他にはない自主企画が魅力の和歌山県立近代美術館

日本国内で5番目の近代美術館は、日本の伝統美と熊野古道をイメージ

poster for Shigeru Izumi “How to Make a Handsome Painting”

泉茂 「ハンサムな絵のつくりかた」

和歌山県エリアにある
和歌山県立近代美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2017-01-27 - 2017-03-26)

poster for Collection Exhibition 2017 Spring

「コレクション展 2017-春 特集 群像ー交錯する声」

和歌山県エリアにある
和歌山県立近代美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2017-01-27 - 2017-05-07)

In トップ記事小 レビュー by Aki Kuroki 2017-01-31

和歌山県立近代美術館の歴史は長く、始まりは1963年、和歌山公園内二の丸跡に和歌山県立美術館として開館しました。1970年、名称を新たに和歌山県立近代美術館(以下、近代美術館)として和歌山県民文化会館に開館。そして1994年、ちょうどJR和歌山駅と和歌山市駅の中間、和歌山城の天守閣を間近に望む現在地に新築移転しました。

建築は国立新美術館や広島現代美術館など、多くの美術建築を手がけ国際的にも活躍した黒川紀章。緑豊かな自然を背景に、巨大な灯籠と大きなひさしをいくつも持ち、近代的な外観でありながら日本の伝統を感じさせる建築となっています。正面階段を上がると、背後に和歌山城を望める広々とした敷地には池や滝、世界遺産にもなっている熊野古道をイメージした散策路が配され、自然とのつながりを表現しています。隣接する和歌山県立博物館とともに公共建築百選にも選ばれている名建築です。

特別展とコレクション展の連携で魅せるユニークな自主企画

昨年の秋、東京で話題沸騰だった『トーマス・ルフ展』※1、『杉本博司ロスト・ヒューマン展』(※2)、『クリスチャン・ボルタンスキー展』(※3)へ、足を運んだ人も多いのではないでしょうか。実は一足先に関西で、この3人の作品が見られる展覧会『なつやすみの美術館6 きろく と きおく展』(会期:2016年7月2日~9月19日)が開催されていました。子ども向けと思っていたら大間違い、大人も十分楽しめる展覧会だったのです。

近代美術館の展覧会はそのほとんどが独自で企画された「自主企画展」で、(1)海外美術の秀作、(2)和歌山ゆかりの作家、(3)日本の近代美術、(4)同時代の美術の紹介という方針のもと、開催は年に3-4回、綿密な調査研究に基づいた内容と図録で高い評価を得ている展覧会がたくさんあります。

前述の展覧会『なつやすみの美術館』も自主企画展で、2005年から続いている人気シリーズです。子どもには子どもの目線で大人は大人の目線で楽しむことができ、ユニークな視点のもと多ジャンルの作品が横断して紹介されるなど、さまざまな美術の面白さに触れられるのが魅力です。

近代美術館の特長のひとつは展示数が他の美術館と比べて圧倒的に多いこと。『なつやすみの美術館6 きろく と きおく展』では、現代美術を中心に国内外の作品が約200点! そのうち、トーマス・ルフ3点、杉本博司3点、ボルタンスキー1点が展示されていました。あらためて贅沢な展覧会だったのですね。

昨年の晩秋から開催された特別展『動き出す!絵画 モネ、ゴッホ、ピカソらと大正の若き洋画家たち』とコレクション展『大正期の異色の画家たち』では、ふたつの展覧会合わせて約420点が展示されていました! 内容も充実しており印象派に始まるミレー、モネ、ピサロ、ロダン、ムンク、ルノワール、ゴッホ、ゴーギャン、ピカソらの作品53点が展示、これだけで印象派展が開催できそうなくらいです。更に岸田劉生、萬鉄五郎、田中恭吉、長谷川潔、恩地孝四郎、野長瀬晩夏、竹久夢二、佐伯祐三、カンディンスキー、シーガル、バーナード・リーチなど、とにかく層が厚い驚きのラインナップ。

一度の展覧会で展示される作品数は通常70~100点前後なので、そのボリュームがお分かり頂けるでしょう。しかも、特別企画展とコレクション展は両方を見ることで作品の時代背景や同時代の作家たち、その関係など内容がより幅広く深く理解できるものとなっています。これを可能にしているのが近代美術館の数々のコレクションなのです。

質と量、ともに国内屈指の秀逸な版画コレクション

1963年の開館当初、近代美術館に所蔵作品はまったくなくゼロからのスタートでしたが、現在ではその数14,000点以上。明治時代から現代にいたる日本画、油彩画、彫刻、版画などの作品を収蔵しています。版画作品は他のジャンルと比べ比較的廉価で優れた作品を収集できる可能性が高いと考えられ、和歌山県には日本の版画史に足跡を残した作家が多かったことなどから、1980年頃以降、版画作品の収集に力を入れるようになりました。

版画をコレクションの柱としている美術館は少なくありませんが、和歌山が他と一線を画しているのは『和歌山版画ビエンナーレ展』(1985年~1993年)の影響が大きいといえるでしょう。『和歌山版画ビエンナーレ展』は現代版画の動向を敏感に反映するとともに、海外からの応募も多く国際的にも注目を集めました。才能ある新人作家の育成や発掘のために、招待制ではなく一般公募の形式が取られたこと、複数性を大きな特徴とする版画においては特異な技法であるモノタイプ(呼称の通り1点制作の作品)を認め、作品の大きさを無制限にしたことなどが大きな特色でした。賞金も当時としては破格の金額(第1回の賞金総額はなんと400万円!)だったこともあって話題を呼び、毎回約50ヵ国、約2000~3000点の応募がありました。

近代美術館は、このように自主企画展の開催と作品や資料の調査研究を連携させながら、和歌山県ゆかりの郷土作家、国内外の近代・現代版画、戦後美術のコレクションを蓄積してきました。下記にその内容を記しています。これら収蔵品は、年間を通してコレクション展、小企画展で見ることができます。

[① 郷土作家コレクション]
県内唯一の近代美術館ということもあり、1970年以降、川口軌外や野長瀬晩花など郷土を代表する美術家の作品収集に努めている。和歌山ゆかりの作家には浜口陽三や田中恭吉、恩地孝四郎など、日本の近代版画史に多大な影響を与えた作家も多くいる。。

[② 近代・現代版画コレクション]
日本の近代・現代版画史の流れをほぼ追えるだけでなく、近年はパブロ・ピカソやオディロン・ルドンをはじめ数多くの海外版画の秀作をコレクションに加え、国内屈指のコレクションとして定評がある。

[③ 戦後美術コレクション]
1983年に始まった企画展「関西の美術家シリーズ」をきっかけに、戦後の関西に興った前衛美術運動、「走泥社」(1948年 陶芸)、「パンリアル美術協会」(1948年 日本画)、「デモクラート美術協会」(1951年 洋画・版画)、「具体美術協会」(1954年 洋画)などで活躍した作家の作品収蔵をスタート、戦後美術コレクションの形成に努めた。マーク・ロスコ、フランク・ステラ、ジョージ・シーガルなど海外の作家も対象とした。2009年には田中恒子氏の現代美術コレクション約800点が寄贈され、現代美術のコレクションが充実。

[④ 玉井一郎コレクション]
玉井一郎氏より、1980・83・90・94年の4回にわたって寄贈を受けたもの。佐伯祐三(洋画13点、素描1点)を軸に、原勝四郎(洋画21点)、ジャコモ・マンズー、エミリオ・グレコ、山本豊市(各彫塑1点)、瑛九(版画239点)の作品、計277点を収蔵。佐伯祐三作品は大阪市立近代美術館建設準備室50点に次いで多く収蔵。

(和歌山県立近代美術館の主要なコレクション→http://www.momaw.jp/main-collection.php

お気に入りの作品で、美術館はもっとたのしくなる!

見たことのないものを見る、知らなかったことを知る、展覧会ではたくさんの初めてを経験します。特別展など海外からやってくる作品との出会いもそのひとつですが、ちょっと残念なことにそのほとんどが一生に一度、運が良ければ二度見る機会があるかどうかなのです。

その点、別の楽しみ方ができるのがコレクション作品。美術館所蔵の作品は何度も見る機会が訪れます。回数を重ねていくうちに見る側の心境や経験、時間の経過によって見えてくるものが違うことに気が付くはずです。ひとつの作品の中には新しい発見を見出していく楽しみがあり、回数が増すごとに面白さが増していくのがコレクション作品の醍醐味のひとつといえるでしょう。美術作品の中には日常とはまったく違った時間が存在していて、見るたびに、見る人の中に流れ出してくるようです。

館内に常時展示されている作品なら、もっと身近なものになるかもしれません。「あの作品に会いに行く、挨拶をする」、そんなお気に入りの作品があると美術館通いは一味違ってきます。また、いつもは通り過ぎていた彫刻だったのにふと気になって立ち止まってしまった、それも出会いのひとつ。美術館の中には発見や気づき、さまざまな体験や感動、驚きがぎゅっとつまっています。見方や関わり方はまったく自由自在。自分なりの楽しみ方があると、美術館は自分のとっておきの場所になります。

さて、和歌山県立近代美術館では、新しい展覧会が開催中です。画家・版画家として戦後関西現代美術界の中心的存在であった泉茂の特別展『泉茂 ハンサムな絵のつくりかた』では、版画家としての地位を確立した泉が版画家の枠にとどまらず、新たな表現を模索し挑戦し続けたその足跡をたどります。激動の現代を生きる私たちにとっても、その生きざま、仕事術は大いに参考になりそうです。そして同時開催のコレクション展は、『群像―交錯する声』。ここでは和歌山県にゆかりのある作家たちの作品を通して社会の中で人が生きることについて、時代とともに変化する人間のあり方が垣間見られると同時に、泉茂が生きた時代背景を知る手がかりにもなる展示となっています。

個々の展覧会でも十分に楽しめますが、この特別展では個人の生きざまに焦点をあてズームイン、もう一方のコレクション展では群像をテーマに多くの人々の姿を映し出しズームアウトと、両方合わるとさらに興味深い展示構成となっています。そんなことを意識しながら展覧会を見ると、より面白くなるかもしれません。

(※1)『トーマス・ルフ展』
東京国立近代美術館にて2016年8月30日~11月13日開催。
現在は金沢21世紀美術館(2016年12月10日~2017年3月12日)にて開催中。
参考URL:http://thomasruff.jp/
(※2)『杉本博司ロスト・ヒューマン展』
東京都写真美術館にて2016年9月3日~11月13日開催。
参考URL:https://topmuseum.jp/
(※3)『クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス-さざめく亡霊たち展』   
東京都庭園美術館にて2016年9月22日~12月25日(日)開催。
参考URL:http://www.teien-art-museum.ne.jp/
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<和歌山県立近代美術館 展覧会情報>

■特別展『泉茂 ハンサムな絵のつくりかた』
【会 期】2017年1月27日(金)〜3月26日(日)
【時 間】9:30〜17:00 (入場は16:30まで)
【休館日】月曜日(ただし、3月20日は開館し、3月21日休館)
【会 場】和歌山県立近代美術館  
【観覧料】一般510(410)円、大学生300(250)円 ()内は20名以上の団体料金
※高校生以下、65歳以上、障碍者の方、県内に在学中の外国人留学生は無料
     ※第4土曜日(1月28日、2月25日、3月25日)は「紀陽文化財団の日」として
大学生無料  

■コレクション展『群像―交錯する声』
【会 期】2017年1月27日(金)〜5月7日(日)
【時 間】9:30〜17:00 (入場は16:30まで)
【休館日】月曜日(ただし、月曜日が祝休日の場合は翌平日休館)
【会 場】和歌山県立近代美術館  
【観覧料】一般340(270)円、大学生230(180)円 ()内は20名以上の団体料金
※高校生以下、65歳以上、障碍者の方、県内に在学中の外国人留学生は無料

【美術館サイト】http://www.momaw.jp/

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Aki Kuroki

Aki Kuroki . 兵庫県出身。広告代理店にてアカウントエグゼクティブとして主に流通業を担当、新聞・ラジオ・テレビ・雑誌などのメディアプロモーション、イベント・印刷物などを手掛ける。神戸アーバンリゾートフェアではイベントディレクターとしてフェア事務局に赴任。 その後、10年間心理カウンセラーのかたわら、ロジャーズカウンセリング・アドラー心理学・交流分析のトレーナーを担当。神戸市 保険福祉局 発達障害者支援センター設立当初より3年間カウンセラーとして従事。 2010年よりフリーランスライターとして、WEBや雑誌の編集・インタビュー・執筆などを手掛けた後、現在は美術ライターとして活動。アートの世界のインタープリターとしての役割を果たしたい。 ≫ 他の記事

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