岡山芸術交流2016

「開発」をテーマに最高のアートが岡山に集結。

In フォトレポート by KABlog 2016-10-24

岡山県で初となる大型国際展「岡山芸術交流2016」が10月9日(日)から11月27日(日)の約1ヶ月半にわたり開催されている。総合プロデューサーの石川康晴氏(ストライプインターナショナル代表取締役社長)と総合ディレクターの那須太郎氏(アートギャラリーTARO NASU代表)はともに岡山県出身。「世界最高のクオリティを持ったアーティストを集める」「地元の人も気づいていない既存資産を掘り起こす」という想いを芸術祭に込めた。

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アーティスティックディレクターには、現代社会の考察に基づき幅広い表現方法で世界的に知られるリアム・ギリック氏を迎え、世界で活躍する31組のアーティストが招聘された。

会場は岡山城を中心に文化施設が集まるエリアに絞り、徒歩15分圏内にある岡山県天神山文化プラザ、旧後楽館天神校舎跡地、岡山市立オリエント美術館、旧福岡醤油建物、シネマ・クレール丸の内、林原美術館、岡山県庁前広場の8会場で構成されている。岡山県は自然災害が少なく歴史深い街並みが当時のまま残っている。芸術祭で展示される世界最高峰のアート作品と街自体が持つ歴史の痕跡や記憶とのコントラストを楽しみながら歩いてまわれるのも岡山芸術交流の魅力のひとつだろう。

■旧後楽館天神校舎跡地
旧後楽館天神校舎跡地は中高一貫校として使われていた歴史を持つ建物。当時の面影を感じられる各部屋には、映像やインスタレーションの作品が並ぶ。今回の会場の中では最も展示作品数が多く、カフェやグッズショップなども楽しめるので、ゆっくりと時間をかけてまわりたい会場だ。

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リアム・ギリック《Development》

広場に突如として現れるのがリアム・ギリックによるパターゴルフ場。用意されているゴルフクラブを使って、誰でも体験できる参加型アートだ。「物事がうまくいかない時、雨が降っていたらパターゴルフがあるでしょ」というギリックのコメントからも伺えるユーモア溢れる作品だ。しかし「もし同じ状況でパターゴルフがなかったらと考えてみて」と彼は続ける。日常で見過ごしている物の存在価値を考え直すきっかけを与えてくれるだろう。

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荒木 悠《WRONG REVISION》

幼少時からアメリカで生活をしていた荒木悠にとって作品制作は「ルーツを探って土地を理解しようと試みる行為」と語る。祖父の出身地である岡山県倉敷市に残る干しダコの風習から着想を得た映像作品とインスタレーションが独特の世界感を漂わせる。「ヒレ、ウロコなきもの これを食すべからず」という旧約聖書レビ記の一節を引用し、岡山県の特産品であるタコを食することが他の地方ではタブーとされている事実から、他者への理解を意識させる作品となっている。

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ホセ・レオン・セリーヨ《POEM (walking up in the morning and never there in the same way), (maybe not a source of truth, but a subject destined to the world, nonetheless), (it’s a house; no it’s a boat; no it’s a man…)》

1階から3階を貫くように続く作品は、カラフルなアルミ管が天井をすり抜けて存在する、いくつかの幾何学構造を思わせる。記憶をつなぎ合わせてひとつの形を想像することで、建物の空間を超えた立体作品になっている。

■岡山県天神山文化プラザ
ル・コルビュジエに学び、戦後の日本建築を牽引した前川國男が初めて手掛けた大型建築が岡山県庁舎であることはあまり知られていない。この建物は設計された当時と同じ用途で使用されており、モダンなデザインが目を引く。他にも岡山県天神山文化プラザ、林原美術館も前川による設計で、すべて岡山芸術交流の会場になっている。

岡山県天神山文化プラザは1階と地下1階が会場となっており、入口のすぐ右手に見えるサイモン・フジワラの巨大なポートレイトは、会場を訪れた観客をあっと驚かせる。

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サイモン・フジワラ《Joanne》

サイモン・フジワラの美術教師だったジョアンヌのポートレイトとドキュメンタリー映像が展示されている。主人公は、とある男子生徒が彼女のトップレス写真を発見しSNSで拡散したことから残酷な報道の被害者となり退職に追い込まれた。メディアによって作られたイメージを一新するための、彼女の闘いの記録が映像作品として映し出されている。現代社会における問題を明らかにすると同時に、フィクションとノンフィクションが織り交ぜられているサイモン・フジワラ特有の世界に囚われたような感覚を覚える。

■岡山市立オリエント美術館
国内唯一のオリエント美術専門の公立美術館。古代オリエントの歴史と文化を理解する上で欠かせない、さまざまな分野の学術的資料が取りそろえられている。4800点を超える収蔵品の中から厳選された展示品の中に、絵画、インスタレーション、サウンドアートなど、巨匠たちの作品がうまく響き合っている。

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ロバート・バリー《Wire sculpture with ring》

1960年代から始まったコンセプチュアル・アートの潮流を語る上で欠かせないロバート・バリーは、アーティスティックディレクターを務めたリアム・ギリックが影響を受けた先行世代を代表する作家だ。ギリックがアーティストを選定するうえで意識し続けたことは、彼と同世代の作家、彼らの先生を務めたひとつ上の世代の作家、そしてこれからの時代を築いていく若い世代の作家をバランスよく配置すること。ある世代を特別扱いすることなく、皆平等に意見交換を行ったという。

バリーの作品は目を凝らさないと見えない糸に指輪が吊るされており、まるで浮いている錯覚にとらわれる。ちょうど部屋の中心に位置し、空間を分断するような作品だ。

■林原美術館
岡山市の実業家、故 林原一郎のコレクションをもとに建てられた美術館。国内屈指の刀剣や平家物語絵巻の完本をはじめとした古美術の名品が魅力だが、岡山芸術交流の会期中は収蔵品の展示を行わず、ノア・バーガー、ピエール・ユイグ、レイチェル・ローズによる作品のみが展示される空間に変貌した。現代アートの世界にどっぷりと浸れるいち押しの会場だろう。

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ピエール・ユイグ 上《Untilled》, 下《Untitled(Human Mask)》

昆虫、動物など野生の生き物を人間が作り出した人工物に介入させることで、現実とフィクションの狭間のような世界を作り出す今最も注目の作家だ。庭園に据えられた彫刻は女性の頭部を蜂の巣で形作り、脳の代わりを表現している。実際にミツバチが飛び交う光景は一際異彩を放つ。

一方で館内の広い展示空間を掌握する映像作品は一見美しいビジュアルに目を引かれるが、同時に心が掻き乱れるようなストーリーに多くのことを想起するに違いない。

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レイチェル・ローズ《Everything and More》

今回招聘された作家の中で最も若い世代であるレイチェル・ローズは《Everything and More》において宇宙飛行士にインタビューを行い、宇宙船外活動をした時の話を元に油、水、牛乳などを使いながら彼の言葉を再現しようと試みている。同会場で多彩なアニメーション技法で制作された《Lake Valley》なども発表し、その瑞々しい感性と表現で観客を魅了する。

■岡山城
岡山城は豊臣秀吉の時代に宇喜多秀家が築いた城。天守閣の外壁は黒漆塗りになっており、その外観から「烏城」とも呼ばれている。2014年には岡山芸術交流の前身である「Imagineering OKAYAMA ART. PROJECT」のメイン会場として使われた。今回もここに巨大な作品が姿を現した。

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リクリット・ティラヴァーニャ《untitled 2016
(this is A
this is not A
this is both A and not-A
this is neither A nor not-A》

リクリット・ティラヴァーニャは「観客が食べ物を食べる行為も作品の一部になる」と新しいコンセプトを打ち出すパフォーマンスを美術館やギャラリーで行うことで一躍有名になった。今回の展示ではもともと天守閣があった場所に単菅パイプを組み上げ、内部に鏡張りの茶室を制作した。観客にお茶を振る舞うという行為自体が作品化する現代のコンセプチャルアートと戦国時代の「茶の湯」の追体験が、今回の芸術祭とこの場所の意味性を際立たせている。

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島袋道浩《Bow to Bow》

岡山城の不名門(あかずのもん)では島袋道浩の新作《Bow to Bow》を見ることができる。島袋は弓道の「弓」と楽器を演奏する「弓」が日本語、英語、フランス語でともに同じ単語を使うことにふと疑問を抱き、「いつか戦いのやんだ日、人々は武器の弓を指ではじいたり、弓と弓をこすりあわせたりして音楽を奏ではじめた」と考えた。映像は作者の思考を辿るように、岡山県吉備津神社で弓を射るシーンから始まり、弓道の弓でコントラバスを奏でる映像へ移行していく。

ここに挙げられなかったその他の会場でも、世界各国から集まった作家それぞれによる、多種多様な表現が観客の目を楽しませる。今回多くのアーティストが実際に岡山の地を訪れ、地域との交流を図った経験をもとに芸術祭のために新作を制作した。テーマとして掲げられた「開発」という言葉に対して、作品を通じてさまざまな形で興味深い問いかけが提示されている。

世界的に活躍するアーティストが、日本のある地方都市からどのようなインスピレーションを受けたのか。作品を鑑賞して私たちの心はどう変化するのか。都市開発が進み慌ただしい日々を過ごす中、アートとじっくりと向き合う時間が自身の心を「開発」するきっかけになるかもしれない。

【KABlogライター】

野村奈津子
1987年広島県生まれ。2009年にキヤノンマーケティングジャパン株式会社入社。事業計画の立案に携わる。2012年からhpgrp GALLERY TOKYOに転職し、展覧会やアートイベントのディレクションを担当。現在はフリーランスとしてアーティストのマネジメント、プロジェクトの企画、執筆などを行っている。現在進行中のプロジェクトに理研BSIとの共同企画「脳科学∞アート」がある。

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岡山芸術交流2016
テーマ:開発
会期:2016年10月9日(日)〜11月27日(日)
時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
   ※シネマ・クレール 丸の内は1日1回12:15〜13:45に上映
休館日:毎週月曜日
会場:岡山県天神山文化プラザ、旧後楽館天神校舎跡地、岡山市立オリエント美術館、旧福岡醤油建物、シネマ・クレール 丸の内、林原美術館、岡山城、岡山県庁前広場、岡山市内各所
鑑賞券:一般1,800円、学生1,200円、シルバー(満65歳以上)1,300円、団体(8名以上)1,300円
ウェブサイト:http://www.okayamaartsummit.jp

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