こんにちは!KABインターンのYukiです。わたしは現在、大学でアートプロデュースを学んでいる学生です。アーティストなどの活動をする方々のサポートをするということに興味があり、そのなかでも広報という役割にあたるKABのインターンを始めました。
今回、インターンプロジェクトとして、個人的に気になっていた同級生の学外での活動についてインタビュー形式でご紹介するとともに、学生ゆえの課題やこれからの可能性について考えてゆきたいと思います。
<KABインターン>
山口由稀(やまぐちゆうき) : 京都造形芸術大学アートプロデュース学科3回生。2回生で瀬戸内国際芸術祭の会場である香川県の豊島で島民に対して行われた、写真を使ったワークショップに企画側として参加。以降「コンテンツの消費」等のテーマに興味を持つようになる。年に1度、推しの声優を追って関東に遠征するアクティブなオタク。
[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。
今回、インタビューさせて頂くのは、同級生で、オルタナティブスペースの運営を今年5月から始めた「yuge」のオーナーの奥田航大(オクダコウダイ)さんと小西睦月(コニシムツキ)さんです。
わたしは、実際のところ大学の課題や、プロジェクトへの参加、アルバイトなどに日々追われており、2人のように、自主的な学外での活動はなかなか行えずにいます。学内で制作を行う芸大生が、独自にスペースの運営を始めるということは、どのような意義を持つのか、聞いてみたいと思います。
―スペース運営をしようと思ったきっかけは?
奥田航大(以下、奥田) : オルタナティブスペースの運営をやりたいっていう願望は最初からあったわけじゃなくて、はじめは2人でルームシェアのための物件を探してました。
小西睦月(以下、小西) : 俺はもともと立体作品とかの制作をしてるから、作業スペースと、販売もその場で全部一緒にやるみたいな場所とか、シェアアトリエみたいな場所が欲しいなっていう気持ちはありましたね。奥田がこの物件見つけて「下のスペースでなんかおもしろいことしようや」って言われて「ここやったらなんかできるなぁ」と思って…というのがきっかけです。
―費用などはどうされたんですか?
小西 : 改装は全部自分たちでやったんで、周りの人の手とかは借りたんですけど、その費用はポケットマネーからですね。他は不動産との契約金とかだけで、普通の賃貸と同じでした。築40年くらいの物件なので、大家さんも「綺麗にするなら、元々あった棚とかも全部取ったり、なにしてもいい」っていうスタンスなんですよ。大家さんは別にアート関係の人とかではなくて、不動産してる人なんですけどね。なのでわりと自由にやれました。
奥田 : 今「yuge」として使っている場所が、ひとつ前は花屋で、もうひとつ前は服屋をしていたスペースだったんですよ。あと、このスペースの奧と2階にそれぞれの部屋があって、全部の場所含めて家賃が10万円いかないから、ふたりで割ってもちょっといいマンションの1室くらいの賃料なんだよね。家と別にテナントを借りる形でのギャラリー運営よりは、かなり金銭的に楽ですね。
―2人とも制作を行っていると思うのですが、なぜ今回スペースの「運営」をしようと思ったのですか?
奥田 : 自分はコミュニティが欲しかったのが大きいですね。グループでの制作や展示など、「なにか活動がしたい」ってなったときにツテがないとできなかったりするので。スペースを運営しているなかで知り合った人とのつながりができると、今後の活動にも影響するだろうなと。
小西 : 俺は、制作する側だからこそ、その活動をしやすい場所があったほうがいいな、って気持ちがあったからですね。やっぱりスペース借りるのって、大学生からしたら高い。「yuge」は学生なら1週間3万円で借りられるっていう設定にしてるけど、街中のギャラリーだったら3日間とか1日でも3万円いくところはあるんですよね。大学外で作品展示したくてもお金がないっていう学生はいるし…展示しやすい環境があったらいいなと思って。自分も制作しているからこそわかる「あったらいいのにな」っていうことを実現したって形です。
―スペースを作るうえでこだわった点は?
小西 : シンプルに、ならしていった感じです。もともとの服屋さんの名残りなのか、壁に棚が付いていたり、ハンガーが掛けられるようなレールなどがあったんですけど、全部取っ払ってフラットにしました。あと、最初はホワイトキューブにしようかって話してたんだけど、途中段階でのモルタル塗りっぱなしの雰囲気が思いのほか良くて、こんな感じに。
奥田 : そやね。設備を投資したとかもなくって。削ぎ落としていっただけですね。余計なものをなくすという感じでしたね。使いやすいように。
―「yuge」のコンセプトは?
小西 : 「HOT SPOT(ホットスポット)…なにかが集まる熱量を持った場所」っていうのがキーワードにあります。今はアート展示になってるけど、ミニマムな演劇とかトークショーとか、イベント会場としても使えるかもしれない。「ジャンルを問わない表現の場として、もくもくと広がっていく」という由来から「yuge」という名前もできました。
―下宿先とスペースが一緒になってるということですが、卒業後はどうされる予定ですか?
小西 : 俺は京都を気に入ってるから出る気はあんまりなくて、今年と来年の2年間の雰囲気で、継続出来そうならそのまま活動できたらいいなって感じですね。就職しなきゃってなるかもしれないので、そこはまだわからないです。
奥田 : 自分は就職はする予定です。ただ、就職しても、2年間の状況によれば続けることもできるかな、とは思ってます。
小西 : 物件が2年契約なので、ひとまず2年間全力でやろう、という気持ちです。
―「yuge」の展望を教えてください。
奥田 : やっぱり「学生」っていう立場を大事にしたいなと思ってます。学生として同じ立場として話せるギャラリー運営者っていうのは珍しいと思うので。
小西 : 値段設定も、黒字にして利益を得るためというよりは、学生が借りやすいような値段設定にしたかったのがあったので、こうなりました。展示などを始めるきっかけになってくれたらいいな、ということで。あと、今は同じ大学の学生の展示が続いている状態なので、他大学の学生とのつながりも欲しいなとは思います。今のところ京都精華大学と京都市立芸術大学から、どんな場所なのか見せてもらいたいって話を貰ったりはしてますね。
奥田 : 内々のコミュニティで続けていくというよりは、こっちからおもしろいことしてる人たちをどんどん探して、「こういう企画をやるんですけどどうでしょう」っていうふうに動いていきたいなとは思ってます。もともとの知り合いとのつながりがかなり強いけど、それだけではない場所にしたいですね。
<Yuki インタビュー後記>
学生による学生のための自治(オルタナティブ)スペースの課題と展望
オーナー2人からお話しいただいた今後の展望に「学生のためのスペース」というテーマがありました。彼らも学生であるからこそ、同じく学生である制作者の苦悩や要求を身をもって理解することができるということは確かです。制作活動を行う芸大生は「売れるかどうか」「社会に対して自分の作品がどういった位置付けであるのか」等の公共性以前に「自分にはなにを表現できるのか」といった問いを抱いているように見えます。そうした世代の葛藤を、身をもって実感している2人が運営する「yuge」は、彼らの試行錯誤の過程をアウトプットする有効な実験の場であると言えるでしょう。
インタビューを行うにあたって「yuge」を訪れました。その際、京都造形芸術大学の学生4人のグループ展『ネオ』の会期中であったためか「yuge」は、オーナー2人とグループ展出展者の所属する学科の学生によって賑わっており、入るには少し勇気が必要な雰囲気でした。
学内でのつながりが強いためにどうしても出てしまう「身内感」は、オーナー2人もインタビュー中で述べていましたが「yuge」の課題といえます。今後、この課題をどうしていくかについては彼らも常に試行錯誤しており、イベントの開催なども考えているということでした。
作品を展示する多くの学生と、オーナーである学生2人によって、これから新たにつくられていく「yuge」というスペース。一体、どのような形でつくられて、あるいは「もくもくと広がって」ゆくのでしょうか。
取材先 : yuge
〒606-0864 京都府京都市左京区下鴨高木町24-1