岡島飛鳥 インタビュー

境界線上のアーティストであること

In インタビュー by Makoto Hamagami 2017-10-26

 
ドイツの首都ベルリンは、ヨーロッパの中でも芸術の街として呼び声高く、美術館やギャラリー、音楽ホール、劇場が街中のいたるところに点在する、アートの土壌が大変豊かな場所です。近年では、世界中から若いアーティストやミュージシャン、クリエイターが集い、力強いエネルギーによってアートが次々と生み出されている場所であると言えるでしょう。今回は、そんなアートの街ベルリンより記事をお届けします。

インタビューしたのは、今秋ベルリンに滞在し活動を展開する、アーティストの岡島飛鳥さんです。岡島さんは、これまでに東京やプラハ、現在は京都を拠点に、ドローイングやアニメーション、彫刻、インスタレーション等を制作し、日本やヨーロッパ各地で作品を発表するほか、2017年4月より出版社SEA SONS PRESSを立ち上げるなど、様々なジャンルの境界を行き来するような活動をされています。

アーティストとしての自身の表現に向き合いつつ、パブリックでインディペンデントな仕事の方法や生き方を模索する彼の活動は、ベルリンという街を舞台にどのように展開されていくのでしょうか?

 

 
 

アーティストがベルリンに来る理由

——今回ベルリンに来られた理由は何ですか?

僕自身の個展を開催することと、本の売り込みをするためです。今回、ベルリンには3週間程度滞在します。

 

——アーティストとしての活動から、出版社としての営業まで。それを聞いただけでも活動の幅広さのようなものを感じますが、現在の岡島さんの活動について教えてください。

現在は、僕個人でのアーティストとしての活動と、今年始めた出版社SEA SONS PRESSとしての活動と、二つの大きな柱があります。アーティストとしては、ドローイングや彫刻、アニメーション、インスタレーションなど様々な媒体での作品制作をしており、出版社としては、アートブックや絵本を中心に、企画制作から印刷、製本、流通まで、今のところ全て自分たちで行っています。

活動の特徴として、様々なことを、しかもジャンルの特定が難しいような場所でやっているということがあり、多少これまでを振り返っての説明をさせてください。もともとは美大で彫刻を専攻していましたが、卒業後は思うところがあって一度制作をやめていました。その後、アーティストとして再スタートするのですが、止まっていた期間のブランクを埋めるように1日1枚のドローイングを描きはじめました。そのときは、制作環境や生活スケジュールに無理のない範囲で、身近なところからの制作というものを考えていたため、ウェブ媒体を使って発表することはあっても、なかなか展覧会に出品するようなこともなくて。その2年間くらいは、今思えば作家としては少し閉じこもったような期間でした。そのあと、チェコのプラハに渡ることになり、作家のアシスタントをしながら自分の制作活動をしていました。そこから急激に制作や展示のペースが上がり、外へ出て行く機会も増え、自然と作品の規模やアイデアの幅も広がっていきました。それと同時期に、チェコの街中で見かける絵本や本の文化から強い刺激を受けました。「自分の表現に合った作品の形は何か」ということをずっと模索していた自分にとって、“本”という形との出会いは新鮮であり、不思議としっくり来ました。そのときから自分でも本をつくろうと思うようになり、プラハから京都に拠点を移したあと、2017年4月より出版社としての活動もはじめ、現在、自分の作品と出版物を携えてベルリンに来ている、という感じです。

 

 
 

——ベルリンは、アートや文化が盛んな街として、世界中から若いアーティストが集まってくる場所ですよね。岡島さん自身は、ベルリンという街についてどう感じていますか?

僕自身がアーティストだから特に感じることかもしれませんが、ベルリンは、アートが人々と本当に深いところで結びついている街だと思います。この街の人はみんな、息を吸うようにアートに触れながら生活しているような感じがあって、まずそれが自身にとって強く刺激を受けているところです。例えばベルリンの壁に描かれているグラフィティや、街角で行われている様々なイベントやライブパフォーマンスにも見られるかもしれませんが、ベルリンにあるアートはインターナショナルかつオルタナティブだと感じます。そして、ベルリンの人々がそれらを「わたしたちのアート」として受け入れている。そういう土壌があるからこそ、この街を舞台にアーティストたちが思いのままに表現意欲を噴出させることが出来て、まるで強いエネルギーの発生源のような場所となっているのではないかと思います。アート以外の部分で言っても、それぞれの人が自分のスタイルを持って生きられる場所だなと感じます。自分に合ったリラックスの仕方をそれぞれが知っているというか。そういうゆったりとした空気感がありつつも、しかし歴史的・社会的な背景によるヒリヒリとした緊張感もそこに同居していて、そんな一見相反する二つのものが一体になっているような雰囲気にも強く惹きつけられています。

 

 

イメージの中を泳ぐ

——まず、ベルリンでの個展についてお伺いします。会場となる「sowale」は、日本人のご夫婦が2016年から営んでいるステーショナリーショップということですが、この場所で個展を開催することになった経緯について教えてください。

プラハに住んでいた時に、ベルリンに住んでいる友人を訪ねて行ったことがあって、そこでオーナーご夫婦を紹介してもらったのが始まりです。展示会場となるsowaleは、ステーショナリーショップなのですが、ドイツ語では Papierwarenladen(紙関連)という風に看板を掲げています。オーナーさんもご自身で写真集や詩集を制作されているアーティストの方であるということと、僕自身も制作には紙をずっと使っていることや、前々から紙や本、印刷物などにすごく興味をもっていたので、この場所で展示してみたいと思いました。sowaleがある旧東ベルリンのプレンツラウアーベルクという地区は、家族連れが暮らす穏やかな場所であると共に、多くのアーティストが暮らしており、アートシーンとしても面白いエリアです。

 

 
 

——展示タイトルは”NIGHT SWIMMING”ということですが、今回展示している作品について教えてください。

今回の展示に向けて新作を作ろうと思ったときに、まず“NIGHT SWIMMING”というタイトルが先にありました。僕の制作は、タイトルが先に浮かんできて、その言葉の響きに対して僕自身が持っているイメージに向けて作品を形にしていくことが多いです。もともとこのタイトルは、高校生くらいのころからずっと好きだったR.E.Mというアメリカのロックバンドの曲《NIGHT SWIMMING》から来ています。この曲のシンプルで詩的な風景に対して、個人的に感じるイメージを作品にしてみようと考えて制作を始めました。“NIGHT SWIMMING”という言葉には、まず “夜に泳ぐ”という文字どおりの意味がありますが、さらに僕が今回の制作にあたって新たにイメージしたのは、例えば、人が眠っている間に脳の中の記憶を整理すると言われるように、そういう意識の底の方へと深く潜って行くような、あるいは、記憶という方向感覚が分からない夜の海の中をただただ静かに泳ぐようなイメージです。

制作は、ガラス板にインクを乗せてそれを紙に転写する、モノタイプという版画技法を使った試作から始めました。その途中、インクをたくさん乗せすぎて、大きなシミが出来てしまうという失敗があったのですが、その時に紙とインクが自然に作り出したシミが面白く感じられて、それを何枚も刷ってみました。夜の水面に映る月の光や、水中の景色や水の中の生物であったり、生き物の始まりのように2つのものがくっついてはまた離れて分裂したりしていくような、そういうものに見えて来て、いろいろなものにイメージが広がっていきました。

 

 
 

——NIGHT SWIMMINGの作品、そして今回展示されているもうひとつのドローイング作品群にもまた、無意識的な感覚やシンプルでミニマルな独特なイメージの捉え方があるように感じます。

ドローイング作品群《a day》は、2014年から2016年にかけて1日1枚描いていたものです。大抵が朝起きて一番に描いたものなのですが、毎日続けて描いていると、徐々に形も考えることもシンプルでミニマルになっていくというか、どんどん余分なものが削ぎ落とされていって、最終的には一筆描きのようなラインのドローイングへと変化していきました。無意識的な感覚というところで言うなら、例えば、友達と電話をしながら、いつのまにか手元にある紙とペンでぐりぐり落書きをしていることってありますよね。そういうものに意外と面白い線があったりするので、自分が描いた落書きを捨てずに集めておいて、そこからヒントをもらって描くこともあります。もともと自分が描いたものだけど無意識の形だし、でもそれが後から見て何かの形に見えてきたり、誰かにとって別の形に見えたり。そういう“意味”になる一歩手前のギリギリのところ、言葉未満のものでありながらも、人と共有できるような感触に向けてイメージを形づくりたいと考えています。

 

 
 

——今回展示されているドローイングや版画は平面の作品ですが、平面の中にとどまらない雰囲気というか、空間に対する観察のようなものを感じます。それについてはどうですか?

例えば、今回の《NIGHT SWIMMING》の作品は、紙がインクに触れて、自然と紙が伸び縮みして、よれて、インクが紙に吸い付くことで模様をつくるのですが、絵を二次元的に描いているというよりも、紙やインクがもつ物質としての性質、それらが合わさることで関係しあって少しずつ変化していくという、三次元的な感覚を使って制作している感じが強いです。これは、僕がもともと彫刻を学んだことも大きいと思いますが、「絵を描く」というよりも「ものをつくる」という感じでしょうか。先ほどの“無意識”に関する話にも共通しますが、自分の意図の外側から起こってしまった予期せぬこと、普通だったらノイズだと思えるようなことを、作品がもつ言葉としてどこまで受け入れることができるか、ということに対して毎回チャレンジしているところがあります。そのような意味でも、ものをよく観察することや、ものに注意深く接することの繰り返しのようなものが、自分の制作ではすごく重要なプロセスです。

 


 
 

海を越える出版社

——2017年4月より出版社SEA SONS PRESSを始められたとのことですが、きっかけは何だったのでしょうか?

SEA SONS PRESSは、「海を越える出版社」というテーマをもとに始めました。はじまりは本当にひょんな思いつきで、ある日曜日の昼間に、「もし自分が出版社にするとしたらなんていう名前にしようかな」と考えてみたことでした。もともと“SEASONS”(四季)という言葉が好きだったので、この言葉を入れてロゴマークのイメージを落書きしていた時に、“SEA SONS PRESS”と3段に分けて書いてみたら、SEASONS(四季)からSEA SONS(海の子たち)という新たな意味が生まれて。それが自分的にとてもしっくり来たので、この名前で出版社をやろう!となりました。

 

——作品制作の時にタイトルから決めることが多いとおっしゃっていましたが、SEA SONS PRESSもまた、名前から先に決まったのですね。

そうなんです。名前が決まるとそこからの動きはかなり早くて、その日のうちに第一弾の本の構想が出来上がり、翌日にはロゴデザインやウェブサイトの準備が始まりました。ウェブドメインを取得し、まだ本が出来ていないのに出版社のニュースレターをつくりました。家にある壊れかけの印刷機と、拙い経験と、それぞれの個性を材料にして、しっかりとした準備なども特にないままにとにかく始まってしまった、そういう感じです。

 

 
 

——「海を越える出版社」というコンセプトは、すごくスケールが大きいですね。

この「海を越える」というコンセプトもまた、SEA SONS PRESSという名前が決まったことによって、あとから生まれて来たものだと思います。そういう意味でもSEA SONSという名前が孕んでいる可能性はかなり大きいのではないかと期待しています。また、本の第一弾の構想を練っている時から、「海を越える」ということを前提に本をつくってみようと考えていました。本や出版というものには言語の制約はつきものですが、グローバル化が進み続けるこの世界を対象にした本作りを念頭に置くというか。自分がつくった“本”という乗り物に乗って、どんどん海を越えていきたいと思っています。

 

——今回実際に制作された本を携えて、京都からベルリンへと海を越えてみていかがですか?

本をベルリンの書店やギャラリーに持ち込んでみると、思っていたよりもお店の人の反応は良く、面白がってくれることが多かったので嬉しかったです。割とどこの国にも本や書店はあるものだし、本という形自体が人々にとってある程度馴染みのあるものだからよかったのかもしれません。それに、本というメディアは、送るのも持ち運ぶのもそんなに手間がかからないし、けれどウェブにはない確かな手触りがあります。だから、お店の人たちに実際に自分たちの本を手に取ってもらうことで、自然なコミュニケーションが生まれる感触がありました。ベルリンにはMottoをはじめとするコンセプチュアルなアートブックばかりを扱っている書店や、ヒッピームーブメントを背景にもつような、オーガニックや自然との繋がりに重きを置いたアートブックショップのように、ドイツらしさを感じるような個性的な書店がたくさんありました。そういう場所で自分がつくった本をどう受け取ってもらえるかを計るのは難しいですが、「海を越える出版社」である以上、国によって本を取り巻く環境が違うということを意識しながら制作をすることが大切だし、そこに新たな制作のヒントあるのではないか、と今回の経験を通して感じています。

 

 
 

——最後に、今後の岡島さんの活動について教えてください。

アーティストとしての活動がもともとあって、そこに出版というものが掛け合わさることによって、出会いや活動の幅が広がったり、新しいアイデアが生まれてくれるだろうと期待しています。僕自身の制作として、ずっと“言葉とイメージ”みたいなものを大切にしてきたので、それが自然な形で出版というものにたどり着けそうな感覚があります。また、出版という形を取り始めたことで、文字や言葉が入って来たり、もしくは色々な人と関わることになったりと、自身の活動もより公共性が高いものになってきています。これから自分がやることは、まずは「本」をつくることです。そして、その先にそれをインスタレーション表現など、空間の中へ広げていきたいと考えています。

 

——ありがとうございました。

 

・・・
彫刻というところを出発点に、ドローイングや版画、インスタレーション、そして本。様々なジャンルの境界線上に位置するような自分の表現に、時折居心地の悪さを感じることもあったという岡島さん。ですが、そのようなポジションに留まり続けるからこそ、彼独自の表現や、アーティストとしての生き方が導き出されているのではないかと感じました。彼の作品を見たり、また、本のページをめくりながらアートについて話すベルリンの人々の光景からは、この街の熱をさらに高めるようなエネルギーが生まれているように思われました。

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岡島飛鳥
1989年生まれ。東京藝術大学を卒業後、2016年より1年間チェコ・プラハにて活動。現在は京都を拠点に、日本・ヨーロッパでドローイング、アニメーション、本や彫刻作品の制作・発表や、印刷媒体への作品提供などを行っている。
http://siki.tokyo/
http://sea-sons-press.com/

【連載中】
HOMEWORK
English School “Bells and Whistles”にて
http://eigokyoshitsu.info/bells_and_whistles/

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Makoto Hamagami

Makoto Hamagami . 1992年三重県生まれ。大学時代を京都で過ごし、美学芸術学及びアートマネジメントを学ぶ。その後、チェコのアートスタジオに勤務。現在は京都にて多様な背景をもつ人々と協働しながら、芸術、言語、社会とその周辺について、プロジェクト、ワークショップ等の企画・コーディネートを行っている。神戸大学大学院国際文化学研究科在籍。 ≫ 他の記事

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