チルドレンズ・チョイス・アワード in KYOTO EXPERIMENT 2017

アート・フェスティバルで展開される、ソーシャリー・エンゲイジド・アート

In トップ記事小 フォトレポート by Makoto Hamagami 2017-10-28

 

現在開催中のKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2017。2010年の秋からはじまり、今回で第8回目を迎えるこのフェスティバルでは、毎年世界各地の先鋭的な舞台芸術が紹介されるとともに、地域に根付いた芸術祭として、文化的・社会的役割も年々高まりつつあるように思われます。そんなKYOTO EXPERIMENTが今回実施する先進的な取り組みの一つとして、カナダのアート&リサーチ集団、ママリアン・ダイビング・リフレックスによる公式プログラム『チルドレンズ・チョイス・アワード』があります。

このプログラムでは、京都市の錦林小学校の子どもたちがKYOTO EXPERIMENT 2017の公式審査員としてVIP待遇で参加し、自分たちの目ですべてのフェスティバルの公演を鑑賞し、自分たちでオリジナルの賞を生みだし、自分たちの選択基準で選んだ作品に賞を贈ります。

そのような説明を一聞すると、『チルドレンズ・チョイス・アワード』は子どもを対象とした芸術教育プログラムのように感じられるかもしれません。しかし実際のところ、このプロジェクトは子どもをとりまく大人たちをも「参加者」として巻き込んだものであり、芸術を通して現代の社会状況へと踏み込む、いわゆる「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」という文脈から考えることもできるのではないでしょうか。

 

 

ソーシャリー・エンゲイジド・アートとは

そもそも、ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)とはどのようなアートなのでしょうか。1990年代以降、芸術界の枠を離れて社会との実質的な関わりを求め、人々との協働によって社会のもつ課題に取り組もうとする表現活動が見られるようになりました。2000年代に入ると、伝統的な美術の枠組みを超えた、より実践的な活動が世界各地で展開されるようになり、それらは今日SEAをはじめとする様々な名称で呼ばれています。SEAでは、作品はアーティスト個人の手によって制作されるのではなく、対話、行為などを通して参加者と共同で制作されることが特徴としてあげられます。また多くの場合、完成した作品よりもその制作過程に重きをおき、現代社会が抱える多様な問題に対して、参加者との対話や関係性を構築しながらアプローチしていきます。

『チルドレンズ・チョイス・アワード』の企画及びナビゲーションを行うママリアン・ダイビング・リフレックスは、SEAの先進的な実践者として、現代アートやSEA研究の文脈の中でも広く紹介されている、カナダを拠点とする集団です。1993年に作家、脚本家、パフォーマンス・アーティストであるダレン・オドネル氏によって設立され、2003年まではオドネルの舞台パフォーマンスを中心に活動していましたが、伝統的なヨーロッパ演劇に限界を感じたオドネル氏は、芸術の社会的な役割を意識し、「人々はお互いにどのように関わりあえるか」をテーマにアプローチの幅を広げようと考えました。そして現在は、学校や老人ホーム、地域組織、国際アートフェスティバルなどとコラボレーションし、“社会の鍼治療(Social Acupuncture)” と称する、挑発的で遊び心にあふれた参加型プロジェクトを世界各地で行っています。

 

 

『チルドレンズ・チョイス・アワード』授賞式までのプロセス

それでは、『チルドレンズ・チョイス・アワード』授賞式までの流れを見てみたいと思います。プログラムは、主に3つのパートに分かれています。
 
①ワークショップ
まずは、フェスティバル開幕前に実施される、4日間の子どものためのワークショップ。子どもたちは、ママリアン・ダイビング・リフレックスのアーティストらと交流しながら、社会における芸術の役割や、社会における自分たちの立場について考えると共に、『チルドレンズ・チョイス・アワード』での「アーティストとしての子ども審査員」の役割について学びます。また、さまざまなアートのあり方を話し合った上で、アーティストたちにどんな賞をあげたいかを考え出します。そしてノミネートする賞が出揃ったところで、授賞式に受賞アーティストへと渡すトロフィーをつくります。

 


 


 

 

 

②作品鑑賞
次に、フェスティバル開幕期間中の公演鑑賞があります。審査員Tシャツを着た子どもたちは、VIP専用バスに乗って会場に到着すると、彼らのために敷かれたレッドカーペットの上を歩いて劇場へと入ります。子どもたちは、それぞれ公演を鑑賞し、自分たちが感じたことや疑問に思ったことをメモします。また、公演前後に行われるアーティストとの交流会では、アーティストに対して様々な質問や意見がなされます。「公演は何人くらいでつくったのか」「なぜそのような演出や表現をつかったのか」「どうして表現したいと思ったのか」など、アーティストと子どもの対話は非常に率直であり、時には真をついた言葉が飛び交っているのが印象的でした。

 


 

 

 

 

③授賞式
そして、プログラムの最後を飾るのが、『チルドレンズ・チョイス・アワード』授賞式です。授賞式は、KYOTO EXPERIMENT最終日である11月5日(日)に、ロームシアター京都 サウスホールにて開催が予定されています。子どもたちは、自分たちで決めた賞の受賞者たちに、壇上で受賞理由を読み上げ、手作りのトロフィーを手渡します。

 

 

大人の社会は子どもたちをどのように受け入れるか

このような『チルドレンズ・チョイス・アワード』のプロセスを通して、ママリアン・ダイビング・リフレックスがやろうとしていることは、一体何なのでしょうか?

まず、KYOTO EXPERIMENTをはじめとするアート・フェスティバルは、大人たちによってアーティストが選出され、大人たちによって運営されているため、「何がグッド・アートか」ということもまた、大人の価値観で決められたものであるとも言えます。このプログラムでは、そのような“大人と子ども”という社会の一方向的な権利関係に注目し、子どもたちを「大人の場」に介入させることによって、一時的にその関係性を変化させようという試みがなされているのです。

具体的には、子どもたちは「審査員」という現実の権利をもち、自分たちがいいと思うアートは何か、ということについて自分たちで選択し、判断を下さなければなりません。反対に大人たちは、子供たちを「VIP審査員」として扱い、また、出演者たちは子どもたちによって審査されます。このような、普段とは少し違う“大人と子ども”の関係性は、両者にとって多少落ち着かない状況となります。そういった状況の中で、大人と子どもが共に時間を過ごし、対話を繰り返すことで、その新しい関係性を受け入れるために互いに変化していく。つまりこのプログラムでは、「文化イベント(=大人の社会)が子どもたちをどう受け入れるか」ということが問い直されているのかもしれません。

 

 
ソーシャリー・エンゲイジド・アートの核は、人々が「鑑賞者」ではなく「参加者」として関わり合い、共に時間を過ごすことであり、そのような社会的相互作用(social interaction)が不可欠な要素としてあります。そのような意味では、KYOTO EXPERIMENTの運営者や出演アーティストもまた、このプログラムの参加者なのです。そして、KYOTO EXPERIMENTの関係者だけでなく、普段は「鑑賞者」である私たちもまた、「子ども審査員」という存在を「大人」という立場から意識することで、このプロジェクトの「参加者」となり得るのではないでしょうか。子ども審査員たちと同じ空間で公演を観賞したり、あるいは『チルドレンズ・チョイス・アワード』授賞式に足を運んだりすることで、普段とは違う関係性の中で一時的に子どもたちと過ごし、芸術や社会について共に考えることができるかもしれません。

KYOTO EXPERIMENT 2017もいよいよ終盤へ向かい、ますます盛り上がりをみせています。それに合わせて、子ども審査員たちによる審査も着々と進んでいます。KYOTO EXPERIMENT2017のラストを飾る『チルドレンズ・チョイス・アワード』授賞式へ、子ども審査員たちの勇姿を見に、また、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの「参加者」として、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
 
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【開催情報】
ダレン・オドネル / ママリアン・ダイビング・リフレックス
『チルドレンズ・チョイス・アワード』授賞式

11月5日(日)17:00時から
ロームシアター京都 サウスホール
入場無料
https://kyoto-ex.jp/2017/program/the-childrens-choice-awards/
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ママリアン・ダイビング・リフレックス Mammalian Diving Reflex
http://mammalian.ca/

Facebook:https://www.facebook.com/mammaliandivingreflex/?fref=ts
Instagram:https://www.instagram.com/mammaliandivingreflex/

現在来日中のママリアン・ダイビング・リフレックスによって、KYOTO EXOERIMENT2017 『チルドレンズ・チョイス・アワード』の日々のレポートが更新されています。こちらもぜひ併せてご覧ください。
https://childrenschoiceawards.blogspot.jp/

Makoto Hamagami

Makoto Hamagami . 1992年三重県生まれ。大学時代を京都で過ごし、美学芸術学及びアートマネジメントを学ぶ。その後、チェコのアートスタジオに勤務。現在は京都にて多様な背景をもつ人々と協働しながら、芸術、言語、社会とその周辺について、プロジェクト、ワークショップ等の企画・コーディネートを行っている。神戸大学大学院国際文化学研究科在籍。 ≫ 他の記事

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