日本的なるもの:重森三玲庭園美術館

日本美の「根源」を追い求めたアーティスト

In トップ記事小 フォトレポート by Ai Yamada 2017-09-11

関西には、現代アートシーンだけでなく、文化的・歴史的価値の高い建造物や宗教美術・伝統工芸などが、数多く伝えられている。それらには、作品がつくられた当時の時代性を感じることもあれば、時代や場所を超えて現代に通ずるもの・普遍的なものもある。美術館やギャラリーには赴くけれど、美術鑑賞を目的に寺院や庭園に足を運ぶことはあまりない…そんな方にも向けて、今回から『日本的なるもの』をテーマに、日本建築、庭園などさまざまな視点から日本の美についての連載を開始する。第1回目は「重森三玲庭園美術館」を紹介する。

重森三玲(しげもりみれい 1896-1975)は、昭和を代表する庭園家(作庭家・庭園史研究家)だ。京都の東福寺本坊庭園・大徳寺山内瑞峯院庭園・松尾大社庭園など、有名寺院の庭園を数多く手がけている。

2005年に、シャープ株式会社の液晶テレビAQUOSのTVCMで、重森三玲の庭園が起用されたことなどを機に、その名は業界を超えて広く知れ渡るようになった。近年では、斬新でモダンなデザインが関心を得て、多様な業績が再評価されている。そうした重森三玲の旧宅の書院・庭園部が「重森三玲庭園美術館」となり、予約制で一般公開されている。

美術館(旧宅)は京都市左京区の京都大学と吉田神社近辺にある。元は吉田神社の神官の邸宅であったものを1943年に三玲が譲り受けた。新たに「無字庵」と「好刻庵」の2つの茶室と、書院前庭や茶庭・坪庭を増築し、生涯の住まいとした。吉田神社界隈に残るほぼ唯一の本格的な社家建築であることから文化財的価値が高く、書院と「無字庵」は国の登録文化財に指定されている(無字庵は非公開)。

美術館では、三玲自らが設計した「好刻庵」や庭園が拝観できる。茶室は、期間限定で10月と12月~3月中旬のみ入室見学が可能だ。(その他のシーズンは、外からの拝観になる)

今回の取材にあたり、館長の重森三明(しげもりみつあき)さんに話を伺った。

重森三明さんは、重森三玲の孫にあたり、美術家としての活動もされている。京都芸術短期大学専攻科を修了し、パリ国立高等美術学校で現代美術を学ぶ。帰国後はCCA北九州のリサーチ・プログラムに参加するなど、現在に至るまで国内外で作品を発表されている。自身も作り手として、庭園家としてではなく“アーティスト”重森三玲について語ってくださった。

重森三玲は日本美術学校で絵画を学び、元は画家を志していた。しかし日本画の画法で、抽象表現を試み、前衛的すぎた作品は評価されなかった。実力をもつ周囲の作家に圧倒され、挫折感を味わった三玲は、絵画だけでなく、華道・茶道・庭園といった日本特有の文化を総合的に研究するようになる。

「日本美の特質」を探求する重森三玲は“庭”と出会い、これこそ人生をかけて取り組むものに相応しいと感じ、研究を深める。だが当時は庭の美学に関する書物は皆無で、自らの足で全国の庭園を実測調査してまわり、全くの独学で庭をつくったのだ。師を持たない三玲は、同時代の研究者やアーティストとの交流が、互いの創作活動に影響を与えていた。彫刻家イサム・ノグチもその内のひとりで、書院にはイサム・ノグチ作の照明器具が飾られています。重森三玲は、庭という表現手法で日本美の「根源」を追い求めたアーティストだったのだろうという話を伺った。

三玲は特に枯山水・石庭を好み、石へのこだわりは強かった。庭石は直接産地に赴き厳選したものだ。水墨山水画に似た表情がでることから、徳島県阿波の青石を好んでよく使っていたという。「石に乞わん(石の乞わんに従う)」という平安期の言葉をモットーに、石と対話をし石組みすることを心得ていた。石の求めに応じて据えられた石は、海上に浮かぶ理想郷を表している。

重森三玲の庭は、時が経っても未だ寂びることなく、現代に生きる私たちの心を掴んでいる。まさに三玲が唱えた「永遠のモダン」を体現し、作者の感性や哲学が凝縮された作品だといえるだろう。

「重森三玲庭園美術館」では、館長の重森三明さん他が丁寧に解説をしてくださります。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。
観覧は完全予約制です。電話・FAXまたはメールにて必ずご予約をお願いします。

【KABlogライター】
山田愛 Ai Yamada
1992年 京都の石屋に生まれる/2014年 京都精華大学 デザイン学部 グラフィックデザインコース 卒業/2017年 東京藝術大学 美術研究科 先端芸術表現専攻 修了/展覧会・イベント企画運営/ライター/美術家/愛石家 ●水石専門雑誌 『月刊愛石』連載コラム「やっぱり石が好きっ」 http://ai-seki.com/ ●公式ブログ『山田愛の石活ブログ』 https://yamadaai.com/

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【施設概要】
重森三玲庭園美術館(重森三玲邸書院・庭園)
公開日:通常、火曜~日曜の午前11時、午後2時
休館日:月曜休(祝日の場合も休館)
場所:京都市左京区吉田上大路町
見学料:
庭園・書院+茶室入室見学=1000円(10月、12月~3月中旬)庭園・書院+茶室を外から見
学=800円(3月下旬~9月、11月)庭園・書院のみ見学/茶室見学なし=600円(通年)
★予約観覧制
見学申込みは電話、Fax、メールで受け付けております。 Tel.&Fax : (075) 761-8776
E-mail : shima753@hotmail.com
公式HP
詳細はこちら
http://www.est.hi-ho.ne.jp/shigemori/

Ai Yamada

Ai Yamada . 1992年 京都の石屋に生まれる/2014年 京都精華大学 デザイン学部 グラフィックデザインコース 卒業/2017年 東京藝術大学 美術研究科 先端芸術表現専攻 修了/展覧会・イベント企画運営/ライター/美術家/愛石家 ●水石専門雑誌 『月刊愛石』連載コラム「やっぱり石が好きっ」 http://ai-seki.com ●公式ブログ『山田愛の石活ブログ』 https://yamadaai.com ≫ 他の記事

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