うつくしいくらし、あたらしい響き-クロード・モネ

庭を造り、食を楽しみ、美しいくらしを追い求めたモネの作品と彼の生きた時代

poster for Claude Monet “A Beautiful Life and a New Harmony”

「うつくしいくらし、あたらしい響き - クロード・モネ」

京都府(その他)エリアにある
アサヒビール大山崎山荘美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2016-09-17 - 2016-12-11)

In トップ記事小 レビュー by Aki Kuroki 2016-11-13

印象派を代表するフランスの画家クロード・モネ。「光の画家」と呼ばれたモネは、時間や季節とともに移り行く光と色彩の変化を終生にわたって追求し続けた、もっとも典型的な印象派の画家でした。2016年はモネの没後90年にあたるとともに、アサヒビール大山崎山荘美術館の開館20周年でもあります。同館が所蔵するモネの晩年の連作《睡蓮》に加えて国内美術館などのコレクションから厳選された初期から中期にわたる作品も公開するとともに、彼が生きた時代を振り返る展覧会「うつくしいくらし、あたらしい響き-クロード・モネ」展が開催されています。

クロード・モネの生涯に少し触れておくと、1840年パリに生まれ、ほどなく海辺の町ル・アーブルに一家で移り住みます。1859年、成長したモネは本格的な絵画修行をするためにパリに再び出て学び、後に印象派を旗揚げする仲間たち、ルノワール、ピサロ、シスレーらと交遊、戸外制作に励みます。1874年に初めてのグループ展、後に歴史的な展覧会となる「第1回印象派展」を開催。創造の源泉を求めて旅に明け暮れたモネは、40代に入り、パリ近郊のジヴェルニーに居を構えます。モネは放置されていたこの土地の手入れを飽くことなく続け、自身のイメージを現実の庭に再現しました。そして、ここから着想を得て数々の素晴らしい作品を生み出していったのです。

今回、アサヒビール大山崎山荘美術館が所蔵・展示する《睡蓮》連作5点は、このジヴェルニーの庭で生まれた作品です。

モネの画業の変遷やモチーフの移り変わりなど俯瞰できる展覧会

見どころは、モネがモネたる所以となる布石、また当時のモネの様子がうかがえる作品が展示されている点です。例えば、第1回印象派展が開催される2年前に描かれた、《貨物列車》(1872年 ポーラ美術館)で見られる煙の大まかなタッチやハッキリと見える筆跡などは、当時アカデミズム作品が全盛の中で模範とされていた写実的な歴史画や神話画とは、まったく意を異にするものです。

また、《エトルタの朝》(1883年 アサヒビール大山崎山荘美術館)では、まぶしい朝の光が降り注ぐ浜辺をチーフに、時間や天候とともに移ろいゆく風景がカンバスに描かれています。これは、1880年代後半から着手するひとつのテーマを異なる光のもとで描く「連作」の前ぶれを思わせます。《ポプラ》《積みわら》《サンラザール駅》や《大聖堂》から始まる連作構想は、その死にいたる1926年までモネが専念した睡蓮の池の数々の作品で頂点に達していきました。

次に、第2回、第3回の印象派展が開催されたころに制作された《菫の花束を持つカミーユ・モネ》(1876-77年頃)を見ると、シックな装いにしゃれた彩り豊かな椅子に腰をかける都会的で洗練された最初の妻カミーユが描かれ、経済的にはまだ苦しかった時代のはずなのですが思いのほか贅沢を楽しんでいる様子がうかがえます。

モネ晩年の連作《睡蓮》に囲まれる空間が創出された安藤忠雄建築の地中館

絵画の新しい時代を切り拓くとともに、庭を造り、食を楽しみ、美しいくらしを追い求めたモネは日本にあこがれ、最後にジヴェルニーの地に理想郷を造りました。モネにとって制作と生活は一体であり、《睡蓮》連作は庭園という生活空間のなかで手がけられたものです。
特筆すべきは、パリのオランジュリー美術館の楕円形の2つの展示室「睡蓮の間」に展示されているものと同時期に描かれた作品が見られる点でしょう。この頃、モネは白内障をわずらい失明寸前になりながらも絵を描き続けています。そして、視力が失われるにつれ視点は池に接近し水面だけが画面を覆うようになっていきました。展示されている作品は画面から水平がすでに消滅してしまったものです。少し離れて見ると、画面の池から睡蓮の花がおぼろげに立ち上げってくるのに気づくはずです。

また、目の前の景色をその手で掴むように描いた《アイリス》(1914-17)は、奔放な筆さばきと鮮やかな色彩の迫力をもって、後に出てくる抽象絵画の道を示唆する作品といえるかもしれません。多くの人々の心に響く美しい作品には、計り知れない深みと背景があることに改めて気づかされます。この半地下の空間にいると、命の灯が消える最後の瞬間まで精力的に描き続けたモネの気迫が今もなお感じられるような気がします。

初期のころから、それぞれの年代の作品も展示されているので、モネの人生がざっと感じられる展示となっています。ジヴェルニーに至るまでの様々な道のりや出来事。豊かな自然に囲まれたアサヒビール大山崎山荘美術館のイギリスのチューダー・ゴシック様式建築の本館の雰囲気とあいまって画家を支えたジヴェルニーの地での美しいくらしに思いが馳せていきます。そしてモネが最後に辿り着いた境地など、想像は尽きません。印象派の巨匠といわれたモネの人生の、その喜びや悲しみに少しだけ触れることができたような気がします。展覧会を通じて、あなたなりのモネを感じてみてください。


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開館20周年記念 うつくしいくらし、あたらしい響き ― クロード・モネ                 
【会 期】2016年9月17日(土)〜12月11日(日)
【休館日】月曜日 11月21日、28日、12月5日(月)は開館
【時 間】午前10時~午後5時(最終入館は午後4時30分まで)
【入館料】一般900円(800円)、高大生500円(400円)、中学生以下無料、障害者手帳お持ちの方300円
※()内は 20名様以上の団体の場合
【会 場】アサヒビール大山崎山荘美術館 
【美術館HP】http://www.asahibeer-oyamazaki.com
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Aki Kuroki

Aki Kuroki . 兵庫県出身。広告代理店にてアカウントエグゼクティブとして主に流通業を担当、新聞・ラジオ・テレビ・雑誌などのメディアプロモーション、イベント・印刷物などを手掛ける。神戸アーバンリゾートフェアではイベントディレクターとしてフェア事務局に赴任。 その後、10年間心理カウンセラーのかたわら、ロジャーズカウンセリング・アドラー心理学・交流分析のトレーナーを担当。神戸市 保険福祉局 発達障害者支援センター設立当初より3年間カウンセラーとして従事。 2010年よりフリーランスライターとして、WEBや雑誌の編集・インタビュー・執筆などを手掛けた後、現在は美術ライターとして活動。アートの世界のインタープリターとしての役割を果たしたい。 ≫ 他の記事

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