「作家」として生きる20代の表現者たち

アートアニメーション作家 榑松夏実さんにインタビュー

In KABからのお知らせ 特集記事 by KAB Interns 2017-08-11

芸術大学で学ぶ人々が、卒業後に選ぶ道のひとつとして「作家」があります。20代の多くの作家はキャリアの短さなどから、メディアでの露出がほとんどない状況です。しかしまだ無名であったとしても、良い作品をつくり続け、精力的に活動している作家は多く存在します。

この記事では、20代の作家の方々にお話をうかがいました。彼らの生の声を紹介し、作品の魅力や活動の悩み、そして作家としての展望などをお伝えします。

今回の取材場所はあまらぶアートラボ A-Lab。2017年5月27日~7月17日まで開催されていた「A-Lab Artist Gate 2017」に出展していた作家さんにお話をうかがいました。

第1回目は榑松夏実(くれまつ なつみ)さん。
榑松さんは京都精華大学芸術学部映像専攻を卒業後、今もなおアートアニメーション(※1)の作品制作を続けています。
「芸大生」という肩書きから卒業した現在、彼女はどのような思いで活動しているのでしょうか。
(※1)アートアニメーション : アニメーション作品のジャンルのひとつとして存在する。「アニメーション」の技法を用いながら制作された、芸術性の高い作品のこと。商業化・大衆向け娯楽作品を目的としないものが多く見られる。

—作品制作を始めたきっかけを教えてください。

昔から絵を描くことが好きで、高校は美術系のところに入りました。そこで湯浅政明さんというアニメーターの作品を見て、自分もこういうのをつくりたいと思って始めました。湯浅さんはアニメーターの中でも異彩を放っている方で、どちらかというとアートアニメーション寄りなんですね。もともとアートアニメーションというものを知らなかったので、調べていくうちに、「アニメってテレビアニメだけじゃないんだ」と気づきました。

—高校時代からアニメ制作をされていたんですか。

高校ではデザイン画とかデッサンが中心だったので、完全に独学でした。GIFアニメをつくってみたりとか。どのソフトを使えばいいのかもわからないし、なにがなんだかわからないままでしたけど、すごく楽しかったので、こうやって続けられていますね。
それと子どもの頃に見ていたNHKのアニメからも影響を受けています。調べていくうちに「昔見ていたあの作品ってアートアニメーションだったんだ」ということもありました。例えばアニメーション作家の山村浩二さん。いまでもEテレとか見てるんですけど、すごく刺激を受けるというか、ものすごく自由だなと思いますね。

—今回、展示されている作品の説明をお願いします。

大学の卒業制作でつくったアニメーションを再編集し、続きのような作品をつくりました。卒業制作のテーマは、「愛について」です。その作品では愛を知ることができた主人公の話をつくったのですが、彼がもし愛に気付けなかったらどうなっていたんだろうと考えて、今回は「愛を知らない子ども」というテーマでつくりました。

—アニメーションの上映だけではなく、インスタレーション形式で展示されていますね。

インスタレーションでの展示は今回が初めてですね。部屋の真ん中にある白いカーテンが仕切りになっていて、向こう側には部屋の隅に座り込んでいる男の子がいます。彼はテーマの通り「愛を知らない子ども」で、カーテンはその子がつくってる心の壁のようなものを表現しています。展示方式としては、カーテンの向こう側には入れないようになっていて、彼に干渉することはできません。

カーテンに映っているアニメーションは、主人公が憧れている「愛の形」をイメージしています。だけど彼はそれに一切気づかず、悩んで悩んでこの家に閉じこもっている、という表現をしました。人ってひとつのことに悩むと、他のこととか一切見えなくなっちゃうと思うんです。周りが見えないから本当の逃げ道を見つけられないんですよね。周りから見たらどういうふうに映るんだろうとか、自分たちがしてあげられることって何かないかなと考えていて、そういうコンセプトでつくりました。
今後の制作の中でも「誰かを思う気持ち」とか「愛の自覚」ということを、大きなテーマとして扱いたいと思っています。

—現在、作家活動で困っていることはありますか?

いまは就職活動中なんですが、もし仕事に就いたとして、どうやって制作を続けていくのかということですね。制作の時間が取れるのかがいちばん心配です。最初は映像系の会社も調べていたんですけど、そうなると完全に仕事に専念することになるので……。時間の問題が本当に重要ですね。なるべく制作も一緒に続けられるような仕事に就きたいなあと思っています。

—制作場所の問題はありませんか。

机があれば(笑)。アニメーションはそういうところが楽だなと思います。もっと複雑なことするならアトリエも必要ですが、いまのところは何とかなってますね。

—今後、こういう風に過ごしたいなどの理想像はありますか。

いちばんは、アニメだけで食べていけたらいいなあと思います。やっぱり制作に集中できるので。いままでずっと作品づくりっていう自分の好きなことばっかりやってきたので、社会に出るっていうのは難しいことだなと思いましたね。
アニメーション作品って一種のコミュニケーションツールみたいなものだと思っていて。なので、「自分はこういうふうに思ってます」って出したものを「私もそう思うよ」とか、一人でも共感してくれる人がいればいいなと思いながらつくっています。やっぱり絵を描くのが好きなので、ずっと続けたいです。

—なにか具体的な目標などはありますか。

子ども向けの番組とかで放送されたいですね。自分のアニメを子どもたちに見てもらって、そのときにアートアニメーションだって気づいてもらえなくてもいいんですけど、知ってもらうきっかけになればいいなと思います。一般の人にもあまり知られていないので「アニメ」って言うと、テレビアニメだと思われるんですね。せめて「どっちの?」って聞かれるようにはなりたいです。今後、アートアニメーションをひとつのジャンルとして認知してもらうことが、いちばんの目標ですね。

そのときボクはそれを知った from Natsumi Kurematsu on Vimeo.

<インタビューを終えて>

作家としてのキャリアがない時期は、制作時間や場所の確保が難しかったり、発表の場が獲得し辛かったり、プロモーションの方法がわからなかったり…と、立ちはだかる壁がいくつもあります。一方で、今後のビジョンを形成するために、重要な時期でもあります。
困難な時期を乗り越え、独自の活動を展開していく方法を見出すこと、それは作家に限らず多くの若者が直面する課題かもしれません。

今回お話をうかがった榑松さんは、仕事と制作のバランスについて悩まれていました。今後も制作を続けるためには、少なからず芸術以外の労働も必要になってくるでしょう。
彼女のように「仕事と一緒に続けられる道」を模索することが、自身の活動を軌道に乗せるための第一歩へと繋がるのではないでしょうか。

取材先:あまらぶアートラボ A-Lab
〒660-0805 兵庫県尼崎市西長洲町2-33-1

<KABインターン>
中 三加子:関西の芸術大学を卒業後、KABのインターン生になる。情報発信に興味があり、「編集」の仕事に携われるように模索中。同世代の作家が気になる。


[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています

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