あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅

アートを拡張し越境するオープンな芸術祭をフォトレポート

In フォトレポート by Reiji Isoi 2016-10-20

只今開催中(〜10/23迄)の「あいちトリエンナーレ2016」に行ってきました。

「あいちトリエンナーレ2016」の芸術監督を務める港千尋氏は、「キャラヴァンサライ」について「旅の中継地点で、少し休息し明日への英気を養う。そこには知らない人がたくさんいる。知らない色。知らない音楽がある」というイメージを「日常生活から抜け出して少し違う空間に身をおいたり、作品をみたり、おしゃべりしたりできる特別な場所としての芸術祭」に重なるものであると述べられています。学生時代より南米からはじまる長い旅の経験を持つ港氏のコンセプトをもとに、トルコ、ブラジルからキュレーターを招聘し、日本でまだ知られることの少ない中南米、中近東の現在のアートシーンを伝える作家を迎えています。

1枚1枚が微細な地図からなる想像上の都市のアトラス。1960年代に気晴らしで制作を始め、長らく保管されていた後、発表に至る

真っ白な空間から、床にひとつずつ花を描き満たされた空間に鑑賞者が入ることにより、時間と記憶が刻まれていく作品

産業用タイルに絵画という手法、様々な素材の組み合わせによる作品の数々を飾るドリーミーな展示空間

1980年代から90年代にフィリピンのB級映画で使用された膨大な量の35mmフィルムから成る作品。路上の子どもたちが捨てられていたフィルムを筒状の笛にして遊び道具にしていたのを発見したことが制作の契機になったという

都市型で広域であるという特徴を活かし、場所と作品を一体化させてつくっていくこと、大きな美術館を使いながらも街中の魅力を再発見するといった特徴を持つ「あいちトリエンナーレ2016」では、名古屋、岡崎、豊橋の3都市に、100組以上のアーティストの作品が展示・上映・上演されています。県立美術館や市営の建物をはじめ、古き良き佇まいをのこすカフェや街角のビルのショーウィンドーなど、街中を散歩しているとばったり作品に遭遇するような場所にも作品が展示されています。

シュレヤス・カルレ 康生会場 岡崎表屋

現代美術に関する研究・著作も多く、歴史観や規範に対する批判・再検討を絶えず展開している白川昌生氏による作品。フィクションであることが一見分からない程、周囲の街に同化した展示空間を演出

名古屋や長者町の歴史を取材してまとめ、史実に基づいたフィクションを、インスタレーション展示とともに発表している

本トリエンナーレでは、既に評価の定まった作品、完成された作品よりは、そうでないものに注目し、有名でなくとも今の時代に重要だと思える表現を丁寧に紹介することを心がけられているそうです。コンテンポラリーアートの世界では欧米主導という状況があるなか、あいちトリエンナーレでは中南米・中近東・アジア地域の初出・未発表の作品に力を入れるなど、参加アーティスト、出展作家の地域的な拡がりを持たせる試みを、茶の湯文化を下地とした喫茶店カルチャー、江戸時代の門前町に端を発する商店街、戦後から高度成長期にかけての佇まいを現在に伝える建物など、異なる時代背景が同居する地域のなかで展開していることも意義深い芸術祭といえるでしょう。

前回のトリエンナーレのために制作された作品。地下街内でのアンケート結果とトリエンナーレ側との調整により残され、地下街の風景に溶け込んでいる

レクチャーやワークショップなどを含む8つの小展示企画、コラムプロジェクトもそれぞれ大変興味深いものとなっています。こちらは、作家による個々の作品展示とは異なる企画性を打ち出したもので、トリエンナーレのキーコンセプトにつながるテーマをもとに、鑑賞者と参加アーティストたちの活動や作品をつなぎ、より深くイベント全体を味わうための役割を担う位置づけとなっています。

野村在「”Untitled”(箱に詰められた直径80cmの打ち上げ花火)」展示風景

コラムプロジェクトのひとつ「トランスディメンションーイメージの未来系」展示風景

幅広い芸術表現・作品群が、地域と密接に絡み合い百花繚乱の様相を呈する芸術祭の一部を紹介させていただきました。今回の取材では、会期の後半に1泊2日のスケジュールで観てきたのですが、実際には全体のほんの一部を廻ったにすぎません。より長い時間をかけて足繁く通ったとしてもなかなか鑑賞し尽くせないほどのスケールです。とはいえ、ひとつひとつの展示は、鮮烈な視覚体験とともに無条件に楽しめるようなものから、難解な実存主義的解釈を不意に迫られるようなものまで、老若男女が自由に楽しめる懐の深いイベントであることを実感しました。

また、開催に合わせて出版されたあいちトリエンナーレ2016公式コンセプトブック「夢見る人のクロスロード」は、トリエンナーレの芸術監督を務める港千尋氏の編集により「旅と創造」をめぐる文章と写真をもとに「神秘と夢」「記憶と場」「感覚のスペクトラム」という3章立てで構成された一冊です。あいちトリエンナーレの二人のキュレーターたちが旅の途中で書き留めた印象を「トラベローグ」として、その他「旅と創造」をメインテーマに錚々たる執筆陣によるテキストが寄せられた同書は最良のガイドブックとなるでしょう。トリエンナーレを体験した方もそうでない方にも、多くの方々に読んで欲しい一冊です。

いよいよ佳境を迎える「あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ」、3年に1度の国際芸術祭に集う多様な芸術の表現・作品を鑑賞しに、足を運んでみてはいかがでしょうか。

参考文献:

あいちトリエンナーレ2016 公式ガイドブック  ぴあ株式会社  2016年

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【開催概要】
「あいちトリエンナーレ2016」

テーマ:
虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅
Homo Faber: A Rainbow Caravan

芸術監督:港 千尋

会期:2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日)[74日間]

主な会場:
愛知芸術文化センター
名古屋市美術館
名古屋市内のまちなか(長者町会場、栄会場、名古屋駅会場)
豊橋市内のまちなか(PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場)
岡崎市内のまちなか(東岡崎駅会場、康生会場、六供会場)

詳細・チケット情報:http://aichitriennale.jp/ticket/index.html

Reiji Isoi

Reiji Isoi . 1978年生まれ。00年代前半より音楽業界を中心に写真の撮影活動を始め、音楽・美術・文芸誌に写真・インタビュー記事等を寄稿するほか、映像撮影・制作の仕事に携わる。仲間と突発的に結成した『宇宙メガネ』からも不定期に発信することがある。各地で起こる皆既日食、米国のバーニングマン、インドのクンブメーラ祭、古代遺跡でのイベントなど、津々浦々で出会う作品や表現者たちとの交流を通じ、森羅万象の片影を捉えようとカメラを携え日々撮り続けている。 http://razyisoi.jp/ ≫ 他の記事

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