映像アートの祭典「イメフォフェス」開幕!

30周年は京都芸術センターで。過去の変遷を振り返る特集上映も

In トップ記事 フォトレポート by KABlog 2016-05-14

1987年にスタートし、今年で30回目を迎える日本最大規模の映像アートの祭典「イメージフォーラム・フェスティバル2016」。京都会場、京都芸術センターでの上映が、5月14日からいよいよスタートします。一般公募、日本招待、海外招待の3部門で構成され、実験映画作家やビデオ・アーティストたちの自由な映像表現の場として開催されてきた歴史あるフェスティバル。今年は京都芸術センターに会場を移し、9日間で全30プログラムが上映されます。「映像アート」に馴染みのある人もない人もより楽しめるよう、イメージフォーラムの黒小恭介(くろこ・きょうすけ)さんに話を伺いました!

――今年で30回目の開催となります。「イメージフォーラム・フェスティバル」についてあらためて教えてください。

もともとは「実験映画祭」が前身で、さらにその前身は「アンダーグラウンド・シネマ新作展」というものになります。現在でも、イメージフォーラムが「映像アート」と呼ぶものは、実験映画、アンダーグラウンド映画と呼んでいたものと本質的には変わりません。作家による芸術表現としての多種多様な映像作品を、全部ひっくるめた「映像アート」を上映する映画祭です。

――現在は京都を含め全国5都市での開催と大きな映画祭になっています。映像を取り巻く環境は「デジタル化」だけをとってもこの30年の間で大きく変わったと思います。

私が携わったのは2003年からですが、この十数年に進行した映像のデジタル化は、個人によるアニメーション制作に最も恩恵をもたらしたと思います。以前は、アニメーション制作においてカメラによる撮影は必要不可欠で、ライティングやカメラの露出、フォーカスの調整の煩わしさが制作の大きな壁となっていましたが、パソコンとスキャナーの普及がその壁をとりはらいました。現在、イメージフォーラム・フェスティバルの「ジャパン・トゥモロウ」(一般公募部門)でノミネートされる大半がアニメーション作品で、すでに国際的な評価を得た作品があることも珍しくありません。

――それはとても分かりやすいですね。個人が一人でも制作できる設備が整えやすくなったということですね。

アニメーションに限らず、撮影における煩わしさが無くなったことは映像表現の敷居を低くしましたが、一方でそれまで日本の実験映画における伝統のひとつであった構造映画的な作品はあまり出て来なくなりました。写真のフィルムすら知らないデジタル・ネイティヴ世代にとっては、映画のフィルム時代に皆が共有していた前提が成り立たないからです。とはいえ、最近では、映画のしくみをモチーフにしたり、あえてフィルムメディアで作品を手がける若い世代も増えてきました。フィルム時代の構造映画に代る、新しい映画の可能性を感じることもできます。

――そういう意味でも30年間の変遷をたどる「特集:ユニーク・エンカウンターズ」は注目ですね。どれも見所だと思いますが、なかでも過去に話題を呼んだ作品や注目作があれば教えてください。

そうですね。ここで特集されている38作品は、30年のストックの中から厳選に厳選を重ねた作品です。当時国際的に注目された作品ばかりなのでどれも見応えがあると思います。中でも、漫画家の岡崎京子に絶賛された『みみのなかのみず』(歌川恵子)をはじめ、『につつまれて』(河瀨直美)、『ハル』(長屋美保)、『行き暮れども待ち明かず』(齊藤ユキヱ)などの90年代女性作家の作品群はぜひ観てほしいです。また、8ミリ・フィルム180分の『松前君の映画』(大木裕之)も見逃せない傑作です。

――今年の「日本招待作品(ニューフィルム・ジャパン)」はどのようなラインナップですか?

過去に出品実績がある作家の新作プレミア上映がベースです。本年度も新作を上映する田名網敬一やかわなかのぶひろ、萩原朔美、奥山順市、中島崇は、前身のアンダーグラウンド・シネマ新作展から出品を続けています。

――ラインナップする上で基準とされていることはあるんですか?

特定の目的、基準があるわけではありませんが、「可能性を限定しないこと」を心がけています。映像に限らずですが、新しいものや創造的なものは、その土壌が多様性に富んだ豊かなものでなければ生まれてきません。私の場合、個人的に面白いと思えなくても、将来に花が咲くかもしれない芽を感じれば上映に推すこともあります。もっとも、その判断はとても難しく正解もないのですが。

――『ポップ・カルチャーと映像表現』そして『ポートレートの臨界点』をテーマにした海外招待部門「ニューフィルム・インターナショナル」のラインナップもユニークですね。イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ映画のスター俳優ヘルムート・バーガーのドキュメンタリー作品が気になります。

『俳優、ヘルムート・バーガー』は『ピンク・フラミンゴ』などで知られるジョン・ウォーターズ監督が「2015年の最低にして最高傑作」と呼んだぜひ観てほしいポートレートです。ほかにも吸血鬼、ゴスロリ少女、ヒルビリー女、パントマイム、悪魔たちがカーニバル的に集う破壊 的ミュージカル作品『デイ・イズ・ダン』(マイク・ケリー)など12プログラムが揃います。

――本当に多彩なラインナップでどれから観たらいいか迷ってしまいますが、そもそも映画は楽しめても「映像アート」と言われると敷居が高く思う方も多いように感じます。

例えばアブストラクト(抽象的)な作品の場合、「台詞やナレーション、ストーリーのない」映像に大きな壁を感じる方がたくさんいます。もちろん、この種の映像に慣れることも必要かと思いますが、言葉がないからこそ、言語や習慣の違いを超えて心の奥深いところで共感できることもあるはずです。振り返ってみると皆さんの実生活でもそういう経験をたくさんしていると思います。もちろん台詞もストーリーもある作品もたくさん上映しています。東京会場で観客賞を受賞した『宙ブラ女モヤモヤ日記』(寺嶋真里)はコメディタッチのセルフ・ドキュメンタリーで、上映中は観客の笑い声が絶えませんでした。

――目の前に映る映像をただ体感してみることがまずは大切ということですね。ちなみに、黒小さんが思う「映像アート」の魅力とはなんだと感じられますか?

「映像アート」の魅力はそのバラエティです。テレビ各局の番組や大手の劇場公開映画は、全ての視聴者にとって当たり障りのない面白さを追求するあまりどれも同じに見えてしまうことがありますが、「映像アート」はそうではありません。ある人にとって面白いものが、他の人には全く面白くなかったりするので、お気に入りの作品に出会えるかは運次第かもしれませんが、その出会いは人生において唯一無二の出会い(ユニーク・エンカウンター)にもなり得ます。人間同士の出会いと一緒ですね。そのくらいの魅力があります。

――そう考えるととてもワクワクしますね。今年もたくさんの人にとって多くのユニーク・エンカウンターが生まれるよう、楽しみにしています。

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【開催概要】
イメージフォーラム・フェスティバル2016
会期:2016年5月14日(土)~5月22日(日)
会場:京都芸術センター
URL:http://imageforumfestival.com/2016/

【KABlogライター】
ヤマザキムツミ 埼玉県出身。東京生活を経て、現在は京都在住。ライターを中心に、編集とときどきなぜかデザイン仕事も受けたり。最近は豆苗の栽培と鴨川での佇みが楽しみな日々。主なしごとは、『美術屋・百兵衛』(麗人社)でコラム「となりのアートさん」を連載中。CINRA.NETや旅雑誌などで取材・執筆をさせていただいております。映画好きによる映画のためのフリーペーパー『KODOMONO-HI』も気まぐれに刊行中。http://kodomono-hi.jimdo.com/

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