大阪と奈良の県境、近鉄生駒駅から徒歩10分ほど歩いたところにGallery IND.はあります。本ギャラリーは、もともと大阪で開かれていたものが移転して現在の形になったギャラリー。そんなギャラリーで行われているのが、堂東由佳展「隠れ気味」です。
作家の堂東由佳は、京都市立芸術大学美術研究科絵画専攻で木版画や銅版画、リトグラフ等の版画の技法を学び、その中でシルクスクリーンを用いて表現を続けている作家。
個人での制作はもちろんですが、学生時代の先輩後輩である、桐月沙樹、宮田雪乃、芳木麻里絵からなるカレンダー制作ユニット「hiyomi circle」で、表現方法や質感を大切にしたカレンダーを作成しています。
2017年のカレンダー制作では、ポップな色味を多く使いキャラクター性の強い物を描いています。しかし、本展ではカレンダーの時とはまた違った、白と黒、金や銀のインクの色と紙の色のどこか落ちついた作品を観ることができます。
作者の作品には、レースや柄の様に、繊細で規則正しい印象を受けるものから、何かの群れの様な、インクを無数に垂らしたような、不規則そうに、おどろおどろしい印象を受けるものまで様々なものがあります。
更に作品をみていくと、猫や生き物、家や布団等の生活用品が可愛らしく描かれ、その緩さに脱力してしまいます。
彼女の作品は、小さなモチーフを描くところから始まります。そのモチーフを縮小したり、拡大したり、並べて、重ねて再配置したりするところから、作品が生まれていきます。あえて作品の中のモチーフを滲ませてみたり、重なりを繰り返すことで、見づらさを演出し意地悪をして作家自身も楽しみながら、「みたいけど、見えない」作品をつくっています。
「モチーフは、日常の隙間時間から生まれます。モチーフを決める時はあまり意識的にこれを描こうと思って決めることは少ないかもしれません。描き出しにネコを描くことが多いので、作品の中にネコが登場することは多いと思います」堂東
ドローイングしたものを基本的には、拡大することをメインで制作している作者。細かく描かれた線は、大きい物を縮小したのではなく、小さく描いたものを拡大しているそう。
堂東「シルクスクリーンの見る楽しみを広げたいと思って作品をつくっていますね。シルクスクリーンは、ひとつのドローイングで様々な表情を見させてくれるので、作る本人も試行錯誤しながら作品をつくっています。作品をつくるときに、裏テーマとして『呑気な時間と、嫌な予感』をもちながら作品を制作しています。『呑気な時間と、嫌な予感』というのは、きっと誰もが考えたことがあるものだと思うのですが、例えば今をすごく楽しんでいても、このあと何か不幸が起きるかもしれないという、常に幸せのとなりには不安が隠れているという意識のことです。実際この裏テーマを作品に直接投影させる訳ではないんですが、可愛いモチーフでありながらも、どこか毒々しさを感じられるように作品をつくるように意識しています」
パッと見た毒々しい印象から、作品を見進めていくと見つかる可愛らしいモチーフ。そして可愛らしいだけでなく、その細かさに、線の多様さに驚かされることでしょう。
近くで見た時と遠くで見た時、一度で二度楽しむことができる作品展です。
タイトル通り「隠れ気味」なモチーフたちを探してみましょう。
【展覧会概要】
堂東由佳展「隠れ気味」
http://www.gallery-ind.com/
期間:2017年2月27日(月)~3月26日(日) 18:00まで
※12:00―18:00、土日開廊、平日は事前予約制
会場:Gallery IND.
〒630-0252 奈良県生駒市山崎町12-22 桜ハウス108
入場料:無料