ヨハン・ディードリッヒ × 柳沢英輔 インタビュー

「小さな音」に耳を傾ける、サウンドアート・ワークショップ

In インタビュー by Makoto Hamagami 2017-05-01

 

現在、京都市上京区にあるスペースSocial Kitchenにて、「Quiet Music, Weak Sounds ~静かな音楽、小さな音~」と題されたサウンドアート・プログラムが開催されています。

NY在住のサウンド・アーティストのヨハン・ディードリッヒ氏と、音文化研究者の柳沢英輔氏を講師に、サウンドスケープの視点から音を見つめ直し、日常生活の中で馴染みの薄い音、静かで小さな音を探すことによって世界に隠された音を体験する、というこのイベント。

プログラムは3回のワークショップと最終日のレセプションパーティーで構成されており、小さな音を収集するための装置「モバイル・リスニング・キット」をDIYで作成し、それを持ってフィールドレコーディングに出かけたり、風によって音が出る楽器「エオリアンハープ」を作成して演奏したりと、様々な方法で「静かな音楽、小さな音」に寄り添っていくという内容です。小さな音、弱い音とはどういう音で、また、それらを拾い上げ、耳を傾けるとはどういうことなのでしょうか。講師のおふたりにお話を伺いました。

 

 

ー今回のイベントタイトル「Quiet Music, Weak Sounds~静かな音楽、小さな音~」についてお伺いします。サウンドアート作品として、音に耳を澄ませ、音を楽しむ為の装置を独自に開発するディードリッヒさんと、アジアの音/音楽をフィールドレコーディングし続ける柳沢さんですが、「静かな音楽、小さな音」は、音へアプローチする際のふたりの共通点だと思います。このテーマに興味を抱くきっかけは、それぞれ何だったのでしょうか?

ディードリッヒ:今回のワークショップ第1回目で制作する、小さな音を収集するための「モバイル・リスニング・キット」は、以前アーティストのChristie Leeceとコラボレーションして開発したものです。

その時私たちは、自分たちの身の回りにある「自然」に対して、人々が一時それらに耳を傾け、自分を取り巻く環境の中で「自然」とコネクトし、「自然」と「自分」との関係性に目を向けるようになるにはどうすればいいだろうか、と考えていました。そこで思い至ったのが、「サウンド」を通して「自然」を視る、というアプローチです。「自然」が発している静かで、ソフトで、弱い音は、大抵の場合、大きな音や主張にかき消されてしまいます。しかし、それらに注意を払い、見つけ、体験することによって、環境に対する音の聴き方が変化するだけでなく、環境の中での「自分」の存在に対しても新たな視点を持つきっかけになると思い、小さな音に興味を持ち始めました。例えば、自分の身の回りの環境に何か変化が起きると同時に、その周りにあるサウンドにも変化が起きます。つまり、サウンドには、その環境に変化を与える自分たちの存在も反映されている。小さな音に耳を澄ます中で、そんなことに気づきます。

 

 

柳沢:私がはじめて「小さな音」に興味を抱いたきっかけは、レコーディングを始めたばかりの頃に現地で録音したタイの伝統的な音楽を、日本に持ち帰って再生した時です。それまで環境の音や自然の音に大きな興味があったわけではなく、私は純粋に演奏者の音楽を録音しているつもりでした。しかし、それを日本に帰ってから聴いてみると、そこには様々な環境の音が入り込んでいて、音楽の背景にあるそれらサウンドの美しさに本当に驚きました。その時、フィールドレコーディングの面白さを知りました。

また、私の活動に即して言うならば、今回のイベントのテーマ「静かな音楽、小さな音」は、音量の小ささだけを言っているのではありません。私が研究しているベトナムの少数民族の音楽、例えばゴングの演奏は、その音量こそ大きいものの、大きなメディアで取り上げられたり世界から注目されたりすることは少なく、まだまだ隠れた音楽だし、社会的に弱い音です。世界にはこのような伝統的な音楽が沢山あり、私がフィールドレコーディングするこれらの音楽も”Quiet Music”であると考えています。

 

 

ー今回のイベントの特色は、ただ小さな音を聴くというだけでなく、その為のツールを自分たちで作成するということだと思います。ディードリッヒさんの活動、そしてこのワークショップシリーズはDIY精神に大変富んでいると感じるのですが、その理由を教えてください。

ディードリッヒ:DIYに関しては、父からの影響が大きいです。父は自分で車用のスピーカーシステムをつくったりしていて、私が幼い頃からホームセンターへの買い物によく連れて行ってもらいました。父と一緒にコンピューターを組み立てたこともあります。また、私自身もウェブサイトを自分でつくったり、パソコンで音楽やドラムのビートをつくったりして遊んでいました。そんな環境の中で育ったこともあって、私は今、アーティストとしての自分の役割は、人々に自分の力でなにかをつくる方法を教えることだと思っています。

つまり、身の回りの道具と自分たちの技術によって自分の表現活動のために必要なものをつくる、その能力が全ての人にあるのだ、ということを伝えたいと思っています。既成のもので何かつくり出すだけではなく、ゼロから生み出すという創造性や体験は、人々にパワーを与えてくれます。つくりたいものは何だってつくれる、まだ自分のイメージの中にしか無いものに形を与えることができる。ワークショップの参加者の皆さんには、私がそのような信念のもと開発したこのツールを作成してもらう訳ですが、みんなで手を動かしながら、このような私の考えをシェアできればなと思っています。

 

ー柳沢さんもまた、今回DIYでエオリアンハープをつくるワークショップを企画されていますよね。

柳沢:実は、今回のエオリアンハープのワークショップは、自分にとって初めての楽器づくりワークショップで、自分にとってもチャレンジなのです。私自身ものづくりに大きな関心がありますが、これまでそのような機会は多くなく、今回、ヨハンとコラボレーションするということで実現できました。今日この後、ワークショップ準備の為にヨハンと買い出しに行くのですが、イベント以外のそういった時間が、本当に面白いです。
エオリアンハープは、名前の通り風によって鳴る楽器ですが、一方で、普段あまり意識しない風の力を、弦の振動によって可聴化する装置としての機能もあります。このように少し別の視点から、身の回りにある音に耳を澄ませてみたいと思います。

 

 

ー今回のコラボレーションについて、また、プログラム全体について、それぞれどんなことを期待していますか?

ディードリッヒ:私たちふたりは、フィールドレコーディングの方法やサウンドへのアプローチなどとても異なっているので、一緒に過ごす時間の中で、お互いからたくさんのことが学べるだろうと思っています。彼の洗練されたレコーディングテクニックや音の聴き方など、自分が持っていないものを知りたいし、私のアプローチは逆に、型破りだし一般的ではないものです。フィールドレコーディングをする際に、自分がどこに注意を払い、またどこに注意を払わないのか、お互いのそんな点に気づけたりしたら嬉しいです。

柳沢:私にとって、ワークショプをするのは今回で2回目です。それも、自分ひとりではなくアーティストと協働してできることは、とても刺激的だし、今回はヨハンとだからこそできるプログラムになっていると思います。ワークショップというのは、講師が生徒に教えるのではなく、同じ時間、同じ場所で考え方や発想、興味をシェアすることに意義があり、そのきっかけをつくることが今回の私の役目だと思っています。なので、正しいレコーディング方法や、一般的なフィールドレコーディングの技術を伝える訳ではありません。音を録音したり編集したりすることは難しいことではないし、自分が聴いてみたい、フォーカスしてみたい音に対して、自由に耳を傾けて欲しいなと思います。

 

 

「静かな音楽、小さな音」という言葉は、サウンドアートの領域の中で文字通り捉えて考えることもできるし、それと同時に、メディアの視界の外で受け継がれる世界各地の音楽や物語、大声にかき消されてしまう誰かの主張、経済的ではないとして切り捨てられるものなど、私たちが普段見逃してしまうような物事について考えるヒントになるかもしれません。派手で、調和がとれており、みんなから注目を浴びる人気なもの「ではない」ものが存在してもいい、という考えは、どこか私たちを安心させてくれる気がします。

 

【開催情報】
Quiet Music, Weak Sounds ~静かな音楽、小さな音~
プログラム期間:4月22日(土)~5月5日(金)

レセプションパーティー
日時:5月5日(金) 14:00~17:00
会場:Social Kitchen
http://hanareproject.net/

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ヨハン・ディードリッヒ Johann Diedrick
サウンドパフォーマー、プログラマー。サウンドスケープ・シンポジウム(イェール大学/ アメリカ)、the New Interfaces for Musical Expression(NIME)conference(韓国)、the Invisible Places(ポルトガル)、YCAM(山口県)など、世界各国のグループ展、カンファレンス、フェスティバル等に多数参加。現在は、メトロポリタン美術館のソフトウェア開発者。
http://www.johanndiedrick.com/

柳沢 英輔 Eisuke Yanagisawa
フィールドレコーディスト、音文化研究者。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了。2015 年より同志社大学文化情報学部助教。主な研究対象は、ベトナム中部高原の少数民族のゴング文化。フィールド録音作品に、Ultrasonic Scapes(Gruenrekorder)、Music of the Bahnar People from the Central Highlands of Vietnam(Sublime Frequencies)など。
https://www.eisukeyanagisawa.com/

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【KABlogライター】
浜上真琴 HAMAGAMI Makoto
1992年三重県生まれ。大学時代を京都で過ごし、美学芸術学及びアートマネジメントを学ぶ。その後、チェコのアートスタジオに勤務。現在は京都にて多様な背景をもつ人々と協働しながら、芸術、言語、社会とその周辺について、プロジェクト、ワークショップ等の企画・コーディネートを行っている。神戸大学大学院国際文化学研究科在籍。

Makoto Hamagami

Makoto Hamagami . 1992年三重県生まれ。大学時代を京都で過ごし、美学芸術学及びアートマネジメントを学ぶ。その後、チェコのアートスタジオに勤務。現在は京都にて多様な背景をもつ人々と協働しながら、芸術、言語、社会とその周辺について、プロジェクト、ワークショップ等の企画・コーディネートを行っている。神戸大学大学院国際文化学研究科在籍。 ≫ 他の記事

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