ライアン・ガンダー ―この翼は飛ぶためのものではない

あなたの気付きレベルが問われている

poster for Ryan Gander - These Wings Aren’t For Flying

ライアン・ガンダー - この翼は飛ぶためのものではない

大阪市北区エリアにある
国立国際美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2017-04-29 - 2017-07-02)

In トップ記事小 レビュー by Chisai Fujita 2017-05-27

国立国際美術館では7月2日(日)まで、「ライアン・ガンダー ―この翼は飛ぶためのものではない」展が開催されている。私はこの展覧会に行く前、思い付きで福岡へ旅をし、たまたま太宰府天満宮へ行った。

太宰府天満宮の境内にあるこの石を「ライアン・ガンダーの作品だ」と学芸員に教わるまで、私は気が付かなかった。

現在の美術を見る時、こういった「気が付くか、付かないか」というものが多い。いや美術に限らず、世の中すべてが「気が付くか、付かないか」というものやことに囲まれている。知りたい欲求の高い人は気が付くし、逆であれば無関心な人として生きていくこともできる。過剰な情報を自ら選別しなくてはいけない現代の私たちに、ライアン・ガンダーの作品は、その、つまり「現代人の気付きレベル」にアクセスを試みる。

国立国際美術館の展覧会を見てみよう。

今回まぎらわしいのが、一番下のフロアであるB3階がライアン・ガンダーの個展「ライアン・ガンダー ―この翼は飛ぶためのものではない」、B2階はライアン・ガンダーが選んだ所蔵作品を並べた「ライアン・ガンダーによる所蔵作品展 ―かつてない素晴らしい物語」である。

個展「ライアン・ガンダー ―この翼は飛ぶためのものではない」には、60近い作品が展示されている。

入口に並んだこの小さな人形に、鑑賞者は「何これ」「すごい数」「かわいい」と気が付くだろう。私は、足元に丸められた紙やコインがあることに気が付いた。あなたがこれらに気付くか、作品と気が付くかどうかは私には分からない。しかもこうした作品の展示場所は移動するため、今日見に行ってもこの位置にあるとは限らない。そう、この展覧会は確証することを許されない展覧会なのだ。

会場に青いマットが敷かれ、モニターで映像作品を見ることができる。脱いだ靴が置かれているので、私も靴を脱いでマットに上がるのね、と気が付く。が、実はこの置かれた靴もライアン・ガンダーの作品だ。果たしてどれぐらいの人が気付いただろうか。

また、別の展示空間を見てみよう。この写真の中に、いくつ作品があるかあなたは分かるだろうか。左の男性が見ている壁面にひとつ、右下に彫刻みたいなのがあるぞ。実際は、他の壁面にも、天井の辺りにも、と、気が付かない場所に気が付きにくい作品が気付きにくいように置かれている。

こんな調子で、作品そのものを眺めたり、空間をなめるように見るような、いつもの鑑賞方法では気が付かない作品、あるいは、分かりにくい展示方法が会場には数多く展開されている。展示空間の奥まで足を運ぶこと、上から下まで、右から左まで、隅々まで目を凝らすこと、気が付いて、見つけるという鑑賞方法。それはライアン・ガンダーに「インターネットサーフィンで済ませるのではなく、実際の現場をちゃんと見て、知って、あなた自身気が付きなさい」と言われている気がする。会場配布資料を持っても、全部の作品を見つけることは大変だ。しかし見つける楽しみ、気が付く喜びは現代の美術鑑賞のありかたなのだと私は思うし、見つけた時に、ライアン・ガンダーがどうしてここに、この作品を置いたのか、どうしてこの形や色を選んだのか、といちいち想像することも楽しい。

エスカレーターを上がったB2階では「ライアン・ガンダーによる所蔵作品展 ―かつてない素晴らしい物語」展が開かれている。これは、国立国際美術館の所蔵作品の中から、ライアン・ガンダーが選んだ作品が、二項対立、異なる2作家の作品を、例えば、丸対決!にじみ対決!のように、対比させるように並べている。

私が注目したのは作品キャプションだ。

日本語と英語だけでなく、中国語やハングルが書かれている。イヤミではなく、国立国際美術館だけに国際化されたのかとびっくりした。やっとの対応かもしれないし、言語の数からすればまだ足りないのかもしれない。多くの人に開かれている美術館にとっては、必要な仕事であることは間違いない。

【展覧会名】ライアン・ガンダー ―この翼は飛ぶためのものではない
【会場】国立国際美術館
【会期】2017(平成29)年4月29日(土)~7月2日(日)
【公式サイト】http://www.nmao.go.jp/index.html

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

KABlogについて

Kansai Art Beatの運営チームにまつわるニュースをお伝えします。

Facebook

KABlogのそれぞれの記事は著者個人の文責によるものであり、その雇用主、Kansai Art Beat、NPO法人GADAGOの見解、意向を示すものではありません。

All content on this site is © their respective owner(s).
Kansai Art Beat (2004 - 2024) - About - Contact - Privacy - Terms of Use