Calculation of Image – 3X4

ギャラリーが出したお題にアーティストが出した答えとは

poster for Calculation of Image - 3 × 4

「Calculation of Image - 3 × 4」展

大阪府(その他)エリアにある
ギャラリー・ノマルにて
このイベントは終了しました。 - (2016-02-20 - 2016-03-12)

In レビュー by Chisai Fujita 2016-02-29

今回取り上げるのは、Gallery Nomart(ギャラリーノマル)で開かれている展覧会だ。所属アーティストによる展示・販売をするコマーシャルギャラリーであり、版画工房も持つというギャラリーのイメージにこだわらず、ギャラリーの出した「サイズの比率は3×4」「インクジェットプリントする」というお題に、5人のアーティストが答えを出している。展覧会タイトルは「Calculation of Image」、イメージを計算すること。結果的に出来上がったアーティストたちによる作品群は、現在のアートや社会に対する問題点も洗い出すことになった。

■木村秀樹と層

版画はいま、美術のどんなジャンルと比べても行き詰まり、岐路に立たされている。パソコンとプリンターでも大差ない結果物が出来上がるようになった現代では、手のこんだ技法で版画を制作する理由も、それを見て理解する/楽しむ鑑賞者もない。そうした環境において、版について挑戦を続ける木村は、10年以上取り組むペインティング作品、その発展形と思われるインクジェットプリントの新作《A Little Fall Maker》シリーズを出品した。いずれも、「どうなっているの?」と画面を食い入るように覗き込んでしまいたくなるのは、その「層」のせいだろう。トリッキーに感じる画面構成。滝や水流の音が聞こえるスキージーの動き。吸い込まれそうな海や空を感じる青や紺、緑、黒。それらを、版をつかって層として重ねることで、小さな画面にいくつものドラマを感じてしまうだけでなく、絵画表現にはできないこと、物質感を求める立体でもないこと、映像とは違う次元での時間を感じさせた。



■中原浩大と規制緩和

本展のテーマである「3X4」の比率を用い、楕円と色をアレンジしたモチーフをインクジェットプリントし、壁に並べている。同じものがたくさんあるという版画の特性「マルチプル」を、中原のこの作品は、版は少しずらすことで「オリジナル」に仕立てた。当たり前の理屈だが、こうした版画の持ち味を皮肉ることで、壁一面から不思議さが漂う。

色のついた楕円や円は、紙面を区切っているようにも見えるし、像やロゴマークを想起させたりもする。形や色の組み合わせだけなのに、新鮮さやなつかしさを感じ、心が弾むものもあればぎょっとするものあるという、見ているだけでドキドキしてしまう。にじみもずれもないインクジェットプリント、しかし写し出された異なる像が広がるさまは、まさに規制に縛られながら多様化を叫ぶ現代社会のようである。中原は自分のフィールドに立ち返ったように、立体作品も置いていた。



■今村源と重ねること

美術とは重なりを求めるものだ、と私は思う。見ていて「デジャブ」が起こる作品、つまり日用品を並べたり、白や淡い色を垂らしたり、工芸品のように手を込んだようなものは、他の類似品を模しただけの薄さを感じさせる。しかし、時間や経験を重ねたものからはデジャブは起こらない。そのアーティストならではの作品、と呼ばれて、認知されていく。

上記画像の、右7枚のドローイングをもとに版を起こし、その版を右から上に重ねると、一番左のものになる。このように版画は絵画に比べて、像の重なりが露骨に目に入るメディアである。経験豊かな今村だから、この特性をもちろん知って、それを生かす形にしたのだろう。モチーフは土、出た芽、今村がよく用いるキノコ、草、水などの自然物。作品タイトル「ミエテイルコト」は今村からの問いかけだとしたら、私には「亜熱帯のジャングル」に見えたが、皆さんにはどう見えただろうか。

■稲垣元則とジャンル

このテキストでも、版画や絵画など美術におけるジャンル名を書いてきたが、私は実のところ今のアート(いわゆる現代美術)に「もうジャンルは存在しない」と考えている。絵画だの彫刻だのといった用語は、他人に作品の状況説明をするときに必要な言葉でしかない。そのとき稲垣のこの作品は、「写真の上に版画を載せたもの」とでも言おうか。

この画像の作品ではなく、あえて画像を載せない作品について触れておく。ぜひ実物を見てほしいそれは、写真に木炭で引かれた柔らかな線を版として重ねており、「写真の上に版画を載せたもの」と言い切るにはもったいない。緊張感と同時に、映像作品を見ているように像が流れているように見えた。実際に動いているもの、動きを目に見えようにしたものを「映像」と呼ぶならば、そうでなくても(私の想像という認知のもとで)動いているように見えるものも「映像」と呼べるのではないか。

■田中朝子といつもの味

今回の展示のことを知っても、「ギャラリーノマルでこのメンバー」=「いつもの喫茶店のいつものカレーライス」と思って、行くのをためらってしまう人も多いのではないだろうか。しかしこの企画は、いつもと違う味のカレーライスをつくるために、テーマを決めて、素材を選んだような展覧会であるという。

今回の田中は「移り変わる空のさま」を題材にしている。写真のポジ3枚を重ねて版とし、それをインクジェットプリントしたもの、空を一日中、30秒ごとにシャッターを切った写真を重ねて本にしたもの、その本をぱらぱらめくっていく映像。こうした作品の展開は、ジョセフ・コスースを思い出させる。田中はコスース的なコンセプチュアル性よりも、本展覧会のタイトル「イメージを計算すること」をきちんと守ることに徹した。なぜなら「あるとないとでは、カレーライスの味が変わるタマネギ」である田中は、出されたお題の答えは一つではない、と表明しているようにも見えたからだ。そして、これまでの田中の仕事の延長ではなく、さらなる挑戦を試みている。そんないつもの味を裏切ったカレーライスを、ぜひ食べに行ってほしい。

今回のGallery Nomartの展覧会は、アーティストに問いを投げかけ、アーティストは答えとして作品を返す、という企画であった。Gallery Nomartは「ギャラリーと名のつく場は、アーティストの単なる作品発表の場として存在するのではない」、「ギャラリーはアーティストありきで動いているのではない」、と本展覧会で証明した。他のギャラリーはどうだろうか。「多様化」という言葉でそれぞれの目的が見えにくくなっているとき、コマーシャルギャラリーや貸画廊、スペースを持たない画商まで、ギャラリーと名乗るものはいったい何か、アーティストと何をしていて、なぜ必要なのか。ひいては、その意味や解釈が人によって異なる「アート」についても、アートとはいったい何か、いまなぜ必要なのか、と問い掛けているように思えてならない。

【展覧会名】グループ展 「Calculation of Image – 3 × 4」
【会場】Gallery Nomart
【会期】2016(平成28)年2月20日(土)~3月12日(土)
【公式サイト】http://www.nomart.co.jp/gallery/

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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