31回目を迎える映像アートの祭典「イメージフォーラム・フェスティバル」が京都芸術センターを舞台に、5/12(金)~5/20(土)の9日間にわたって開催されます。
今年のテーマは、<タンジブル・ドリーム 触れることのできる夢>。ここでしか観られない自由で新しい可能性に出会う9日間。京都会場編はいよいよ5/12(金)からスタートです。開催を前に、今年のテーマや見どころ、作品ラインアップについて、担当の黒小さんにお話をお伺いしてきました!
■毎年ユニークな作品ラインアップですが、まずは今年のテーマから教えてください。
黒小:今年は<タンジブル・ドリーム 触れることのできる夢>をテーマにしています。映像がフィルムであったりという手に持てるような、いわゆる「触れるメディア」であったものが現在ではデジタル化されてデータとなって、ハードディスクの中に入った触れないものになっています。フィルムやカセットテープなど、「触れることができる」というのはどういうことなのだろうというのが今年のテーマです。
■まさに、テーマにちなんだドキュメンタリー作品もあるようですね。
黒小:Jプログラムの「ドーソン・シティー:凍結された時間」やKプログラムの「シネマ・フューチャーズ 未来の映画・映画の未来」は、ストレートにフィルムメディアについて描いたドキュメンタリー作品です。
■「シネマ・フューチャーズ 未来の映画・映画の未来」は、マーティン・スコセッシ、クリストファー・ノーラン、アピチャッポン・ウィラーセタクンら、名だたる監督が出演されています。
黒小:そうですね。そういう意味でも観ていて楽しいと思うし、フィルムメディアの現状を知れる内容になっています。Mプログラムの「カセット:ドキュメンタリー・ミックステープ」も触れることのできるメディアに関連した内容の作品です。テープメディアも最近また日本だけではなく、海外でも流行ってきていますよね。
■VHSビデオの栄枯盛衰を描いたドキュメンタリー 映画『VHSテープを巻き戻せ!』も数年前に公開されていたり、年々また注目が集まっている感じは受けますね。
黒小:懐古趣味的な側面もあるのかもしれませんが、それとは別に表現の一つとして、出来上がった作品自体に「形がある」ということが、作品の契機にもなっていると思います。
■今回は、一般公募や海外作品の中にもフィルム作品が多い印象です。
黒小:日本・海外問わず、表現としてあえてフィルムを選ぶという人が、決して多いわけではないと思うんですが、目立つようになってきていると思います。Pプログラムで特集する斎藤大地さんは、フィルム作品だけのプログラムです。斉藤さんはカナダ在住の日本人作家で、海外の映画祭では著名な方です。日本でまとまった個展上映を行うのは今回が初めてになります。16mmの映写機を2台使って映写するというなかなか観られない上映もあるので、ぜひ注目してください。
●先日の東京会場で、京都での上映を前に一般公募部門「ジャパン・トゥモロウ」の受賞作品が発表されました。
黒小:大賞に輝いたのは、三輪隆さんの「a whisper」です。ストップモーション・アニメーションを主に用いて、人間の孤独や地球の孤独を描いた作品で、審査総評で「肉体のグロテスクな変貌や不気味なジオラマや骸骨の登場など、多様な映画的視覚言語を効果的に用い、観客の期待を裏切る展開が強く印象に残った」という話が出ていました。京都での上映は5/16(火)16:30~ですので、どうぞお見逃しなく。
■京都は東京での開催の前評判を参考に、観る作品を選べるので多少は選びやすいように思いますが、まだまだ「映像アート」の世界に敷居を感じられる方も多いのではないでしょうか。
黒小:そうですね。間口を広げたいと思い、数年前に設けたのが「フィルム・メーカーズ・イン・フォーカス」です。作家に着目して作品集のような形で観てもらえるプログラムで、入り込みやすいかなぁと思っています。
■きっかけとして、個展を観に行くような感覚で映像祭を観に行くという入口ですね。
黒小:特に、Vプログラムの今井祝(のり)雄(お)さん、Wプログラムの中井恒夫さんは関西にも繋がりの深いお2人です。今井さんは、滋賀の成安造形大学で、中井さんは京都市立芸術大学でそれぞれ教鞭をとられていたので馴染みもあるかと思います。今回、今井さんは、ロッテルダム映画祭で、中井さんはロンドンで作品が上映されるなど、海外での注目が集まってきたタイミングもあり、日本でも上映する運びになりました。お2人の作品がまとめて観られるかなりレアな機会になると思います。
■今年のメインビジュアルも印象的です。
黒小:ミュージシャンの近田春夫さんがiphoneのお絵かきソフトで日常的に描かれている作品なんです。ご縁があって今回のビジュアルに採用させていただきました。
■とても素敵ですね。オープニング映像も毎回特別に作られているんですよね。
黒小:今年はEプログラムで上映がある奥山順市さんにお願いしています。「ミスター実験映画」とも呼ばれているベテランの作家さんで、今回は2種類作っていただいています。
■会場でしか観られない貴重な作品の一つですね。日によってオープニング映像が替わる仕組みですか?
黒小:プログラムによってですね。
■なるほど。じゃあ最低でも3回は来ていただけると出会える可能性が高まりますね(笑)
黒小:そうですね(笑)
■本当にたくさんの作品があって、いつも選ぶのに迷ってしまいますが。特集テーマ以外での注目作品はありますか?
黒小:海外招待作品の中の「ドキュメンタリー:21世紀の我らがはらから」という特集にミヒャエル・グラヴォガー作品の上映があります。『ドッグ・デイズ』『パラダイス3部作』で知られるウルリヒ・ザイドルの朋友として、国際的にはは著名な作家で、日本では初めての上映になります。
■ザイドルの作風もユニークですが、それに並ぶ著名作家と聞くとどんな作品なのかとても気になりますね。ちなみに日本招待作品は、1つのプログラムに複数の作家が参加するスタイルを取られています。
黒小:以前はアニメーションだけのプログラムを組んだりもしていたんですが、最近はいろんな作品との出会いを楽しんでもらおうと、まったく違うタイプの作品を組み込んでプログラムしています。
■なるほど。あえてごちゃまぜにしているんですね。
黒小:京都ならではでいうと、Qプログラム「対話の可能性」の中にフィリップ・ヴィトマンの作品があります。一昨年に、「ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川」の滞在中に撮影された作品なので、京都駅だったり鴨川だったり、京都の風景もたくさん出てきますね。
■身近な風景がどれだけ違って映っているかを楽しむのもおもしろいですね。こうして黒小さんにお話を聞くとようやく作品の一つ一つが入ってくる感じがします(笑)
黒小:そうですね。よく何を観たらいいですか?と聞かれるんです。もちろん、評価が確立された作品というのはあるのでご紹介するのですが、自分にとって「いい作品」は見つけてもらうしかないんですよね。「予想しなかったものに出会う」ことがこの映画祭の一番の醍醐味だと思うので、何プログラムか観た中で見つけてもらうのがおすすめではあります。
■そうですね。狙いをあまり定めずに空いている時間にぶらり訪れてもらうのが理想かもしれません。お得な4回券やフリーパスを上手に利用してたくさんの作品に出会う機会にしたいです。
黒小:ちなみに、「可能性を限定しない」ということも映画祭の大事な視点の一つです。面白い作品や人気のある作品ばかりを取り上げてしまうとお客さんの幅も狭めていくことにつながりかねないので、なるべく表現の門戸を広げた映画祭でありたいと思います。
■知らず知らずのうちになんとなく自分の中で、観る作品の好みだったり、これはこうという「枠」が出来上がってしまって、その枠から外れるのがだんだん難しくなっていきますよね。
黒小:自分が自由に観ているつもりでも、好きなものばかりを観ていくと気づかないうちに視野が狭まっていったりもするので。
■たしかにそうですね。デジタル時代にフィルムの存在をあらためて確認するということも、また視野を広げていくことのひとつということですね。
黒小:そうですね。映像がまだ特別な存在だった60年代に、映像を作っていた人たちの作品を今観るということもまた感じるものが違うと思います。絵を描くときに筆を何にする、紙を何にするという選択肢はたくさんありますよね。今は映像を作ろうとする時に、簡単に撮れるデジタル化の影響もあってかそういった本来あったはずの選択肢に無自覚なところがある気がします。60年代当時はまだ意識的に映像を作ろうとしていた時代だと思うんです。iphoneでも簡単に映像が撮れる時代になり、映像はただ便利なものとしても使われがちですが、元々あった映像本来の可能性に気付く機会になればいいと思います。
■作品に触れるたびに今年のテーマ<タンジブル・ドリーム>へと繋がっていくわけですね。貴重なお話、ありがとうございました!今年も楽しみにしています!
【イメージフォーラム・フェスティバル2017】
会期:2017年5月12日(金)~5月20日(土)
会場:京都芸術センター(京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2/TEL:075-213-1000)
チケット:当日券/1回券1,000円、4回券2,500円、フリーパス4,500円
※チケットぴあ、ローソンチケットなどで特別鑑賞券を発売中
URL:http://www.imageforumfestival.com/2017/