ストラクチャーの冒険

京阪なにわ橋駅コンコース内のオープンで先鋭的なコラボレーション展示に迫る!

poster for Railway Arts Festival Vol. 6: Adventure of the Structure

「鉄道芸術祭vol.6 - ストラクチャーの冒険 - 」

大阪市北区エリアにある
アートエリア B1にて
このイベントは終了しました。 - (2016-11-12 - 2017-01-22)

In トップ記事小 フォトレポート by Reiji Isoi 2016-12-13

京阪電車なにわ橋駅の構内にあるアートエリアB1で、「ストラクチャーの冒険」が只今開催中です。本記事では、前半はフォトレポートを、後半は本イベントのディレクションを手掛けられたメンバーへのインタビューを紹介します。

アートエリアB1のエントランス風景

本展示は第6回目となる鉄道芸術祭ですが、直接的に鉄道に関連する展示ではなく、インフラとしての鉄道からストラクチャーというキーワードを抽出し、現代美術家の榎忠、漫画家の五十嵐大介、音楽クリエイティブチームのインビジブル・デザインズ・ラボという異なるフィールドで活動する作家たちの表現を、会場設計を担当する建築ユニットドットアーキテクツにより構造的に結びつけた、大変興味深い展示空間として、大阪の中心地にある地下鉄のコンコース内に開放しています。

榎忠 《LSDF(Life Self Defense Force)1979》

大砲や鉄、兵器、廃材を身の回りに潜む危機として捉え、総重量数十トンといった超スケールの作品数多く発表する現代美術家・榎忠の映像記録のコーナーが会場の入り口付近にあり、榎の代表作「ハンガリー国に半刈り(ハンガリ)で行く」をはじめ、1970年代にドクメンタ展にゲリラ参加したときの記録、グループZEROとして神戸の街でのパフォーマンス記録など、貴重なアーカイブ映像を大画面で公開しています。映像とともに、榎が旋盤工として長年養った技術を元に制作した大砲の作品《LSDF》が、会場に入らずとも、駅の通路を歩いていると視界に入る位置に配置されています。「生きるとは何か」「芸術とは何か」という問いに真摯に向き合い続ける榎忠が、戦争のための道具として人間がつくりだした大砲を、祝砲として実際に稼働する、平和への願いを込めた作品へと昇華したものとも解釈できます。鑑賞を目的としてやってくる人たちだけでなく、駅を利用するすべての人々に開放されたものとして、通勤・通学などでコンコースを通る人々、偶然通りかかった人たちが、榎忠の先鋭的かつ実験的な作品に遭遇し、会場内に招き入れられる様子に感嘆します。

3体のロボットで構成されたバンドZ-machinesの音楽プロデュースでも知られ、「見えないものは大切だ」を信条にクリエイトする集団インビジブル・デザインズ・ラボは、本展では目に見えないシステムとして構築されたインタラクティブな作品《Do you feel”THE RED”just like”THG RED”I feel?》を展示しています。

《3つのsystemとのインプロビゼーション》のための譜面とピアノ)

インフォグラフィックスのようなヴィジュアルの譜面が置かれたピアノを鑑賞者が弾くことで、その音がトリガーとなり、場内に設置された3つの演奏オブジェクトが作動し、時折、現代音楽のようにも聴こえる音色が展示空間だけでなく、コンコースにも響き渡ります。通勤途中と思しきスーツを来たビジネスマン風の男性が、突如入ってきてピアノを演奏していく様子なども見受けられるそうです。

神話や伝承の世界、生態系や生命の成り立ちを精緻な描写で表現した作品で知られる漫画家・五十嵐大介の作品のなかから主に風景が描かれたシーンをピックアップし、布に拡大出力した作品が場内のいたるところに展示されています。

『魔女』『海獣の子供』などの作品の原画から抽出されたドローイング画は、会場の奥に足をすすめるにつれ、無機的な四角いグリッド状に形どられた「都市や町の風景」から有機的な曲線のカーテンが漂う「自然界の風景のイメージ」、さらには異界のイメージをも喚起するジャングルのイメージとなり、使用済みの薬莢100万発から成る榎忠の作品《薬莢》を取り囲む展示空間へとたどり着きます。3アーティストの密度の高い表現が交わる地点はまさに異界であり、イマジネーションを掻き立てる魔術的な空間として演出されています。

思わず駅の構内にいることを忘れてしまう程に、「鉄道芸術祭駅」「駅」「構内」といった言葉からイメージする既成概念を超えた展示内容だと感じました。構造、機構、物理的条件、制度制約などを表す「ストラクチャー」という言葉を、世界を構成する基礎をなす概念として捉え直し、社会的、文化的なものから思想的なものまで、あらゆるところに偏在し、人間の思考や行動にも影響を与えるストラクチャーの認識を鑑賞者に促す、意義深い展示です。

鉄道の創造性から、鉄道がもたらした社会システムなどのストラクチャーに着目し、システムを構成する既成概念や既知のストラクチャーをアーティストがどのように捉えて表現し、作品として問いかけるのか、創造的な試みである本展示「ストラクチャーの冒険」と関連イベントを、是非チェックしてみてください。

榎忠《薬莢 Cartridge1991-1992》

本展示のディレクションメンバーの一人である、大阪大学COデザインセンターの木ノ下智恵子氏にお話をきかせていただきました。

ーアートエリアB1について

もともと、この場所は、企業と大学とNPOという3機関による社会実験として始まりました。
大阪の水辺の都心であり文化施設が数多く立地する中之島に建設される地下駅の新たな機能を模索する機会として、京阪電車中之島線建設中の2006年から、企業・大学・NPO法人が協働で「中之島コミュニケーションカフェ」を実施してきました。工事の段階から、電車のホームや線路となる場所を、ファッションショーや対話プログラムなどの社会実験の場として活用した企画・展示を行ってきました。2008年の中之島線開業を機に、「文化・芸術・知の創造と交流の場」となることを目指し、なにわ橋駅の地下1階コンコースに「アートエリアB1」を開設し、現在に至ります。

ー10年に渡る社会実験を経て見えてきたもの、感じておられることは?

あくまでも個人的な意見ですが、ここが建設中だった10年前と現在ではっきり違うと言えることは、2011年の震災をはじめ様々なことが起き、社会の状況が変わっていく中で、社会制度や組織の責任問題を重視するコンプライアンスへの意識が高まるなど、個人を超えた構造が顕著です。もちろん法令遵守はすごく重要なことですが、芸術・表現の領域にさえも、ある種の検閲のように過剰な自主規制という介入が個人への表現性にも影響する状況になってきているのではないかと感じています。本来のアートやアーティストという存在は、美しさや癒し、楽しさや喜びだけではなく、負の感情や不可解さといったある種の毒をもはらむ危険なものでもあると思います。その危うささえをも取り込み、独自の表現に落とし混む中で物事の意味解釈や既存のイメージを超越させ、その結果、人々の価値観の領域を拡げていく芸術表現の本質や意義が侵されてきているのではないかと。

それは、日本独自で発展したアートプロジェクトが少なからず影響していると考えます。商店街、小学校、過疎地域でのアートイベントなどの拡がりにより、アートという言葉が一般的になればなるほど、そこに求められる評価軸が、わかりやすく楽しいもの、エンターテイメントにもとめる感性に近いものになってきていることと関係しているのかもしれないですね。現代美術に限らず、音楽など他のものでも、表現の世界が拡がってより多くの人々にとって触れやすくなればなるほど、表裏一体というか、表現そのものの本質に対する規制が厳しくなっているとしたら、それは危ういことだと感じています。表現のバリエーションとして増えただけなら良いんですけど、意外とそうではないのかもしれない。そうしたなかで、アートエリアB1でやろうとしていることは、おそらく、誰もが楽しくきれいで安心するものを扱うだけではなく、本来の芸術表現が持つ様々な部分も含めたものをも扱っていくこと、あくまでもクリエイティブな感性や創造性の中で必要なものには正しく向き合っていくことでクオリティーを保ちたいという気持ちがあります。ちなみにこれは、先の地域アートにも同様の観点が不可欠というのが私の信条ですので、場所の特性や関わる人々などを重視して地域のアートプロジェクトにも取り組むと思いますし、実際に以前にも取り組んできたつもりです。

ー本展示の企画・キュレーションについて

この場所でなければ出会うことがなかったかもしれない組み合わせが本当の意味でのコラボレーションとなるよう、三者それぞれのプロフェッショナルな技術や感性、異なる知性や才能を別の観点で組み合わせることで起こる相乗効果と、誰のものでもない第三の価値観をつくっていくことの重要性を感じ、今回の展示の意味を考えながら企画させていただきました。それは、アートエリアB1の在り方にも言えることで、今回の展覧会も私一人が企画者ではありません。企業、NPO、大学という異なる組織がひとつの場所で対話をし深めることにより、新たな価値を社会に提案する場所として機能すること、その意味ではこの場所自体もストラクチャーの冒険であるとも思っています。

ーアートエリアB1の今後の展開について

これまでの事業で出会ってきた方々との関係性を含めつつも、アートエリアB1としての総意ではなく、あくまでも創成期から携わる個人的観点による展望をお話します。中之島には美術館や劇場や図書館といった施設が集中し、文化度の高いオフィス街と言えます。この場所ならではの役割は何であるかを考え、特性やポテンシャルを活用した展開が不可欠と考えます。それは中之島の新たな文化拠点という機能を保持しながらも、この場所が中之島や大阪、京阪神や関西の各所とのHUBとなることや、中之島全体をクリエイティブな島として国内外に発信しうる可能性を模索するために、様々な個人が持続的に関われる正しくプラットフォームであることです。より目線を拡げて、共同・共創者に働きかけ、今後の活動を展開していきたいと考えています。

ー大変興味深いお話をありがとうございました。

テキスト監修:木ノ下智恵子(大阪大学COデザインセンター、アートエリアB1運営委員)、アートエリアB1事務局

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【開催概要】
鉄道芸術祭vol.6『ストラクチャーの冒険』
Adventure of the Structure

出展作家:五十嵐大介、インビジブル・デザインズ・ラボ榎忠(作家名:敬称略)

開催期間:2016/11/12(土)~2017/01/22(日)
展示時間:12:00~19:00(12/14~25は21:00まで)
休館日 : 月曜日(ただし、1/9は開館、1/10は休館)、12/29~2017/1/3
入場無料/Free
会場:京阪電車なにわ橋駅「アートエリアB1」大阪府大阪市北区中之島1-1-1 京阪電車なにわ橋駅B1F

イベント詳細:  http://artarea-b1.jp/archive/2017/01221006.php

Reiji Isoi

Reiji Isoi . 1978年生まれ。00年代前半より音楽業界を中心に写真の撮影活動を始め、音楽・美術・文芸誌に写真・インタビュー記事等を寄稿するほか、映像撮影・制作の仕事に携わる。仲間と突発的に結成した『宇宙メガネ』からも不定期に発信することがある。各地で起こる皆既日食、米国のバーニングマン、インドのクンブメーラ祭、古代遺跡でのイベントなど、津々浦々で出会う作品や表現者たちとの交流を通じ、森羅万象の片影を捉えようとカメラを携え日々撮り続けている。 http://razyisoi.jp/ ≫ 他の記事

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