伊勢神宮のおひざ元、伊勢現代美術館の現代アートが面白い

~「終り」と「始まり」を表現 吉本直子展より~

poster for Mayu Shiomi Exhibition

塩見真由 個展

三重県エリアにある
伊勢現代美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2017-02-09 - 2017-04-09)

In トップ記事小 レビュー by Aki Kuroki 2017-03-24

伊勢志摩国立公園内に位置する南伊勢町五ケ所浦湾のほとりに立つ白い館-伊勢現代美術館にて、白の古着を使い心の旋律に触れる作品を手掛けてきた吉本直子さんの作品が見られるとあって(吉本直子展 2016年12月4日~2017年3月20日まで開催)、大阪駅から3時間半、電車とバスを乗り継いで行ってきました。

5つの作品が展示された空間全体をひとつの作品とみなし、「終わり」と「始まり」を表現したインスタレーション作品は圧巻。まず、展示スペースで目に飛び込んでくるのは高さ5メートルの天井から吊り下げられた大量の白い布切れと床に渦巻く大きな白い円。よく見るとそれは襟と袖口だけが残された白いシャツの連なり、そして床の円環は切り取った生地を紡績し糸状にしたものでつくられたもの。

《日々の亡霊(Ghost-days gone by)》と名付けられたその真っ白な作品を見ていると、深く静かな水底に沈みこんだような浮遊感の中で不思議な時間の感覚に襲われていくようです。約300枚の古着のシャツ1枚1枚が糸状に解きほぐされる過程において、白シャツに深く刻み込まれた時間と記憶が解き放たれ緩やかに混ざり合い、そして新たな時間を生み出しているのかもしれません。

あるいは、ひとつの役割(シャツとしての)を終え、次の役割を与えられるまでの時間を静かに待つ輪廻転生のイメージ。あるいは、多くの人と複雑に絡み合いながら生きていかなければならない現実と平和で穏やかな理想のふたつの世界観。形あるものとないもの、陰と陽、正と負、対極にあるふたつのものを表現したような作品《日々の亡霊》は、見る人によって色んな捉え方や解釈が生まれてきそうです。

3月24日から始まる次の展覧会は、絵門仁の写真展「さくら SAKURA」。こちらの展覧会では20年間にわたって撮り続けた日本各地の桜と様々に映し出されたその美を見ることができます。

<伊勢現代美術館の概要について>

開館は2003年。現代美術作品の収蔵と紹介に特化した美術館で、1階と2階を合わせた約460㎡のスペースに加え、約700㎡の庭を持つ別館「屋外彫刻館 宇空(うくう)」が展示スペースとなっています。

「吉本直子展」が開催されているのは本館1階のメインスペース、天井の高さもあってか迫力のあるのびやかな空間です。ここでは企画展を3~4回、所蔵品によるコレクション展1回、1年に合計4~5回の展覧会が開催されています。この美術館の特筆すべき点は、若手作家の発掘・育成に力を入れていることです。もともと大の現代美術ファンでコレクターでもある館長が美術大学の卒業制作展など毎年自ら足を運び、選んだ作家たちの作品が2階の展示室で約3週間に1回のペースで随時紹介されています。若手ながら見応え十分なラインナップになっており、見逃せない展示のひとつになっています。

そして、別館の「屋外彫刻館 宇空」では、また趣が少し違った展示作品と雰囲気が味わえます。深々とした厳かな雰囲気が漂う森を背景に凛とした空気感が心地よく感じられる、砂利が敷き詰められた庭園には不思議な形をした彫刻が連なります。このオブジェたちは遠巻きに見ているぶんにはとても静かなのですが、実はなかなかおしゃべりな作品たちで、近寄っていくと次から次へと様々な発見があり、見るのが俄然楽しくなってくる面白味のある彫刻なのです。作品の紹介文を片手に彫刻と会話してみるのも面白いかもしれません。ここは伊勢神宮のおひざ元、何が起っても不思議ではありませんね。

今回訪れた時は、「屋外彫刻館 宇空」の屋内部分に若手作家の塩見真由さんの作品展示がされていました(期間:2017年2月9日~6月8日)。Tシャツやスニーカー、缶ジュースやストローなど見慣れたモチーフが忠実にトレースされた作品群なのですが、見ているとなんだか違和感が生じてきます。
その原因は多分通常のものと縮尺が大きく違うこと、素材がアルミ箔だからでしょう。彫刻なのにアルミ箔製?! 裏切られた気持ちと、見慣れたはずのモノなのにリアリティ(現実感)が全く感じられない不思議さ。 「当たり前」の移ろいやすさを突き付けられたような衝撃と、でもポップで面白くてまるでジョークのような軽さ、相反するものを同時に内在させた興味深い作品群でした。

本館1階の見応えのある展覧会、本館2階の若手作家発掘・育成のシリーズ展覧会、別館「屋外彫刻館 宇空」の広い庭と屋内外彫刻展示、美術館庭園のユーモラスな陶芸作品たち、ミュージアムショップの陶・ガラス作家の1点もの作品展示販売と、伊勢現代美術館ではこのように現代美術が楽しく身近に感じられる工夫が随所にされているので、時間が経つのをつい忘れて過ごしてしまいます。

展示を一通り見終えたら1階のカフェでブレイクタイム。窓から眺める景色は美しい庭園と空想の世界に住んでいそうな動物たち、ロボットのような彫刻や陶芸作品、その向こうには風光明媚なリアス式海岸の真っ青な海と空が広がります。カフェを利用するだけでもOKなので、このロケーションと素晴らしい眺めに惹かれて訪れる人たちも多いそう。そして何よりも、伊勢神宮から車で約30分。今後、伊勢志摩の観光新名所のひとつになることは間違いなさそうです。

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<伊勢現代美術館 展覧会情報>

■企画展『吉本直子展』
【会 期】2016年12月4日(日)〜3月20日(月)
【時 間】10:00〜17:00 (入館は16:30)
【会 場】伊勢現代美術館 本館1F

■企画展『絵門仁 写真展』さくら SAKURA
【会 期】2017年3月24日(金)〜5月7日(日)
【時 間】10:00〜17:00 (入館は16:30)
【会 場】伊勢現代美術館 本館1F
※絵門仁 写真集 『桜日』出版のお知らせ
写真展の会期中は、伊勢現代美術館にてまたは通販お申込みの場合に限り、通常価格4320円(税込)のところ、特別価格3500円(税込)で販売。詳しくは下記連絡先まで。

■Fresh2016『長尾永遠展』
【会 期】2017年3月16日(木)〜4月2日(日)
【時 間】10:00〜17:00 (入館は16:30)
【会 場】伊勢現代美術館 本館2F

■Fresh2017『塩見真由展』
【会 期】2017年2月9日(木)〜6月8日(木)
【時 間】10:00〜17:00 (入館は16:30)
【会 場】伊勢現代美術館 別館 屋外彫刻館 宇空(うくう)

【休館日】火曜日、水曜日(祝日の場合は開館)、夏季休館・冬季休館
【観覧料】一般500円/大・高生400円/小・中生 無料
【住 所】三重県度会郡伊勢町五ケ所浦湾場102-8
【問合せ】0599-66-1138
【美術館サイト】https://www.ise-muse.com/

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Aki Kuroki

Aki Kuroki . 兵庫県出身。広告代理店にてアカウントエグゼクティブとして主に流通業を担当、新聞・ラジオ・テレビ・雑誌などのメディアプロモーション、イベント・印刷物などを手掛ける。神戸アーバンリゾートフェアではイベントディレクターとしてフェア事務局に赴任。 その後、10年間心理カウンセラーのかたわら、ロジャーズカウンセリング・アドラー心理学・交流分析のトレーナーを担当。神戸市 保険福祉局 発達障害者支援センター設立当初より3年間カウンセラーとして従事。 2010年よりフリーランスライターとして、WEBや雑誌の編集・インタビュー・執筆などを手掛けた後、現在は美術ライターとして活動。アートの世界のインタープリターとしての役割を果たしたい。 ≫ 他の記事

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