国際芸術祭 BIWAKO ビエンナーレ 2016 見果てぬ夢 ~ “Eternal Dream”

晩夏から秋、そして初冬へ。移ろいゆく自然の中でアートを感じる、日本の美意識に触れる。

In トップ記事 フォトレポート by Aki Kuroki 2016-09-26

21世紀とともに始まり今年7回目を迎えた国際芸術祭「BIWAKO ビエンナーレ」が現在開催されています。

会場となるのは琵琶湖東岸に位置する近江八幡旧市街。豊臣秀次が築いた城下町を基礎に、近世は商業都市として 発展してきました。全国を股にかけて活躍した近江商人発祥の地としてもよく知られ、町には江戸時代に建てられた町屋や工場が今なお数多く点在しています。古い町並みが残る自然豊かな城下町は、忘れられつつある日本の美意識が未だ色濃く残された土地といえるでしょう。

BIWAKO ビエンナーレでは、国内外より集まったアーティストたち約60組が作品展示を行い、悠久の時間がとどまるこの地に新たな息吹をもたらします。 今回のテーマは「見果てぬ夢 ~ “Eternal Dream”」。いったいどんな夢の饗宴が繰り広げられるのでしょうか。

JR近江八幡駅から会場のある旧市街まではバスで約7分。碁盤の目状の旧市街を歩いていると、そこかしこで風情が感じられる景色に出会い、かつてこの町を生きた人々の暮らしに思いは馳せていきます。まずは、総合案内所でもある「まちや倶楽部」へ。ここで、会場マップとなるパンフレットを入手します。おすすめのランチやカ フェ、会場以外のアートスポットも掲載されており、これで準備は万端です。

メイン会場ともいえる「まちや倶楽部」は、創業300年の歴史を持つ旧造り酒屋だった場所だけあって独特な趣きが漂い、当時の面影が偲ばれます。ここでは、デザイナーグループをひとくくりとした31組のアーティストたちの作品群が展示され、空間の中でそれぞれ見事な精彩を放っています。


あわ屋《あわいに眠る》 — まちや倶楽部 [総合案内所]
光に照らされ、そっと空間に浮かび上がる。上から吊り下がるひょうたんで作られたスピーカーの音楽作品。真ん中に鎮座するオブジェの中心からは霊気のようなものが立ちのぼり、その息遣いにそっと耳を澄ませたくなる。背後には昔使われていた道具たちがひっそりと息をひそめる。


内田望《Kagerou》 — まちや倶楽部 [総合案内所]
Kagerouは蜻蛉、陽炎のような存在として表現。機械を取り込み、独自な進化を遂げ野生に戻ったKagerouが全てのものから解き放たれ時空を超えて飛んでいるように思えるのは、この場が持つ魔法だろうか。


田中誠人《青のパラドックス》 — まちや倶楽部 [総合案内所]
部屋の周囲を取り囲むように作られた全長約30mのアクエリアムの中を透過する光が体感できる。2階建て部分から見る上下する集魚灯の作品には意識を奪われずにはいられない。今回の展示作品の中で一番大きな渾身の空間展示。


河村勇樹《エフェメール》 — まちや倶楽部 [総合案内所]
1日の命しかないカゲロウの誕生から死までを撮影した映像作品。凝縮された生命の営みの一瞬のはかなさと力強さは、かつて栄華を極めたこの場と呼応し、見るものに強く訴えかけるものがある。


山本基《たゆたう庭》 — まちや倶楽部 [総合案内所]
13m×13mの大きな空間に塩で描かれたスケール感のある作品。その壮大な世界観に圧倒される。龍、雲、宇宙、何が見えるだろうか。BIWAKO ビエンナーレ終了後、塩は海に還される。そして再び潮に乗り、生命を巡る旅に出る。

BIWAKO ビエンナーレの特徴のひとつは会場がぎゅっと集約されているところ。旧市街に点在する会場はそれぞれ徒歩2分~10分の距離にあるので、ゆったりと町散策をしながら近江八幡の豊かな自然や情緒ある美しい町並みを堪能し、会場巡りをすることができます。

次は、「まちや倶楽部」以外の会場からもいくつかの作品を紹介していきたいと思います。


喜多七右衛門邸倉 外観


サークルサイド《microcosm》 — 喜多七右衛門邸倉
microcosmの言葉の意味は小宇宙、小世界、縮図。人間の五感では認識できないレベルの何か、暗闇の中で瞬くはかない光は、とても大切なことを伝えようとしてくれている気がする。


山田純嗣《UNICORN IN CAPTIVITY》 — カネ吉別邸
一瞬、絵本の世界に迷い込んでしまったような錯覚を覚えるワンダーランド。囚われの一角獣はすべてのものが眠りにつく瞬間を静かに待つ。影も素敵な作品の一部。

会場を回っていると気付くかと思いますが、展示空間は思いのほか暗いです。薄闇の中に美しく妖しげに作品が浮かび上がるといってもいいくらいです。もちろん、江戸時代に建てられた日本家屋が舞台なので当然ではあるのですが、その薄暗さは不思議に感じられました。その疑問を紐解くヒントは、総合プロデューサーの中田洋子さんの言葉の中にありました。

「間接照明などで空間づくりを楽しむ暮らしは海外のイメージですが、日本の方がもともと陰影にこだわってきたのです。季節ごとに移ろう自然の中にある光を大事にする暮らしは、お月見などの四季折々の風習や行事にもよく表れています。」

かつての日本人は、ろうそくなどの光を用いた薄暗い暮らしの中で独特な美意識を生み出し、闇の中でこそ魅力的に見える文化を育んできたのではないでしょうか。静寂が支配する闇の中で宇宙的に広がる空間と時間を感じ とり、光と闇が綾なす陰影の微妙な濃淡を無限の色彩と捉え、陰影のゆらめきに美を見出してきたのです。現在、 容易に明るさを手にすることが可能になった私たちが、このような光の戯れを目にする機会は本当に少なくなってしまいました。

動物の本能として、人間は本来闇を恐れる生き物です。その闇の中に美を見出し、闇と紙一重の世界を楽しむ日本の文化は、自立心とゆとりを持ち合わせた真の大人の文化でもあります。古来より引き継がれてきた日本の美に触れるために、今日世界中から多くの人たちが日本を訪れています。

そんな日本固有の美意識に根差したBIWAKOビエンナーレは、日本が誇れる国際芸術祭のひとつといっても過言ではないでしょう。作品を通じてその奥にあるものに触れることは、すなわち日本の美をもう一度見つめ直し、現在の私たちの暮らしを改めて考える機会になるのかもしれません。


八木玲子《Flow》 BIWAKO ビエンナーレ 2016 メインビジュアル

国際芸術祭 BIWAKO ビエンナーレ 2016

公式サイト▶︎http://biwakobiennale.jp/

【テーマ】見果てぬ夢(英名:Eternal Dream)
【会 場】近江八幡市旧市街(永原町ほか) 10会場
【会 期】2016年9月17日(土)~11月6日(日)
【時 間】10:00~17:00
【休場日】木曜日(ただし、11月3日は開場)
【料 金】一般 2500円/学生 2000円/中学生以下無料
【アクセス】JR 琵琶湖線、近江鉄道八日市線「近江八幡駅」より近江鉄道バスで約7分「大杉町八幡山ロープウェー口」下車 駅北口傍にレンタルサイクル有り

—– 近隣アート情報 —–

楽園の夢

公式サイト▶︎http://www.no-ma.jp//

【会 場】ボーダレスアートミュージアム NO-MA(滋賀県近江八幡市永原町上16)
【会 期】2016年9月3日(土)~11月27日(日)
【時 間】11:00~17:00
【休館日】月曜日(月曜が休日の場合は、その翌日)

Aki Kuroki

Aki Kuroki . 兵庫県出身。広告代理店にてアカウントエグゼクティブとして主に流通業を担当、新聞・ラジオ・テレビ・雑誌などのメディアプロモーション、イベント・印刷物などを手掛ける。神戸アーバンリゾートフェアではイベントディレクターとしてフェア事務局に赴任。 その後、10年間心理カウンセラーのかたわら、ロジャーズカウンセリング・アドラー心理学・交流分析のトレーナーを担当。神戸市 保険福祉局 発達障害者支援センター設立当初より3年間カウンセラーとして従事。 2010年よりフリーランスライターとして、WEBや雑誌の編集・インタビュー・執筆などを手掛けた後、現在は美術ライターとして活動。アートの世界のインタープリターとしての役割を果たしたい。 ≫ 他の記事

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