「ヨッちゃんビエンナーレ」とインディペンデント・キュレーター加藤義夫インタビュー

今さらビエンナーレとキュレーターとは何か

poster for Yocchan Biennale 2016 – Collage Cubism

「ヨッちゃんビエンナーレ2016 - コラージュ・キュビズム - 」

神戸市エリアにある
C. A. P.(芸術と計画会議)にて
このイベントは終了しました。 - (2016-11-12 - 2016-11-27)

In インタビュー by Chisai Fujita 2016-11-22

今月27日まで、KOBE STUDIO Y3で「ヨッちゃんビエンナーレ2016~コラージュ・キュビズム」が開かれている。関西を拠点にするインディペンデント・キュレーターの加藤義夫氏による、世界で一番小さなビエンナーレかもしれない。

本稿で私は、加藤氏へのインタビューを行うことにより、インディペンデント・キュレーターの存在意義を問い直し、2016年のいま、さまざまな論議がなされているビエンナーレ(トリエンナーレ/芸術祭)のありかたについて、考察していきたい。

「ヨッちゃんビエンナーレ」の成り立ち方

---日本で行われているビエンナーレ、トリエンナーレ、芸術祭のたぐいのほとんどは自治体主体で、その町の名前がついています。でも「ヨッちゃんビエンナーレ」は、加藤義夫(よしお=ヨッちゃん)さんの名前を冠したビエンナーレですよね。

加藤
はい。「ヨッちゃんビエンナーレ」は、自腹を切って、出血多量になりながら、2011年からスタートし、今年で3回目の開催です。これまで僕は数々のコンテストやコンペティションで審査員を務めてきました。そのとき賞を与えたアーティストたちに活躍してもらわないと、キュレーターをしている僕に対して「作品を見る目がない」という評価になるのです。そのために彼らを応援したい、1回きりではなくて継続してフォローしていきたい、という気持ちで「ヨッちゃんビエンナーレ」をスタートしました。前回までは輸送費の関係で名古屋や関西のアーティストに展示を依頼しました。今回は、3人は東京近郊在住のアーティストを紹介しています。開催場所は関西にこだわっているつもりはなく、もし他の町や国でもする機会があれば、どこでもやりますよ。

インディペンデント・キュレーター加藤義夫の仕事の流儀

---よく「インディペンデント・キュレーター」という肩書きの人がいますよね。私からすれば、彼らの99%は「●●芸術祭」の事務局で働いているような、何かしらディペンド(依存)していて、本当のインディペンデント(独立した)のキュレーターではない、と私は受けとっています。しかし加藤さんは、完全なるインディペンデントのキュレーターだ、と私はとらえています。

加藤
そうですね、何かに依存しないキュレーターは、実際成立しにくいですからね。

---とはいえ、なぜ自腹を切ってまで、加藤さんは「ヨッちゃんビエンナーレ」をキュレーションをしているのでしょうか?

加藤
自分の好きにしたいから、です。行政や企業といった他人のお金をつかう場合、展覧会の自由度を測れないことが多いんです。例えば、協賛企業にキュレーターが赴いてプレゼンテーションをする、町起こしが目的のアートイベントで町を活性化させる、あるいは報告書や助成金申請の書類を書く。こうしたことは、展覧会を企画することとは別の労力だと思う。そう考えたとき、僕は自分のお金と時間をつかって、自分が好きなように展覧会を企画することにしました。

---もちろんインディペンデント、イコール、自腹を切るという意味ではないでしょう(笑)。

加藤
もちろんです。「ヨッちゃんビエンナーレ」は、僕の中でも異例です。これまで僕の仕事はこの20年間、事業予算があるものを仕事として受けて、キュレーションをしてきました。ただ、いろいろなところで行われているビエンナーレ、トリエンナーレや芸術祭、つまり町起こしや村起こしの材料としてアートが使われている、ということについては懐疑的です。

---加藤さんから見て、それは一体どう懐疑的なのでしょうか。

加藤
こうしたアートイベントでは、町起こしや村起こしとして協働できるようなアーティストしか選ばれていない、作品形態でいうとインスタレーションや映像ばかりが展示されていて、絵画をほとんど見ることがありません。こうした現状に懐疑的な僕は、今回の「ヨッちゃんビエンナーレ」で、12人の出品作家のうち9人のペインターを紹介しています。

これからのアートはどう展開するべきなのか

---加藤さんが関西を拠点にしているのはなぜですか。

加藤
僕が関西人であるからということ、生きていくために重要なことですが、食べるものが安くておいしいから。かつて、美術評論家の建畠晢さんに「東京は同業者がたくさんいるので、関西で活躍しなさい」と言われたことが励みになっています。実際関西は、美術のコミュニティが小さいので、3ヵ月ぐらいあちこちのオープニングパーティに出かけたら、関西の美術関係者のほとんどと知り合いになることができます。僕ひとりでできる範囲は限られているし、身の丈に合っているのでしょう。

---そうはいっても、加藤さんの活動を見ていると、関西の中に閉じこもるのではなく、国内各地、さらには香港や韓国でもキュレーションしていますよね。加藤さんから見て、これからのアートはどうなると感じますか。

加藤
いつの時代でも「美術をする人はする」と思っています。何も美術教育を受けていなくても、表現したい人、アーティストとして生きていく人は出てきます。逆に言えば、辞める人は辞めて、活動を止めるだけでしょう。そしてインターネットが出てきて久しい今日この頃、関西から見て「アンチ東京」みたいなことを言うのは止めたほうがいいし、むしろもっとインターナショナルに発信していくようにするべきです。日本国内でどうのこうのする労力があるなら、日本以外の国で何かするほうが圧倒的に広がりがあるでしょうから。

---キュレーターとして、アーティストに何か言いたいことはありますか?

加藤
現代美術作品は、政治とか文化だとか社会の問題を洗い出すようなもの、体験型のインスタレーションのように関係性を問うようなもの、と定義されがちで、国際展でも多く見受けられます。しかしこういうものは、僕自身あまり興味がなく、その多さにむしろあきあきしています。例えば、ドイツ人アーティストが、アウシュビッツについてリサーチして作品にし、ニューヨークで展示する、みたいなことがあっても、日本人アーティストが、広島や長崎の原爆についてリサーチして作品にする、ということはほとんどありません。どちらかというと、ニュースで流れているような内容を、あえてアートとして表現しているだけの薄ささえ感じます。また、マンガやアニメというものについても、僕にはリアリティがありません。そう考えるとき、社会とつながっている内容ではなくて、個人として発信している絵画や彫刻という表現形態を、僕はフォローしていきたい。見る人もそういった作品からいろいろと想像するはずなので、別に社会問題をテーマにしなくても、美術作品として成立するのです。

加藤氏は最後に「『ヨッちゃんビエンナーレ』での僕は、30~40歳ぐらいの、つまりこれから活躍するアーティストの活躍を見守っているおじちゃん、というスタンスです」と付け加えた。今回の話を聞いて、私はインディペンデント(独立した)としての活動を継続することへの敬意と、ペインティングのような発表の場が少なくなってきているアーティストたちの行方を、強く心に刻み、私は彼らとどうコミットできるかを考えてしまった。皆さんは何を考えただろうか。誰にとってもこのインタビューは、読み流して終わり、という次元ではないはずだが。

【展覧会名】ヨッちゃんビエンナーレ2016~コラージュ・キュビズム
【会場】KOBE STUDIO Y3
【会期】2016(平成28)年11月12日(土)~27日(日)
【公式サイト】http://www.cap-kobe.com/kobe_studio_y3/?p=1573

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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