スペインの彫刻家 フリオ・ゴンサレス展

ピカソに鉄彫刻を教えた男フリオ・ゴンサレス。国内初の本格的な回顧展

poster for Julio González Retrospective: Master of Iron Sculpture

「スペインの彫刻家 フリオ・ゴンサレス」展

三重県エリアにある
三重県立美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2016-02-09 - 2016-04-10)

In トップ記事 レビュー by Aki Kuroki 2016-03-23

フリオ・ゴンサレス(1876-1942)、聞いたことがない作家名だったが、チラシに掲載されていた作品がとてもユーモラスな形の彫刻だったので、興味がわいて三重県立美術館で開催中の「スペインの彫刻家 フリオ・ゴンサレス展」へ行ってきた。日本では知名度の低いゴンサレスだが、ジョアン・ミロやパブロ・ピカソとともにヨーロッパではよく知られた作家で、「鉄彫刻の父」とも称される20世紀の近代彫刻を切り拓いた重要な彫刻家のひとりである。これまで日本においてまとまった形で紹介されたのは、1975年、1987年の2回であり、本展はゴンサレスの作品を体系的に紹介する日本初の回顧展となる。

彫刻家ゴンサレスをざっと紹介すると、10代の頃から金工職人である父親のもとで修業を積み、金属加工の技術を身につけた。金工職人として生計を立てつつ、50代を過ぎた頃から彫刻家として作品の制作を開始。旧友ピカソに鉄の溶接技術を教え、二人でコラボレーションしたことで彫刻の新たな可能性に目覚め、斬新な鉄彫刻の作品を次々に発表、国際的にも注目を集めるが、スペイン内戦、さらには第二次世界大戦が始まり混乱の中で生涯を閉じる。彫刻家として活動したのはわずか10年あまりである。

スペイン出身、ゴンサレス、鉄彫刻。この3つの言葉からはマッチョで威圧感のある、またはモニュメンタルな作品のイメージが浮かぶが、実際に見ると小さなものが多くユーモアがある作品が並ぶ。例えば、《あごひげと口ひげ》はまさにひげだけの作品なのだが、見ていると頭の中についついおじさんの顔を思い描いてしまう。同様にひたいだけ、足だけの作品もその先にある体がちゃんと見えてくるし、体形や性別も何となく想像ができる。一見抽象的に見える作品だが、あくまで現実の人間の顔や体を基盤に持っている点で具象の作家といえる。

ゴンサレスの作品には主に二つの傾向がある。
ひとつは金属板の面で空間を囲い込むことによりボリュームを出そうとするもの。彫刻としての厚みがなく薄い鉄で形づくられた作品がみられるが、重要なのは空間なのである。その特徴がよく表れているのが《尖ったマスク》で、平面の金属板に切り目を入れ、目や鼻など実際には出ているところを押し凹ませている。現実の凹凸とは逆転しているが、見たときにはちゃんと顔になっており作品の中では辻褄が合っている。切り抜かれた部分(空間)によって、残された部分が生かされているのである。また、中国の太陰対極図を思わせる恋人たちの横顔が表されたマスク《恋人たちⅡ》でも、空間は単なる無ではなく、「無いこと(ネガティブ)」が「有ること(ポジティブ)」を支えている。そこに有るものだけが彫刻なのではない、当時これは発想の転換として画期的で大きなものだった。

もうひとつの傾向は、「空間の中のドローイング」と呼ばれているものである。アトリエにストックされたさまざまな金属部品を設計図無しに溶接でくっつけたり外したり、即興的かつフレキシブルな手法で制作され溶接そのものがドローイングのようである。また、オブジェだけでなく取り巻く空間自体をキャンバスのようにして、まるで描くようにしなやかに鉄を空間に配置した点においてもドローイング的である。

ゴンサレスの作品は鉄やブロンズなど黒っぽいものが多く光を反射しないので、作品の魅力の要素のひとつである金属の微妙かつ豊かな味わいや荒々しい溶接の痕跡などが分かりづらい。目の前の作品を360度さまざまな角度から眺めていると、「これパイプじゃない?」とか、「もしかして戸井?」とか、「こっちは何かの管?」など、細部が見え、作家の息づかいや苦悩が感じられてくる。実際、ゴンサレスが本格的に芸術活動をしていた第二次世界大戦中は金属そのものが不足していたので、素材の調達はかなり難しかったに違いない。

三重県立美術館は全国の中でも彫刻を重視した美術館で、「舟越桂 私の中のスフィンクス」展、常設展(三重県出身の彫刻家橋本平八展 3月27日(日)まで)が現在同時開催中。学芸員の方の話によると、無謀と言われた彫刻三連弾の企画だったがかなり評判がよく図録の売り上げもいいとのこと。ここまで大規模なゴンサレスの展覧会は今後日本で開催される可能性は少なく、海外の美術館でしか見られなくなるかも。今なら敷地内の彫刻も含め、まさに彫刻三昧の体験が味わえる。

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「スペインの彫刻家 フリオ・ゴンサレス展」

【会 場】三重県立美術館(柳原義達記念館)
【会 期】2016年2月9日(火)~4月10日(日)
【時 間】9:30-17:00(入館は16:30まで)
【観覧料】一般1,100円(900円)、学生900円(700円)、高校生以下無料
( )内は前売り、20名以上の団体料金      
「舟越桂 私の中のスフィンクス」とのセット券(当日券のみ)一般1,500円 学生1,300円
【公式サイト】http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/91196000001.htm
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Aki Kuroki

Aki Kuroki . 兵庫県出身。広告代理店にてアカウントエグゼクティブとして主に流通業を担当、新聞・ラジオ・テレビ・雑誌などのメディアプロモーション、イベント・印刷物などを手掛ける。神戸アーバンリゾートフェアではイベントディレクターとしてフェア事務局に赴任。 その後、10年間心理カウンセラーのかたわら、ロジャーズカウンセリング・アドラー心理学・交流分析のトレーナーを担当。神戸市 保険福祉局 発達障害者支援センター設立当初より3年間カウンセラーとして従事。 2010年よりフリーランスライターとして、WEBや雑誌の編集・インタビュー・執筆などを手掛けた後、現在は美術ライターとして活動。アートの世界のインタープリターとしての役割を果たしたい。 ≫ 他の記事

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