょうかね。

(※1) 取次: 出版取次の略称。卸売問屋として本の流通業務に携わる会社のこと。出版社と書店の間をつなぎ、物流、返品処理 、商品管理、需給調節など幅広い業務を請け負う流通業者。

―アートブックでお好きな傾向はあるのでしょうか?

多いのは写真集でしょうか。けれど、何かしらドラマのある本、ストーリー性のある本が好きです。深みがあればあるほどおもしろいと思います。

―小野さんにとって、アートブックとはどういうものなのでしょうか?

エッセイなどを読む感覚とは違って、絵を見る、映画を観るという感覚に近いですね。
何か共感する部分ができると、その共感が感動になる、というか。

ー日本と海外のアートブックにおける違いはあるのでしょうか?

海外には「ブックデザイナー」という、本のデザインだけをする仕事があるんです。日本でも、本のデザインで有名な人もたくさんいますが、いわゆるグラフィックデザイナーであることが多く、本だけのデザインを手掛ける人はなかなかいません。海外のアートブックで言うと、例えばオランダのIrma boomは、とても小さな本を作ったり、逆に極端に大きな本を作ったりしています。

また、スイスのEdition finkという出版社には面白い本がたくさんあります。本に写真を載せたいと思った時に、いろんな形の写真があってレイアウトが難しいことがあるのですが「じゃあ写真をそのまま挟んじゃえ」っていう大胆な発想でデザインされています。

一方この本は、日本のイラストレーターの黒田潔さんの本です。海外のアートブックに比べて、紙質など細かい部分のデザインに工夫があります。

こんな風に、海外のアートブックはキャッチーで大胆な面白さがあるけれど、日本のアートブックはよりディティールのアイデアが豊富であるといえるかもしれません。

―YUY BOOKSのお仕事でどんなことが楽しいですか?

お客さんとたくさんお話できる時が楽しいです。自分が読んだ面白い本を知ってほしいし、お客さんからいろんな本を知ることができるので。YUY BOOKSは、カフェが併設されているので、本とは関係ないお客さんとも出会うことができます。いろんな人が集まる場所として機能していると感じますね。

―最後に、今おすすめの一冊を教えて下さい。

『MUSIC KIDS BOOK』という本です。ARという技術を使った、子供向けの本なんですが、専用のアプリのカメラで本のイラストを映すと絵が浮かび上がったり、音楽が流れたりする面白い本です。子供の仕掛け絵本などはよく見かけますが、この本はより参加型で、新しい本のスタイルといえるかもしれません。

< Kei あとがき >

小規模な店舗において、本をたくさん売ることは難しいことかもしれません。小野さんは、イベントや講座を開催したり、ホテルなどのブックディレクションを担当するなど、本屋+α でアイデアを出しながらYUY BOOKSを運営されています。アートブックを通じて人が集まり、様々な可能性が組み合わされ、それが新しい仕事として生まれ、つながっていく場所。それがYUY BOOKSという本屋さんであると感じました。

インタビューでは、極端に小さい本や、写真をそのままはさんである作品集、デジタルの技術をうまく利用した新しい仕掛け絵本など、面白いデザインのアートブックを紹介して頂きました。
海外のアートブックには、本の概念に挑戦するような大胆な面白さ、日本のアートブックには、紙の質感にこだわるなどのクオリティの高さがあるようです。

平日はモーションデザイナーとして、土日は本屋さんとして活動されている小野さん。お仕事で大変なことはありますかとお聞きしたところ、本屋さんの仕事では、取次を通さない分、仕入れをする際のやり取りが多くなってしまうことがあるそうです。しかし、それもお店のこだわりとして楽しみながら取り組んでいらっしゃるようでした。
エッジの効いた本を、次々とご紹介してくださる姿からは、アートブックをひとつずつ味わいながら本屋さんを運営されている喜びが伝わってきました。

取材先YUY BOOKS
京都市下京区松原通油小路東入ル天神前町327-2 いろいろデザイン内

[KABインターン]
眞鍋渓 (まなべ けい):大学3年生。愛媛からやって来た。スイスのアートプロジェクトへ参加したことをきっかけに、芸術の世界に興味を持ち始める。現在、Kansai Art Beatのインターン生として、アートに関わる仕事に就けるよう模索中。忍者文字が少しだけ書ける。

[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。

KAB Interns

KAB Interns . 学生からキャリアのある人まで、KABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。2名からなるチームを6ヶ月毎に結成、KABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中!業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、KABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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